唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

迷走問答。

「あぁルナティックシアター」公式ブログ炎上事件のこと。




 唐沢俊一の夏コミの新刊『裏亭mixi雑文集』P.28〜P.29には「文豪の醜聞」という文章が掲載されている。1957年4月発行の『現代読本/昭和・大正・明治三代猟奇特ダネ事件』(日本文芸社)という雑誌に収録されているという、菊池寛が美人局に引っかかった事件の顛末を紹介しているのだが、事件を紹介する直前には次のように書かれている。

では、その菊池寛という人物は、果たして尊敬するに値する、人格高尚な人物であったのだろうか。

 そして、文章の締めくくりは以下の通り。

 何にせよ、この昭和32年の記事は、最も文化人として大きな顔をしていた時期の小説家たちに、冷や水を浴びせたに違いない。

 

 菊池寛は生前にもスキャンダルを起こしていて、特に1930年に起こった「『女給』事件」が有名である。広津和郎の小説『女給』の中に菊池をモデルにした人物が登場し、女給に言い寄る様が描かれたことが発端で、小説の内容に菊池が抗議したところ、中央公論社が騒ぎを煽り立てるかのような対応をとったため、遂には菊池が編集者を殴打する騒動にまで発展したものである。この騒動の一部始終は当事者である広津が『続年月のあしおと』(講談社文芸文庫)の中で詳しく書いているので興味のある方は読んでもらいたいが、その中で紹介されている広津と久米正雄の会話が面白いので紹介しておこう。『続年月のあしおと』P.65〜P.66より。

「君、あの小説は、あれは菊池が怒るよ。何事でもこの世の中のことでは、全部勝ったつもりで菊池はいるんだよ。ただ一つ女の問題だけは、心の底ではほんとうに勝ったとは思えないんだ。――そこを突っつかれたんだから、あれは怒るよ。おれが菊池だって怒るよ」といった。
「しまいまで読めば、菊池君という人間の好さが出て来るんだがな」と私がいうと、
「他のことはどんなによく書かれたってそれは駄目だよ。菊池が一番意の如くならないところなんだから、そこをやられれば怒るよ」

 『破船』で知られる久米正雄ならではの洞察というべきか。


 やや話がそれたが、つまり菊池寛の女遊びが激しかったことは彼の生前からよく知られていた話であって、そういった人物のスキャンダルを暴いても小説家たちは別に何とも感じなかったのではないか?ということである。多少文学史を知っていれば菊池寛が「人格高尚」でないのはわかりきった話なのであって、言うなれば唐沢俊一のパクリを新たに発見しても今更驚かないのと同じことだろう。「古本や古雑誌に書かれてある話をそのまま紹介する」という得意技を久々に見られて「やってるなあ」といろんな意味で思った。
 また、1957年が小説家が「最も文化人として大きな顔をしていた時期」というのも何を根拠にした話なのだろう。石原慎太郎が『太陽の季節』で芥川賞を受賞したのが2年前の1955年だが、それを指しているのだろうか。
 


 もうひとつ、この文章には気になるところがある。「美人局」の語源を説明するくだりだ(なお、美人局の正確な語源はわかっていないらしい)。

“美人局”と書いてツツモタセ、と読む。女性が男を誘って、いざ、コトに及ぼうというときに、その女性の関係者である男が現れて相手の男を脅し、金銭をまきあげる犯罪である。女が男の筒を手にとって、いざ、というときに男が踏ン込んで(原文ママ)くるところから、“筒持たせ”。これに、中国で公娼を使った詐欺行為を現す(原文ママ)“美人局”という単語をアテて、ツツモタセと読ませるようになったという。

 「筒」ねえ…(思わず下を見る) 。「コト」に及ぶときに「筒」を持たせるかどうかは人それぞれだろうが、増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)も「つつ=陽根」説を採っているので、つつもたせの「つつ」は男性器を語源としているという見方も一部ではあるのだろう。
 しかし、一般的につつもたせの「つつ」は、博奕打ちの持っている「筒」のことを指している、とされている。丁半賭博で使うアレである。また、戦国時代に制定された伊達氏の分国法「塵芥集」の付則「蔵方之掟」第十条では「つつもたせ」が「偽物をつかませる詐欺」の意味で使われている(条文は『中世政治社会思想』上巻から参照した)。

つつもたせ之儀有之者、蔵方之誤有間敷也。申かけたる輩を可有御成敗事。

 「蔵方之掟」は質屋に関する規定なので、この「つつもたせ」が「美人局」を指しているとは考えにくい。おそらく「偽物をつかませる」→「男を誘惑して金を巻き上げる」と変化していったのではないだろうか。
 


 最後に個人的に面白かったくだりも紹介しておこう。

 今でこそ小説家というのはインテリの代表、識者の一員として新聞などで偉そうなことを言っているが、もともとは文士なんてもの、不良の代名詞であった。生産にもいそしまず、社会道徳に背を向け、酒と女におぼれた状態を破廉恥にも他人にひけらかして、それを文学だなどと称していばっている。娘が小説家に嫁に行くなどと言い出したら、まっとうな父親であれば猛反対するのが社会的常識であった。


 何故面白かったのかというと、このような「文士=不良」という見方が唐沢俊一がモラルに反する行動をとる理由のひとつではないか?と思ったからである。文士は不良なんだから「鬼畜」な言動をとったってかまわない、批判されても謝らなくてもいい、他人の著作を適当に扱ってもいい、とか。いわゆる「いい子」がワルに憧れるという、よくあるパターンなのかもしれない。


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