「盗用の虚人」唐沢俊一。
「燃える盗魂」でもよかったけど。
唐沢俊一『キッチュワールド案内』(早川書房)P.100〜101より。
(前略)力道山時代からしばらく、外人レスラーには必ずと言っていいほど、この漢字のニックネーム的肩書がついていたものだ。
(中略)
三文字のものが多いのは、下もフル・ネームで呼ぶという語呂の問題だろう。中には“神様”カール・ゴッチのように単簡明瞭(原文ママ)のものや、“地獄の墓堀り人”ハンス・シュミットのような仰々しすぎるのもあるけれど。徹底して庶民の娯楽であったプロレスにおいては、カタカナ名前だけのレスラーでは、観客に馴染になりにくいという危惧が最初にあったのだろう。とはいえ、その座りのよさは日本語の特性の一部分を示していると言っても過言ではなく、そういう漢字ニックネームをつける必要のない日本人レスラーにまで、“金網の鬼”ラッシャー木村とか、“まだら狼”上田馬之助といった肩書をつけるのが流行ったこともあった。
ハンス・シュミットのニックネームは「地獄の料理人」。「地獄の墓堀り人」はローラン・ボックのニックネーム。…唐沢俊一は本当にプロレスファンなのかなあ?
それから、唐沢はレスラーのニックネームは「日本のファンに外人のカタカナ名前を馴染ませるためにある」と考えているらしいが、外国でもレスラーや格闘家にニックネームがつけられることはよくある。古くはエド・“ストラングラー”・ルイス、ジャック・デンプシーの“Manassa Mauler”(マナッサの巨人殺し)、プリモ・カルネラの“The Ambling Alp”(動くアルプス)、ジョー・ルイスの“Brown Bomber”(褐色の爆撃機)。最近だと“ピープルズ・チャンピオン”ザ・ロック、“ゴールデンボーイ”オスカー・デラホーヤ、“パックマン”マニー・パッキャオ、“アイスマン”チャック・リデル…、キリがないからやめとこう。それに、プロレス以外のスポーツでもニックネームって昔からいくらでもあるじゃないか。“赤バット”川上哲治、“土俵の鬼”若乃花とか。ちょっとマイナーだけど、ピストン堀口のライバルだった笹崎僙は“槍の笹崎”と呼ばれていたし。…要するにスター性のあるスポーツ選手にニックネームがつくのは世界共通なのだという話ではないか(逆に人気を出すためにニックネームを先につけることもあるが)。プロレス以外のことも考えてみればよかったと思うが、唐沢俊一はスポーツの知識がないからなあ。
同じくP.101より。
こういう肩書は“狂虎”タイガー・ジェット・シンあたりを下限にして、それ以降はあまりつけられなくなっていった。当然のことながら、日本人がカタカナ名前に慣れたためである。スタン・ハンセンはあちらでのリング・ネームがスタン・“ラリアット”・ハンセン、死んだブルーザー・ブロディは“キング・コング”・ブルーザー・ブロディだったが、日本ではただのスタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディでやっていた。カタカナだけが長く続くと、逆にうっとうしくなる、という、これも日本人の言語感覚なのだろう。
ハンセンもブロディも「漢字のニックネーム的肩書」がある。ハンセンは「不沈艦」、ブロディは「超獣」。これはプロレスファンでなくても知ってると思うが。
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