唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ダンウィッチ妻死霊のしたたり。

『ダンウィッチともお』と迷ったけど。


 「フィギュア王」№134に掲載されている『唐沢俊一のトンデモクロペディア』47回『秀吉怪談』で、唐沢俊一は青葱堂冬圃の随筆集『眞佐喜のかつら』から豊臣秀吉にまつわる怪談を紹介している。

 関ヶ原で西軍を裏切った筑前中納言小早川秀秋の家来で大河内茂左衛門という者が、秀吉公の正室・おねねこと北の政所へ使者に行き、御殿女中の一人と雑談をしていたが、「大名衆のように高貴な方でも、人によっては変わった癖があったり、妙なふるまいをしたりという話がござろう。太閤さま御存生のみぎりには、さぞや奇異のこともあったのではござらぬか」
 と、ふと好奇心にかられて聞いてみた。するとその女中は、眉をひそめ、声を落として「別に変わったこともございませんでしたが、ただ、太閤さまはお休みになるとき、一間のご寝所の入られ(原文ママ)、中から掛け金をかけてしまわれます。目が覚めるまでは決して起してはならぬ、とのお言いつけなのですが、時には急なご用事でご家臣方がおいでになることもあり、そのときはやむを得ず障子の外からお声をおかけいたします。そのとき、障子に穴をあけてこっそり中を覗き見いたしますと、太閤さまのお姿が、広いお座敷いっぱいに膨れておいでになるときがございました。また、そこまでではなくとも三四畳敷きくらいに広がっておられることもあり、まことに身の毛のよだつ思いでございました。何かにつけ、われわれとは違ったお方でございました」
 ……と茂左衛門が自ら記している、とのことである。

これは「座敷浪人の壺蔵」に載っている「秀吉奇態」という文章を改変したものと思われる。

 大河内茂左衛門という人が、筑前中納言小早川秀秋に仕えていたときのこと。
 秀吉公の正室であった北の政所殿へ使者として参って、御返事を待っているあいだ、某御女中とよもやまの話をして、こんなことを尋ねた。
「大名高家の身分の方でも、人によって変わった癖があり、珍しい振る舞いなどなさると聞きます。おそれながら秀吉公御存生のころには、さぞや奇異のこともあったのではございませんか」
 すると、
「さして変わった御様子のことはありませんでした。ただ、折々は一間の御寝所に入られ、御まどろみの節は内から掛け金を掛けてしまわれます。御目覚めまで決して起こしてはならぬとおっしゃるのですが、あまり長く御休みになっている間に家臣の方々が御用で参られ、『是非うかがいたく……』などと申されるときは、やむをえず障子の外から御様子伺いなどすることもあります。その際に障子に針で穴をあけ秘かに覗き見ますと、御姿が広いお座敷いっぱいに膨れていらっしゃる時がありました。そこまではないが三四畳敷くらいに広がって見えることもあって、まことに身の毛のよだつ思いがいたしました。何かにつけ尋常の御方ではなかったのです」
と語ったという。

 これは茂左衛門みずからの記録に載っている話だ。

2つの文章の大きな違いは、唐沢俊一の文章の方では秀吉を「太閤」と呼んでいるところ(一か所だけ「秀吉公」になっているのは改変し忘れたのか?)、茂左衛門の話し方が「〜ござろう」「〜ござらぬか」と妙に時代がかっているところである。あとは、表現の仕方が違うもののほぼ同じ内容である。ただ、いつも通りというか、唐沢の文章には「座敷浪人の壺蔵」にない独自の情報が書かれていないあたり、「またか…」と秀吉の身体のように疑惑が膨らんでしまう。なお、「秀吉奇態」がアップされたのは今年の1月11日なので、唐沢より早いのは明らかである。
 唐沢が原典にあたったのかどうかを確かめるため、問題の『眞佐喜のかつら』本文を引用してみる。三田村鳶魚編『未刊随筆百種』8巻(中央公論社)P.350より。なお、読者の便宜をはかるため文章の一部を改変してあることをお断りしておく。

 大河内茂左衛門、筑前中納言秀詮公に仕官の頃(引用者註  小早川秀秋は慶長七年に「秀詮」に改名している)、北の政所殿へ御使に参り候節、緩々御返事待けるうち、カウブウスと云女中に出逢ひ、四方山の物語せし序に問けるは、大名高家のうへにさへ、ひとにより珍敷事候と承る、ましてや大君(秀吉公をさして云)御存世之御時など、恐れ乍ら奇異の御事もましましけるやと尋ねければ、さしてかわらせ給ふ御事もましまさず、只折として一間なる御寝所にいらせられ、御まどろみの節は、内よりかけ鉄を御かけ遊され、御目ざめ給ふ迄起し奉るべからずと仰置るれど、余り永く御まどろみには諸卿御用是あり、伺度など申されける時は、是非なく御障子の外より御やうす伺などする時もあり、其節針にて穴を明、ひそかに伺奉るに、御姿広き御座一ぱいにならせ給ふ時もあり、三四畳敷におがまれ給ふ事もましまして、誠に身の毛もよたち候計に覚侍る、兎角つねの君にはなかりけり、とかたりけると、茂左衛門が記に見へたり。

 気になる点ひとつめとしては「表現が一致している部分があるのは偶然だろうか?」ということである。たとえば、「珍敷事」を唐沢俊一と「座敷浪人の壺蔵」はともに「変わった癖」「妙な(珍しい)振る舞い」としているが、この後で語られる秀吉のエピソードは「癖」や「振る舞い」とはとても言えないものなのだから、異なる訳し方があってもいいと思う。それから、「御姿広き御座一ぱいにならせ給ふ」は「広いお座敷いっぱいに膨れておいでになる(いらっしゃる)」とどちらも「膨れて」としているが、「膨れて」というとまるで肉体が肥大したかのようなのだが、秀吉という英雄の持つオーラのせいで巨大化したかのように見えた、という解釈も出来るのではないだろうか?劇画でよくあるよね。「うう…奴が大きく見える!」ってやつ。細かいところだと、両方とも「奇異のこと」の前に原文にはない「さぞや」をつけているのも気になる。…かつて唐沢俊一が「世界の三面記事・オモロイド」さんから盗用したとき(詳しくは2008年10月6日の記事を参照)に「別々の人が外国語を日本語に訳したときに文章が完全に一致することは有り得ない」と書いたが、古文を現代語に訳するときも同じなのではないだろうか?…しかし「膨れておいでになる」というのはヘンだなあ。
 気になる点ふたつめは「大河内茂左衛門の話し方」である。唐沢俊一の文章で茂左衛門が妙に時代がかった話し方をしていることは既に指摘したが、『眞佐喜のかつら』で茂左衛門は唐沢の文章のように「〜でござろう」という話し方をしていない。どうして原文と違ってしまったのか、説を立ててみた。

(1)現代語訳がヘタ。
 普通、古文を現代語に訳するときは完全に現代語に直すものである。現に「座敷浪人の壺蔵」の文章はそうなっている。唐沢はそういうセオリーを知らなかったためにおかしな訳になってしまった。…古文の授業を受けていればわかるはずなんだが。
(2)原典を読んだと思い込ませようとした。
 古めかしい文章を書くことで、読者が「ここは原文通りなんだろうな」と錯覚することを狙った。

…(1)であってほしい。

 さて、『眞佐喜のかつら』に書かれてある秀吉のエピソードを紹介した後で、唐沢俊一はこのように書いている。

 何やら実話版『ダンウィッチの怪』みたいな話で非常に不気味だ。この話の怖さは、いったい、何で秀吉がそんなに膨れ上がるのかその理由が一切語られていないことだし、それを目撃した女中が総毛立ちながらも、「われわれとは違うえらい方なんだから、これくらいのことはあるだろう」
 と、変に納得してしまっていることであろう。怪奇が日常になる怖さとでも言おうか。

2ちゃんねる戦国時代板、「戦国ちょっといい話」「戦国ちょっと悪い話」スレのまとめサイトである「戦国ちょっといい話・悪い話まとめ」より。

299 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:43:48 id:SFPqod9w

秀吉と言えば、こんな話もあったりする。


こんにちわ!わたくし筑前中納言小早川秀秋家臣、大河内茂左衛門です!
秀吉公が死んで間もない時期ですが、今日は主人秀秋から、北政所様への使いに、
ここ、大阪城にまいりました!なんか生臭いですね〜。
そんな事はともかく、わたくし、そのご返事を待っている間に、この城の女中、A子さん(仮名)に
インタビューしてみたいと思います!

茂「こんにちは!今日はインタビューを受けていただいてありがとう!
 早速ですが、このお城には大名や高貴なご身分の方がたくさんいますよね!
 その人たちの…、ぶっちゃけ面白い話、なにかないかなあ?
 秀吉公が生きてた頃なんて、不思議なことがいっぱいありそうだけど。」

A『(都合により音声が加工してあります)そうですね…特に変わったことは…
 あ、でも、殿下はお休みになるとき…』

茂「寝るとき?」

A『お休みになるとき、一間のご寝所に入られるのですが、その折、すべての扉に
 内から鍵をかけてしまわれるのです。そして、目が覚めるまで決して起こしてはならぬと
 きつくお言いつけて…

 それでもたまに、家臣の方々からどうしてもという御用が来ることがあり、
 そういう時はやむを得ず、障子の外から御様子伺いなどをすることがありました。
 その際に、障子に針で穴を開け、密かに中を除き見ますと、広い寝室のお部屋いっぱいに、
 殿下の体が膨れ上がっていらっしゃることが…』

茂「体が部屋いっぱいに!?」

A『あ、いつもではないんですよ!たまに…。それに膨れ上がっても、三四畳程のときも
 ありましたし…。
 身の毛のよだつほど不気味でしたが、殿下は尋常なお方ではありませんでしたし、
 まあ、そういうこともあるのかなあと…。それに…」

茂「ああっ!?ここでご返事が来てしまった。これにて緊急インタビュー、
 驚愕!大阪城の寝室で女中は見た!豊太閤衝撃の秘密! を終了いたします。
 みなさんさようなら!」


                                                                                                                                                              • -

300 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:48:02 id:OOc8JHcR
浅野さんの言う通りガチで何か憑いてたんじゃw

301 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:48:54 ID:5w5s7rIU
>>299
それなんてラブクラフト

302 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:57:24 ID:Rg+fuwlM
生臭いって何でさwwwwwwwwwww

303 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:58:46 id:SFPqod9w
>>302
そっちは政治的な意味でw

304 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 22:09:08 id:RCSDsBJQ
>>299
日本史サスペンス劇場思い出した

318 名前:人間七七四年[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 01:15:39 id:asSqJvO/
>>299
秀吉=ヨグ・ソトホートかよw
イアーーーー!!!!

 つまり「座敷浪人の壺蔵」の文章が改変されて「戦国ちょっといい話」スレッドに掲載されたわけだが、注目すべきはレス番号318の「秀吉=ヨグ・ソトホートかよw」。なぜなら、唐沢が挙げた『ダンウィッチの怪』にもヨグ・ソトホートが登場するのだ。…まあ、ツッコミがカブってしまう可能性はないわけではない。しかし、『眞佐喜のかつら』の秀吉のエピソードから『ダンウィッチの怪』を連想できるのだろうか?「双子の怪物」とかそういうのならわかるけど(あらすじは「PROJECT2044」を参照して欲しい)。今回の記事を書くにあたってラブクラフトの原作もチェックしてみたが、それらしきシーンは見当たらなかった(あまりにも凄い話だったので最後あたりはチェックそっちのけになってしまったw)。ただ、もしかすると、唐沢は映画版『ダンウィッチの怪』のことを言っているのかも知れないし(開かずの間から怪物が襲ってくるシーンがある)、かつて唐沢商会は『段吉の怪』というマンガも発表しているのだから、もちろん『ダンウィッチの怪』のことはちゃんと知っているはずだ。プロのライターが2ちゃんのレスをパクるなんてことは、さすがにありえないと思うのだけど、ここで『ダンウィッチの怪』が出るのはどうかなあ?と思うので念のため。クトゥルークトゥルフク・リトル・リトル?)に詳しい人のご意見をお待ちしています。


 『トンデモクロペディア』ではこの後、『武辺咄聞書』に書かれている千利休の幽霊の話になる。『武辺咄聞書』の原文は菊池真一甲南女子大学教授のサイトで読むことができる。また、「異聞秀吉」というサイトでも読むことが出来るが、過去に唐沢俊一はこのサイトの記述をパクったことがある(詳しくは2008年7月20日の記事を参照)。しかし、『トンデモクロペディア』では利休の幽霊が現れたのは切腹の数日後の夜のこととなっているが、『武辺咄聞書』には「或時」としかないんだけどなあ。

 そして、最後は耳塚の呪いのせいで豊臣家が滅亡した、という話になるのだが(耳塚は方広寺の近くにあり、方広寺といえば例の「国家安康 君臣豊楽」という銘が刻まれた鐘がある、という理屈。…理屈になってるか?)、

秀吉は部下の兵士たちに、朝鮮の人民を殺し、その耳を切り取って持ち帰れば、その数に応じて褒美を出すであろうと命じた。

とあるけど、あれは首を持ち帰ると大変だからその代わりに耳を持ち帰ることにしたのでは。それから、藤岡真さんも突っ込んでいるけど、

“君臣豊楽 国家安康”の四文字だった

8文字なんじゃないかと。あと、実際の銘の通りに「国家安康 君臣豊楽」としたほうがいい。まあ、いずれにしても、「と学会」運営委員が

地下に埋められた数知れぬ人民の耳が、豊臣家を滅ぼすパワーを放ったのだろうか。

と書くのはどうかと思う。

※追記 唐沢俊一は秀吉について

瞳が二つ重なっている、いわゆる“重眸”だったという説もある

としているが、それは「重瞳」(ちょうどう)だろう。「瞳」も「眸」も「ひとみ」だけれど。

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