ゴッチャゴッチャ言わんとガセとパクリを全部公表すればええんや。
唐沢俊一『キッチュワールド案内』(早川書房)P.76〜77より。
ところで列車のトイレと言えば、琴奏者の宮城道雄は盲目でも健常者と変わらぬ動作ができるというのが自慢だったが、夜汽車に乗って、トイレと間違えて乗車口のドアをあけ、転落して死亡した。昭和三十一年のことである。
鉄ちゃんなら、このエピソードを読んだだけで、宮城道雄の乗った電車の
車種が分かるらしい。
「そういうことなら、それは昭和五年生まれの参宮急行(現近鉄の一部)2200系でしょう」
と、彼らは自信満々に言う。
なぜ分かるかというと、電車というのは昔は運転士の座っているところだけを壁で囲って乗客を区別しており、現在のような、車掌用スペースは設けられていなかった。この2200系は正面向かって右側に運転席があり、通路をはさんで反対側をやはり壁で囲ってトイレを設置していた。ファンには「片目の2200」の愛称で有名なのだという。時速一一〇キロで疾走する電車の最前列でウンコするというのは、なかなかに落ち着けないものではないだろうか。
で、この電車、どういうわけか鏡に映したように、床下の装置や部屋の位置が全く逆の双子車両が存在し、運行していた。
つまり、宮城氏はいつも乗る電車のドアの位置をきちんと把握したつもりで、この鏡体電車に乗ってしまい、いつもトイレがある位置のドアを開けて、運転手席の方に入り込んで(連結車両の場合、運転席は空席のままである)勝手が違うのにとまどい、つい方向感覚を失って、運転席のホーム側のドアをあけて、落下したのだと推理されるのである。
宮城道雄が事故に遭ったのは寝台急行「銀河」に乗っていたときのことである。このガセビアについては「トンデモない一行知識の世界」で指摘されているが、実は唐沢俊一もこれがガセビアであると知っているのだ。「裏モノ日記」2003年1月17日より。
他人様の著書の間違いをあげつらってばかりいてはフェアでない、自分の著作の間違いも公表しておかなくては。『キッチュワールド案内』の中に、箏曲家宮城道雄が事故死したのは参宮急行(近鉄)との記載があるが(76頁)、これはすでに指摘もあった通り、東海道線寝台急行『銀河』のあやまり。主な内容については2度チェックを行っているが、この部分は書き下ろし原稿の最後あたりのもので、別の事故死の記事の資料とゴッチャになり、チェックの目を逃れて活字になってしまった。重版、または文庫化の折には改稿の予定である。全国の鉄ちゃんの皆さんにお詫び申し上げるものであります。
だそうである。しかし、ゴッチャになったとしてもどうしたらこういう間違いが起こるのか不思議。事故の真相を推理しようとして参考資料がゴッチャになっていたとしたらすぐに気づきそうなものだと思うのだが。鉄ちゃんが自信満々に言ってたのは一体なんだったのか。
言い訳がアレなのはともかく、ガセビアを指摘されたら「裏モノ日記」でちゃんと公表するというのはいいことだと思う。自分も検証が終わったら全てのガセとパクリを指摘することにしよう。メールを送るか直接会うかして伝えてみよう。かなりの長期連載になってしまうだろうが、それでも唐沢なら…唐沢俊一ならきっとなんとかしてくれる…!!
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