唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

名誉なき野郎ども。

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 「裏モノ日記」12月8日で、唐沢俊一が『イングロリアス・バスターズ』の感想を書いているのだが、いくつか気になる点がある。

いかにもタランティーノらしいケレン味に満ちた映画で
戦争映画の形式をなぞりながら全然戦争映画などでない、
“テンション映画”。極度の緊張をもたらすシチュエーションと、
その緊張からのヤケッパチな開放(というかエグゾースト)の
繰り返しで映画が進行し、その緊張と開放がクレッシェンドで
拡大していき、最後の一大エグゾーストで映画の結構から歴史上
の事実まで全てをブチ壊して終る。
サスガというかイクラナンデモというか、呆気にとられて
しまったことであった。うーん。

 goo辞書

exhaust
発音
━━ vt. (容器などを)からにする *1; 使い尽す; 研究し尽す, 論じ尽す, (体力を)消耗する, 疲れさせる.
━━ vi. 流出[排出]する

 何が「流出」したり「消耗」したんだろう。「緊張と開放がクレッシェンドで拡大して」いったというのもどうかなあ。…それ以前に話が曖昧すぎて何が何だかさっぱり。

しかしこの映画の功績はそれまで地味な脇役俳優であった
オーストリア出身のクリストフ・ヴァルツという役者を見つけてきた
ことであって、『将軍たちの夜』のピーター・オトゥール以来の
ユニークなナチ将校を演じて、その印象の強烈なことといったらない。
語学と論理の天才で、子供がパズルを解くようにユダヤ人を追いつめて
いき、その自分のアタマのよさへの誇りが国家への忠誠心をも上回る、
超特大の自我を持つキャラクター。
その、天才的幼児性(ミルクやスイーツが好きという嗜好がその
比喩として使われている)キャラは、まさにこの映画の真の主役、
だろう。

 クリストフ・ヴァルツ演じるランダ大佐は、ユダヤ人の家族が匿われている農家を訪れた際に牛乳を飲んでいて、その後、家族の生き残りであるショシャナ(メラニー・ロラン)と同席した際に牛乳とシュトゥルーデルを注文している。…つまり、大佐はショシャナに「お前の正体を知っているぞ」とほのめかしているのではないだろうか、という意見が唐沢俊一スレッド@2ちゃんねる一般書籍板にあった。『イングロリアス・バスターズ』の脚本より。

Considering Shosanna. grew up on a dairy farm, and the last time she was on a dairy farm, her strudel companion murdered her entire family, his ordering her milk is, to say the least... . disconcerting.
The key to Col Landa's power, and or charm, depending on the side ones on, lies in his ability to convince you he's privy to your secrets.

なるほど。

あ、ブラッド・ピットも出ていた(笑)。
彼の、顎をつきだして少々顔をかしげて喋る演技は、ジョン・ウェイン
を意識しているように思った。確かに顔の四角いところなど、
似てきているような感じ。タカ派のウェインがやりそうな役だし、
ウェインの超愛国映画『グリーン・ベレー』にも出演している
アルド・レイが今回のピットのアルド・レイン中尉の役名の元ネタでは
ないか?

 「アルド・レイン」のモトネタが「アルド・レイ」であることはパンフレットで町山智浩さんが書いている(「暇人の日記」を参照)。

とにかく、観終ったた(原文ママ)感想としては戦争映画という感じは微塵もせず、
どちらかというと『仁義なき戦い』あたりの深作作品を思わせた。
レイン中尉を菅原文太、ランダ大佐を岸田森、ショシャナを大原麗子
ヒトラー金子信雄ゲッベルス成田三樹夫に演じさせた映画の
ことを帰途、想像してニヤニヤ。そうすると、ダイアン・クルーガー
役は岩下志麻か松阪慶子(原文ママ)か。

 個人的にはここがひっかかった。まず、『イングロリアス・バスターズ』は「『仁義なき戦い』あたりの深作作品」に似ているだろうか? モトネタである『地獄のバスターズ』(タランティーノ版とは全然違うけどこっちも面白い)の方がまだしも深作作品というか70年代の東映作品に似てるような気がするけどなあ。「バスターズ」の面々のキャラの立ち方とか、終盤の人死にの多さとか。でもまあ、この辺は個人的な感覚だからしょうがない。映画ファン同士で話しているときに誰かがそんなことを言ったら突っ込むかもしれないけど。なお、『イングロリアス・バスターズ』については『「イングロリアス・バスターズ」映画大作戦!』(洋泉社)を読むことをおすすめしておく。唐沢の文章とあまりにも濃度が違う
 あと、挙げられているキャストも『仁義なき戦い』に出ていない人が多い。深作欣二の作品で言えば、岸田森は『傷だらけの天使』、大原麗子は『柳生一族の陰謀』、松坂慶子は『蒲田行進曲』に出ているけど、岩下志麻はたぶん出てない。『仁義なき戦い』で出ていた女優であてはめるなら、ショシャナ=梶芽衣子、ブリジット=中原早苗、とかになるのかなあ。…なんだか全然違う映画になってしまいそうだが。池玲子も出てたっけ(彼女は鈴木則文の映画によく出ていたイメージがあるけど)。

 まあ、キャストのあてはめというのは「お遊び」なので、あんまり突っ込むことでもないのかもしれない。ただ、唐沢俊一は『日本オタク大賞』で『キル・ビル』についてこのような発言をしていたので、キャスト選びに「こだわり」が感じられないのが意外なのだ。『日本オタク大賞2004』(扶桑社)P.206より。

(前略)でも『キル・ビル』はね、’60年代後半から’70年代にかけての、異常な「男」というもの―女映画を描きながらも男らしい女を描いてきた、あのどうしようもない―とくに東映映画のハッキリ言うとキッチュな世界を、フジカラーのあくどい赤い発色ギンギンの映画を、床がコーラとかそういうものでベトベトした薄暗い映画館の暗闇のなかでオールナイトでずっと見て、たぶんほかのおしゃれな人間はカップルで六本木とか銀座あたりの夜を過ごしているのであろうけれども、わたしたちは週末はずっと「『仁義なき戦い』全5話同時上映」を見ていた、そんな連中の怨念が凝り固まっているんだよ。

 「女映画を描きながらも男らしい女を描いてきた」というのは『女囚さそり』シリーズとか『0課の女・赤い手錠』とかのことだろうか。『キル・ビル』は『修羅雪姫』に影響を受けているけど、あれは東宝の映画。

P.210より。

(前略)やっぱりアニメオタクは、なんだかんだ言って、我々第1世代は「俺たちは新しい文化を作っているんだ、エリートなんだ」っていう意識があったんですよ。ところが同じ時代でも、もう’80年代に入ってから、’70年代の古い傷の入った、退色した東映のヤクザ映画を見てた人間は「俺たちは人生の落後者(原文ママ)」と、もうすでにあの時代から思って見てたんだよね。そいつらのリベンジなんだよね。だからそういう意味ではアニメオタク以上にあれは怨念。ルサンチマン、逆恨み。いろんなことが入ってきてますね。
(中略)
人生への逆恨み。それがわからんとあの映画をタランティーノがなぜ、あの形で作ったのかはわからないはずなのだよ。

 1980年代のアニメオタクの「エリート意識」と映画ファンの「ルサンチマン」には、実はそんなに違いがないような気がする。おそらく、伊藤剛さんのコメントにあった「シニカル理性」とも関係している(レスはそのうち返します)。それに「ガンダム論争」を見る限り、唐沢俊一はアニメオタクの中でも特に「ルサンチマン」というか「被害者意識」が強すぎるから(理由はよくわからないけど)、「アニメオタク」だから「映画ファン」だからと安易に決め付けない方がいいのだろう。アニメややくざ映画ルサンチマンを抱えながら観るのか、深く考えずに観るのかは人それぞれだ。ルサンチマンがあるなら、せめてもう少し濃くなってほしいものだが。『キル・ビル』を「オシャレ映画」だと思っている人のことをバカにできないよ。
 ちなみに、岡田斗司夫は『日本オタク大賞2004』で『キル・ビル』に激しく拒否反応を示している。P.206より。

(前略)『キル・ビル』はつまんないし、大嫌いなんですよ。なんでかというとね、僕ね、昔からおっさん向けの刑事ドラマが嫌いなんですよ。『太陽にほえろ!』とか。

 で、『キル・ビル』について「こんなくだらない大人向け風の、俗悪な知的レベルの低いもの」と言って、『映画秘宝』の「男泣き映画」についても批判している(唐沢俊一もそれに同意している)。…『キル・ビル』と『太陽にほえろ!』は全然違うんじゃないかなあ。しかし、ここまで激しいリアクションをしているのはどうしてなのか気になる。

 ついでにもうひとつ余談。タランティーノは『チャンピオンRED』のインタビューを受けたときに、「『シグルイ』ってすごくクールだね!」と嬉しそうに話していたので、なんとか上手いこと映画化にこぎつけられないものかと思った。

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*1:of, from