唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

Get Mild.

タコシェで既刊『唐沢俊一検証本VOL.1』『唐沢俊一検証本VOL.2』『トンデモない「昭和ニッポン怪人伝」の世界』『唐沢俊一検証本VOL.3』『唐沢俊一検証本VOL.0』「唐沢俊一検証本VOL.4」の通販を受け付けています。タコシェの店頭でも販売しています。
・初めての方は「唐沢俊一まとめwiki」「唐沢俊一P&G博覧会」をごらんになることをおすすめします。
・当ブログにコメントされる場合には誹謗中傷および個人を特定しうる情報の掲載はおやめください。守られない場合には厳正に対処する可能性があります。
・1970年代後半に札幌でアニメ関係のサークルに入って活動されていた方、唐沢俊一に関する情報をご存知の方は下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
karasawagasepakuri@yahoo.co.jp



●『コミックビーム』11月号掲載の唐沢よしこ『オトナでよかった! ヤング館』に書かれていた唐沢なをき・よしこ夫妻のご子息のオタクっぷりに笑ってしまった。「そっち?!」という感じで。俊一おじさん! オタクのDNAはちゃんと受け継がれましたよ! 『まんが家総進撃』3巻は今月24日発売! みんな買おう!



●前回取り上げた『ブレーン』2月号の座談会「青山デザイン会議」の後半部分に以下のようなくだりがある。『ブレーン』P.91より。

唐沢 アニメもコスプレも、当時その手の文化の代表だったSFの本流から弾かれた背景がある。そういうコンプレックスが原動力になって発展してきた。今のオタク文化から忌み嫌われているところに注目するといいのかもしれないね。オタクに限らないけれども、日本の文化は偏狭から生まれる法則がある。


佐藤(引用者註 大)  そのロジックでいうと今ヤンキー文化が来てますよね。オタク文化カウンターカルチャーという印象です。


柳田(引用者註 有一)  オタクとヤンキーは共通点が多い。


唐沢  両者とも混沌(カオス)が好きなんですよね。

唐沢  (前略)そういう正気を逸するほどのエネルギーだからこそオタクは強靭なパワーを持っているんですよ。


 この座談会に出てくるオタクとはキャラの成長にいちいち文句をつけるような人種だったはずだが、カオスが好きだったとは。ヤンキーも上下関係には厳しいと聞くが。…っていうか、オタクやヤンキーに限らず若い頃はカオスというか「よくわからないもの」に惹かれるものではないだろうか。それと、「正気を逸するほどのエネルギー」なるワードには唐沢俊一の狂気への憧れが見えるようで興味深い。「正気つまらない! 狂気すごい!」という人は今でもたまに見かけるが、正気を保つのもなかなか馬鹿にできたことではないように思うし、俺の場合はアラフォーになったせいか「狂気つまらない」モードに入りつつある。いくらデタラメの限りを尽くそうと多寡が知れている、というか。単に老化しただけかもしれないが、個人的にもともと狂気に憧れる気分を持ち合わせていないということもある。そう考えると、唐沢さんはお若い。


 上の部分を読む限り、座談会ではオタクとヤンキーには共通点が多い、ということになっているようである。原田曜平『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)でも、ヤンキーの中にオタク向けのアニメを好んで見る層がいると書かれていたっけ。


 これに対して、オタクとヤンキーは別物である、と主張しているのが岡田斗司夫である。中央公論』2014年10月号掲載のインタビュー「そしてヤンキーもオタクもマイルドになった」の冒頭で岡田は次のように語っている。『中央公論』P.126より。

 僕は「オタキング」なんて呼ばれて、これまで自他ともに認めるオタクとして人生を歩んできたんですが、最近人生戦略を変えたほうがいいかもしれないと思っているんです。
 というのは、世の中全体がヤンキー化しているから。損得でいうと、これからはヤンキー系の生き方を選択したほうが得なんです。世間では、昔のヤンキーと区別して、「マイルドヤンキー」と呼んでいますが、ヤンキーというのは、ちょうどオタクと対に位置づけられる存在です。このマイルドヤンキーがどんどん増えていて、オタクは形勢不利になっている。(後略)


 多数派の方が得だと思うのなら最初からオタクにならなきゃよかったのに。昔の方がずっとオタクへの風当たりは強かったのにね。少数派であることを弱みと考えずに希少価値と捉えるくらいじゃないと「戦略」とは呼べないような。


 同誌P.126より。

 現在増えているマイルドヤンキーというのは、地元万歳、日本万歳で、ワールドカップやオリンピックなどのナショナルイベントが好きな新保守層のことで、現政権にも好意的です。
 対してオタクというのは、何でも突き放して見る性分なので、アベノミクスといっても、基本は増税と公共事業で、別にわれわれ庶民の暮らしが楽になるわけじゃないでしょという感性の持ち主です。でも、そのアベノミクスが人々の心を掴んでいる現状があって、マイルドヤンキーが、支持層のひとつなのは間違いない。政治家も無視できない規模の層になっているんですね。


 この言い方だと「ヤンキー=馬鹿」「オタク=利口」としか読めない。あまり言いたくはないことだけど、オタクにも考えの浅い人はいくらでもいるって。唐沢検証をしていてそれがよーくわかった。あと、岡田によるとアベノミクスの基本は「増税と公共事業」とのことだが、それなら昨年11月(このインタビューが発表された2ヵ月後)に消費増税を先送りにした時点でアベノミクスは失敗したことになるのではなかろうか。


 P.126〜127より。

 なぜ、マイルドヤンキーが現政権と親和的なのか。理由は二つあります。ひとつは家族を大事にする感性です。自分たちのおじいちゃん、おばあちゃんは偉かった。ファミリー最高という考えですね。あとは気合主義。アベノミクスの何が凄いのかというと、そのネーミングです。僕は個々の政策の是非うんぬんよりも、言葉に注目しました。安倍政権がどうやって日本を立て直すのかというと言葉なんです。「アベノミクス」「三本の矢」。すごくキャッチーです。たとえ中身を理解していなくても、なんとなく響きがかっこいい。あれは要するに気合です。言葉を使って、「いけるぞ」というムードを作り出す。すごくヤンキーと親和的です。オタクの場合、根拠は? 財源は? と、スペックが気になる性分ですが、ヤンキー的感性では「『三本の矢』かっけー」で終わりですから。

 だから、この言い方だとヤンキーが馬鹿だとしか思えない…。しかし、「アベノミクス」ってそんなにキャッチーな言葉なのだろうか? 歴代の政権はキャッチフレーズを打ち出していて、第一次安倍政権も「美しい国」とやっていたし、鳩山由紀夫の「友愛」が流行語大賞を獲ったのは記憶に新しいところで、それらが「アベノミクス」より見映えがしないとは言えないように思う。「個々の政策の是非うんぬん」について語るだけの能力がないから言葉に注目するしかないのでは? と意地悪なことを考えてしまったが、あのオタキングがそんな「気合」だけで語るヤンキーのような真似をするわけもないよね、うんうん。
 それから、岡田によると「ヤンキー的感性では「『三本の矢』かっけー」で終わり」だそうだけど、それを言うなら「オタク的感性では「『三本の矢』萌えー」で終わり」になるのではないか。岡田さんが死を宣告したオタクってそんなもんなんじゃないの? あと、オタクだって「家族を大事にする感性」は持ち合わせている、と念のために書いておく。
 

P.127より。

 そもそもマイルドヤンキーは自分たちのファミリーの延長線上にあるリーダーの悪口を言うことが生理的に受け付けられません。「俺達の兄貴、先輩最強」という感じで、首相もその延長線上に位置づけられるわけです。野党に対する過剰な嫌悪感もその辺から来ています。あいつらは敵だ、俺達のファミリーじゃないということですね。


 ヤンキーとネット右翼がゴッチャになっていないか? もっとも、ネトウヨのみなさんは日本政府が中国や韓国に多少宥和的な態度をとると政府を激しく攻撃するので、彼らが安倍政権を支持しているというのも必ずしもそうとは言い切れないように思う。
 それから、他ならぬ岡田斗司夫自身がリーダーとして批判を受け入れられていないんじゃないの? という疑念がある。「オタキングex」の運営に対する批判はネット上で散見されるし、そもそも「OLD PINKお見合いオフ事件」(2011年1月18日の記事を参照)を起こしている人だしなあ。リーダーとしての適性を疑わざるを得ない。


 P.127より。

 最近、世間のヤンキー化を強く感じたのはワールドカップの時。代表チームに批判的なことを言うと、逆にすごく批判されました。八〇〜九〇年代、価値観が多様化して「分衆の時代」なんて呼ばれていた頃は、メジャーなものを悪く言っても、人それぞれだよねということで済んだんです。でも、今は主流のもの、大きいものを悪く言うことが許されない空気になってきている。みんなで応援しているものを悪く言う奴は敵なんじゃないかという空気です。


 「ドーハの悲劇」の時にも、伊集院光「ラモスがまさおに戻っちゃうね」と他愛のないジョークを飛ばしたらニッポン放送に抗議が殺到した事件があったから、人気のあるものをイジって怒られるのは90年代にも当たり前にあったことだろう。


 P.127より。

 だから、いちいち大きなものに抗うよりは、メジャーな流れに乗りながら、自分が賛成できるものには個別で賛成していって、信頼できる友達や家族には、自分の考えをしっかり伝える方向にしたほうが生きやすいし、得です。オタクにはそれが難しいんですけどね。なぜかというと、ヤンキーというのは、生まれた時からまわりにあった、地縁や血縁、伝統、縦のつながりを重視する種族ですが、オタクというのは、成長していく中で育んだ自分の価値観を大事にする種族ですから。世間よりも、自分の価値観が大事なんです。


 最近では親子二代でオタクというのも珍しくない。山本弘氏の娘さんもしっかり(?)オタクになったようだし。岡田さんの娘さんがどうなったのかは知らないが、オタクになったのか以前に愛人騒動のことを考えて気が重くなる。結局のところ、オタクになるにせよヤンキーになるにせよ、生まれ育ちに多分に影響されてしまうことには変わりないのではないだろうか。あと、岡田さんの言い方の背景には「オタクは家族とうまくやっていけない」という思い込みがあるように感じられてしまう。上の方でもそんなことを言っているし。



 P.127〜128より。

 オタクは安定成長期の社会を背景に、一九八〇年くらいから誕生した「種族」です。当時の日本人は、ヤンキー系の人、オタク系の人、そしてそのどちらでもない普通の人、という三つの種族に分かれていました。


 え? じゃあ、『宇宙戦艦ヤマト』のファンってオタクじゃないの? いつものことながら「オタク」の定義がザックリしすぎ。「三つの種族」の分け方もザックリしすぎ。三つの種族に命令だ、ヤー!


 P.128より。

 そして、オタクもマイルドオタクになりました。「クールジャパン」なんていって政府が後押しするくらい、アニメやマンガが好きな人は増えているじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、今の「オタク」と、昔のオヤクは別種のものと僕は捉えています。マイルドオタクは自分の興味がある狭い分野の「オタク」でしかないんです。昔のオタク第一世代と呼ばれた人々は、ジャンル横断的な興味を持っていた。子どもっぽいと言われても、趣味に生きる人間としての教養を幅広く身につけたいという欲望があって、SF、鉄道、軍事など、オタク的と呼ばれるジャンル全般に対する知的関心があったんです。マイルドオタクは興味関心が細分化していて、それで満足しているんですが、昔のオタクというのは、教養として専門外のさまざまなジャンルのことを知っていたし、そういう知識を押さえていないと恥ずかしいという空気があった。だから、僕のようなオタク第一世代からすると、アニメにしか興味がありません、鉄道にしか興味がありませんという、今の「オタク」の人たちの感性はちょっと理解できないんです。昔のオタクはサブカルチャー教養主義とでも呼ぶべき空気のなかで生きてきた。仮にもオタクを自称するなら、クラークやギブスンのSF小説は読んでいないと恥ずかしいし、小松左京筒井康隆を知らない、「ガンダム」や「ヤマト」を見ていないなんて考えられない。富野由悠季宮崎駿の最新作は必ずチェックする。映画もアニメも見なきゃいけないし、本もマンガも読まなきゃいけない。オタクとして生きていくのは決して楽な道じゃなかったんですよ。


 まあ、『オタクはすでに死んでいる』での主張とそんなに変わらない話である。相変わらず教養への奇妙な思い込みもある(2010年10月16日の記事を参照)。…しかし、勉強不足は恥ずかしいことだと力説している割に、岡田はオタク業界の流行についていけないことを恥じている様子はないし、「オタク座談会」では冗談交じりではあるものの「俺くらいになると見なくてもわかる」と言い放っていたのだが。それに、最近のオタクに知的好奇心がないといかなる根拠で断定しているのかが謎。自分以外の人間は犬か虫だと思っている人だから他者を人間だと認識しているだけマシなのかもしれないね。


 P.128〜129より。

そして、いつか自分もクリエイターの側にまわるんだという気概があった。単純に作品を消費するんじゃなくて、「また、こんな凄い作品が出てきた。くそう、俺も早く作り手として名を上げたい」という気持ちがあったんです。
 ところが、今のマイルドオタクは完全に消費者になってしまった。自分が作り手になろうと思っている人は少ない。作品に触れても、「あー、面白かった」で終わりですね。昔のオタクは、ある種作り手をライバル視していたので、面白いと同時に悔しかったんです。みんなクリエイター予備軍だった。そして、社会から白眼視されても、子どもの時から好きだったものを大人になっても追い続けた人たちが、本物のクリエイターになっていったんです。(後略)

 「オタクはジェネラリストじゃなきゃダメ」「オタクはクリエイターにならなきゃダメ」とつくづく自己流の定義をする人だが、以前はプロのクリエイターより「プチクリ」の方がいいと言っていたんだけどなあ(2014年4月24日の記事を参照)。あと、岡田の言う通りならコミケの盛況はなんなのだという話にもなる。



 この後、現在の日本の裕福さに依拠しているマイルドヤンキーやマイルドオタクが日本が経済的に苦しくなった時に耐えられるか? という話になっていて、この辺りは熊代亨『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)にも通じる話になっているが、岡田はこんなことも言っている。P.130〜131より。

(前略)マイルドオタクは金がないと、自分の欲求を満たせないので、不景気の時には減っていきます。オタク的な生き方というのは、これから金のある一部の人々に許されたものになるでしょう。趣味には金がかかりますから。金がないオタクは趣味に生きることを諦め、「普通」の人になるしかない。経済条件に左右されるという意味でもオタクは不安定なんですね。


 この10年以上、日本はずっと不景気だそうだが、その間オタクは減っているのだろうか? それに金をかけずにオタク趣味を満足させるのは十分に可能である。個人的な話をしてしまえば、普段はアニメ観て特撮観て映画観て音楽聴いてマンガ読んでゲームして、という感じで特に金をかけずにオタクをやっていて別に不満はない。時々高価な買い物をするときは適当にやりくりして費用を捻出するが、それはオタクに限らず多くの方々がやっていることだろう。特典をコンプリートしなければオタクじゃない、とかソシャゲに○万円課金しなければオタクじゃない、とかそんなたわけた話もあるまい。むしろ他の趣味に比べても、基本的な道具を揃える必要もない分、オタク趣味はリーズナブルだと思う。金のない時はないなりに、金のある時もそれなりに、趣味を楽しめばいいだけの話を大袈裟に考えているのがよくわからない。


 P.130より。

 マイルドヤンキーは基本的に地元のことにしか興味がないですから。そうした人たちを統合するために、国家単位でのイベント、お祭りが定期的に必要になるんです。何であんなに躍起になってオリンピックを招致したのかも、どうしてこんなに反中反韓ムードが高まっているのかも、そう考えるとわかる。国家の生存本能です。経済的な発展だけでなく、国に対する忠誠心を維持しなければいけない。(後略)

 先の岡田の考察によれば、ヤンキーは安倍政権を支持しているそうだから、あえて統合する必要はないのでは。一般ピープル向けの政策としてならまだ理解できるが。


 P.130より。

(前略)自衛隊のCMにAKB48が使われていますが、彼女たちはヤンキー的な要素とオタク的な要素を併せ持った、まさに現代の象徴です。AKBのやっていることや組織はすごくヤンキー的なのに、拠点は秋葉原で、装いはオタク的。とてもうまい戦略ですし、そんな彼女たちが自衛隊の広報に使われるというのも実に象徴的です。

 いや、アイドルが自衛隊のポスターに起用されるのは以前からあったことだから、「AKBが一番人気あるから」と起用されただけの話なのでは。深読みするだけつまらない、というか「現代の象徴」などともっともらしいワードを入れながらその実特に意味はない文章である。AKBが「オタク的」というのもよくわからないなあ。組織が「ヤンキー的」というのを考えるといろいろ怖くなってきちゃうけど。



 以上。
 斎藤環『世界が土曜の夜の夢なら』(角川書店)を読んだ時にも思ったことだが、「ヤンキー」という言葉は便利に使われすぎである。岡田斗司夫の言い方だと「ヤンキー」はバカの言い換えにしか思えないし、斎藤の本を読んでいると日本人の大多数が「ヤンキー」だとしか思えなくなる。最近は「ヤンキー」よりも「反知性主義」の方が流行っているようだけれど、広く使われている便利な言葉を見ると胡散臭く感じてしまう。"Words don't come easy″ですよ。

 

 最初にざっと読んだ時には「なんだかヘンだなあ」程度だったのが、チェックしていくうちにアレな部分にどんどん気づいてしまうという愉しい作業だった。岡田さんの話を調べるといつもそうなる。ほんの一年前のインタビューではあるが、その間に例の騒動があったと思うとはるか昔の出来事のように思えてしまうし、岡田さんはオタクやヤンキーについて考えたり現代日本について考えるよりまず自分自身のことを考えてほしい。



バナナマン日村に演奏されると避けられない。


Get Wild

Get Wild

ブレーン2015年2月号

ブレーン2015年2月号

ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体

ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体

中央公論 2014年 10月号 [雑誌]

中央公論 2014年 10月号 [雑誌]

のはなしし

のはなしし

バビル2世

バビル2世

SCUDELIA ELECTRO

SCUDELIA ELECTRO

bananaman live Love is Gold [DVD]

bananaman live Love is Gold [DVD]

融解するオタク・サブカル・ヤンキー  ファスト風土適応論

融解するオタク・サブカル・ヤンキー ファスト風土適応論