それでも汽車は走る。
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●火曜日にTBS系列で放映された『ひるおび!』で唐沢俊一が出演していたが、いつも通りに用意されたクイズを出題していただけで、特に記すべき事柄もなかったので省略。
●『週刊ポスト』の大塚英志の文章を読んで「オタクとしての年の取り方」の難しさをあらためて感じた。大塚にしろ唐沢俊一にしろ岡田斗司夫にしろ結局「近頃の若い者は」式の論法に落ち込んでいくのはなんだか悲しい。3人とも流行に対して妙に苛立っているのもよく似ている。
●本題。今回は唐沢俊一・鶴岡法斎『ブンカザツロン』(エンターブレイン)第3章の検証の続きをやりつつ、唐沢俊一・岡田斗司夫『オタク論2!』(創出版)の検証もしてしまう。この2つの本では「鉄道オタク」の話題が出てくるのだが、鉄オタに対する唐沢(と岡田)のスタンスが実に興味深いのだ。
まずは『ブンカザツロン』P.125〜126、P.129より。
唐沢 (前略)鉄道オタクっていうのはオタクの中でも極めて濃いっていうふうに昔からいわれていて。(後略)
唐沢 (前略)しかしねぇ、女性はほんとにいないよねぇ。ここに着目して、鉄ちゃんの行動パターンとかを分析したジェンダー研究があるんですが、結局、放り投げてましたね。「わからん」と。でも、これは研究者として真摯な態度ですよ。オタクを変に攻撃しようとする奴らは、たいてい“オタクは女性がほとんど排除されている、ホモソーシャルな世界だ”とかいうトンチンカンなことを言いだす。(後略)
唐沢 (前略)とはいえ、鉄っちゃんはやはり大物だな。アニメや特撮の比じゃない、ディープな連中がザラにいる。
まず重要なのは、唐沢俊一が鉄道オタクが数ある「○○オタク」の中でもとりわけ濃い存在であると考えていることである。これは『ブンカザツロン』『オタク論2!』でも一貫している。
また、唐沢は鉄道オタクについて「女性はほんとにいない」と発言しているが、『オタク論2!』では女性の鉄道オタクが出てきたことを認めている(同書P.37)。『ブンカザツロン』が発行された2001年から『オタク論2!』に収録された対談の行われた2007年までの間に女性の鉄道オタクについて社会的な認知が進んだ、ということなのかもしれない。
それから、「ホモソーシャル」云々については、東浩紀・伊藤剛両氏の対談を指しているものと思われる(2012年7月17日の記事も参照されたい)。唐沢さんはホモソーシャルと言われるのが嫌なんだろうなあ。どうしてなのかは知らない。
では、ここでいったん『オタク論2!』の「鉄オタブームは来るか」(P.34〜46)に話を移す。同書P.35より。
岡田 鉄オタというのは、僕らにとっては目上のマニアという感覚ですよね。SFなどという、そんな子どもっぽい趣味ではなくて、もうワングレード高い本物の趣味人、という感じがします。
唐沢 もちろん、道を踏み外した人も多いんですが(笑)。趣味を持つのはいいことだという一方で、とかく鉄オタに関しては、家族から忌み嫌われたり、会社からは睨まれたりという、我々オタクが受けてきた偏見とは比べ物にならないような歴史を持っていて、もちろん独身率もメチャクチャ高い。会社のなかの交わりには絶対に顔を出さず、ちょっとでも空いた時間ができると鉄道に乗りに行ってしまう。
岡田斗司夫も唐沢俊一同様に鉄道オタクに一目置いていることがわかる。まあ、唐沢の語る鉄オタ像は極端すぎるような気もしていて、どうも唐沢には「オタク」と「社会人」は両立しないかのような思い込みがあるのではないか。
あと、本題とは関係ない発言だが、気になったので紹介。『オタク論2!』P.37〜38より。
岡田 昔は読書ですら「不良」と言われたくらいですから。遠藤周作のエッセイで、大正時代の文豪の書生が恋愛小説を読んでいたら「バカヤロウ、小説なんて下らないものは読むな」と師匠に怒られたんです。でも当時だから小説といってもフランス語の原書なんですよ。洋書読んでいて怒られるんですよ!
唐沢 小説というのは富国強兵には役立たなかったんですよ。国の意識で動くのだから個は必要ないということです。
…岡田が紹介している話は、呉智英『読書家の新技術』(朝日文庫)の中に出てくる、アナトール・フランスの小説を読んでいた岡正雄が柳田國男に叱られた話にソックリなんだけれど…、遠藤周作も似たようなことを書いていたのだろうか。文豪は「小説なんて下らないもの」なんて言わないんじゃないの?と思うけれども。
さて、ここまでは唐沢も岡田も鉄道オタクを持ち上げた発言をしているのだが、話が進んでいくと何やら雲行きが怪しくなってくる。『オタク論2!』P.38〜39より。
唐沢 アニメとか特撮というのは、我々オタク第一世代が、とにかく過剰なまでに褒めないと、この文化自体が途絶えてしまうという危機感があったんで、B級、C級の果てまで褒め揚げたけど、鉄オタはそんなに騒がなくても鉄道はずっと走り続けているんだからという確固たる安心感がある(笑)。
唐沢 『オタク論!』でも言ったけど、われわれ世代のオタクは、なんで若い世代のオタクたちはアニメがいつまでもそこにあるということにあそこまで安心して寄りかかっているのだと思うわけですよ。鉄オタも同じで、鉄道がそこにある、ということに寄りかかりすぎなのではないか。
この部分には笑ってしまった。「いつまでもあると思うなアニメと鉄道」とでも言おうか。…いや、寄りかかるも何も素直に楽しんでいるだけなのだけど。趣味って本来そういうものなのだから、そんなに必死にならなくても…と思ったのだが、どうも唐沢にとってオタクとは趣味ではないらしい。『オタク論2!』P.45より。
唐沢 アニオタというのは業界が小さい頃から活動していたから、俺たちの声を結集すれば、この世界を変えられるというのに気が付いてしまったオタクなんですよ。鉄オタは、自分たちがいくら何をやっても、しょせん趣味で世界は変えられないという昔ながらのセオリーを信じている。だからこそ趣味人としての節度を保てるんでしょう。趣味の一線を越えない。我々はその一線を越えてしまったんですよね。そこが違う。オタと趣味人の違いはここでしょうね。
クラシック音楽オタや時代劇オタもいっぱいいますけど、なぜ彼らが問題視されず力を持たないのか、ということですよ。アニメオタやマンガオタには俺が世界を変えてやるぜという人はいますが、俺がJRを変えてやるという鉄オタはいませんよね。アニメはクリエイターとファンの境目があいまいですが、鉄道は境目がはっきりしている。
この発言を読んでなんとなくわかるのは、唐沢俊一が自らの経験をベースにして語っているということだ。つまり、「放送局にハガキを送ってアニソンをリクエストしまくる」とか「プロデューサーに会って話を聞く」といった積極的な行動に出るのが唐沢にとってのアニメオタク像なのだろう。そういった考えの人からすると、ただ単に趣味でアニメを観ているだけのオタクというのは歯がゆく感じるのかもしれない。
ここで『ブンカザツロン』に戻る。P.130より。
唐沢 ただ、じゃあ鉄っちゃんがオタクの代表、右総代かというとそうじゃない。私は、やっぱりそれはアニメと特撮のオタクだと思うの。なぜアニメとか特撮がこれだけの大きな、コミケとかあるいはその商業文化を動かすまでになったにも関わらず、鉄道マニアのようなものっていうのはいまだに、イチ濃いファン(原文ママ)で留まっているかと考えた時に、オタクの中で濃い薄いってのは関係ないなとわかるんだな。同じオタク属ではあってもベクトルが外に向いて、人数的にも文化的にも社会的にもどんどん周りを巻き込んで増えていくという性質が特撮やアニメのオタクにはあった。その理由を、対象の方から考察すると、ひとつのものにこだわって自己閉塞するだけじゃなく、特撮文化、アニメ文化っていう大きな概念がそこに存在するからじゃないか。そういう違いがあるんじゃないかと思うんだよね。
鶴岡 なんか、でもそういう反面、僕はちょっと鉄道マニアがうらやましくなってますよ。
鉄道オタクというのはオタクの中でも由緒正しい、というよりもオタクより長い歴史を持つ、と言った方が正確だろうか。有名人にも鉄道ファンは多く、内田百輭、宮脇俊三、阿川弘之といった作家の名前が思い浮かぶし、タモリも鉄道マニアで『タモリ倶楽部』ではよく鉄道関係の企画をやっている(原田芳雄もよく出演していた)。
長い歴史を有するうえに「濃い」人の多い鉄道オタクという存在は、唐沢俊一といえども軽く扱うことは出来ないのだが、それでも唐沢がどうにかして「アニメ・特撮オタク>鉄道オタク」という図式を成立させるべく奮闘している様子が上の発言からは見て取れる。…とはいえ、アニメや特撮は周りを巻き込むことが出来るのに鉄道にはそれが出来ない理由がよくわからないし、濃さよりも人数の多さを重視する考え方には違和感を抱かざるを得ない。鉄道マニアへの羨望の念を隠さない鶴岡氏の気持ちの方がまだ理解できる。
で、鉄道オタクに対して優位なポジションを占めようとする試みは『オタク論2!』でも行われている。P.39より。
唐沢 (前略)そういう意味で、鉄道に完全に依存していて、“自己”というものがあまりないんですよね。鉄オタをオタクの元祖としてオタクの範疇に入れるのはいいんだけど、オタクというのは岡田さんの定義では、自意識をもってオタクになり、独自の見方や独自の価値観を持っている人ですよね。でも鉄オタには独自の価値観がないんですよ。鉄オタの世界に革命を起こす人がいないんですな。
岡田 マニフェストが必要なんですよ。テツたちは「鉄道はこんなに素晴らしい」とは言っても、「鉄オタはこんなに素晴らしい」とは言わないわけですね。鉄オタとして生きるアイデンティティはどうなるのか。どういう障害があるのか。それでも俺たちは鉄道がすごく好きでしょうがないんだ、という自分たちの心のありようを言うのではなくて、彼らは鉄道についてしゃべることに終始してしまう。
なるほどなあ、「○○」についてだけ語るのではなく「○○を好きな自分」も含めて考えるのが岡田斗司夫流のオタクというわけか。そうなると、岡田の見方に倣った唐沢のオタク語りが自意識にまみれた「俺が」「俺が」トークになっているのも当然のことなのかもしれないし、「独自の価値観」を良しとする考え方をしていたから「オタクはすでに死んでいる」という結論にたどりついてしまったのかもしれない。「独自の価値観」を有難がるのは唐沢俊一が常々批判している「世界に一つだけの花」理論と何が違うんだろ?という気もするが。
しかし、自分にはどうもその「独自の価値観」というものがそれほどいいものとは思えない。唐沢と岡田のこれまでの活動を見る限り、彼らの「独自の価値観」なるものは「他人と違うことを言えればいい」「ウケを取れればいい」程度のレベルに留まっていると判断せざるを得ない。それに、「○○を好きな自分」について上手に説明できることにそれなりに意味はあるのだろうが、「○○を好きだ!」と率直に言うことが出来ず、理屈であれこれ取り繕う様子にまどろっこしさを感じてしまうのもまた事実である。「オタク=エリート理論」もそのような取り繕いの過程で生まれたものなのかもしれない。
ともあれ、「○○オタクは××オタクよりすぐれている」みたいな話は不毛極まりない、ということだけは確認できた次第。「きのこたけのこ戦争」の方がまだマシかも。
最後。『オタク論2!』P.43より。
唐沢 (前略)性欲に結びついていないというのも、鉄道をマスコミが取り上げやすい要素ですよね。萌えがいまいちなのは、どうしても犯罪に結びつくんですよ(笑)。いくら二次元の世界は現実と関係ないと言っても、三次元で何か事件があってオタクのイメージと結びつけられたら終わりですからね。
岡田 取り上げれば取り上げるほど、ポロッポロッとやばい犯罪が起こる(笑)。
…やっぱり、この2人はオタクに対して差別的だよなあ。少なくとも大谷昭宏を批判する資格はない(2010年12月21日の記事を参照)。ちなみに、大谷は現在『ひるおび!』の火曜レギュラーなので唐沢と月1で共演していることになる。
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