アイ・ワナ・ビー・ヤドクガエル。
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唐沢俊一・鶴岡法斎『ブンカザツロン』(エンターブレイン)は奇妙な本である。今まで紹介したエントリーを見てもらえばわかると思うが、唐沢が長々と喋った後で鶴岡氏が相槌を打ち、そしてまた唐沢が長々と喋るという流れがずっと続いているのだ。…はたしてこれで対談と言えるのか?とすら思える。
しかし、藤岡真さんのブログによれば、『ブンカザツロン』には唐沢俊一がずいぶんと手を入れていて、そのせいで鶴岡氏はずいぶんと発言を削られてしまったらしい。それならばあのような流れになったのも納得だが、自分だけいい恰好をしようとするなんて許されるのか?と激しく疑問に感じる。
だが、悪いことは出来ない、というべきなのか、唐沢が中身をいじくったせいなのか、『ブンカザツロン』には妙なところがところどころ見受けられる。その中でも一番気になった部分を紹介しよう。最初にP.118〜119より。
鶴岡 うん。今、気が付いたんですけどオタクというのは“ヤドクガエル”ですよ。
唐沢 なに?
鶴岡 “ヤドクガエル”。
唐沢 “ヤドクガエル”ですか(笑)。あぁはぁはぁ、舐めると死ぬという南米の。
鶴岡 オタクというのは。えぇ、ご存知ですか、ヤドクガエルというのはですね、日本で飼われている、もしくは水族館で飼われている、ペットで飼われているヤドクガエルは毒を持ってないんですよ。
唐沢 ふんふん。
鶴岡 なぜヤドクガエルが毒があるかというと、あれはですね、アマゾンにいる毒を持った蟻を食ってるからなんです。
唐沢 あぁ、それが体に蓄積するんだ。
鶴岡 蓄積して、体からじわじわじわじわ出てくるです。彼ら自体はそれを食べても死なないらしくて。で、他の生物が食わない蟻だからってバクバクバクバク食ってるらしいんですよ。それで体からじわじわ毒を出す。いや、オタクってそれですよ。
唐沢 うんうん。だから生まれつきから体に毒もってるわけじゃねんだよな。(原文ママ)
鶴岡 わけじゃないんすよ。その周りにいる、その怪獣映画とか、それこそ、そういうのどんどん取り入れることによって体からじわじわじわじわ……。
唐沢 あー。
鶴岡 だからヤドクガエルですよ、オタクってのは。
次にP.187、189より。
鶴岡 あのー、だから思うのが、ヤドクガエルですか。
唐沢 ヤドクガエル、はいはい。
鶴岡 ヤドクガエル。俺は最近オタクというのは、このヤドクガエルのような生き物だと思うんですよ。
唐沢 はあはあ。
鶴岡 オタクって俺、それだと思うんですよ。その体に自分のその気に入ったものを取り込んでいくっていう本能だけはあるんですよ。本質だけは。ただその選択はそいつの経験なんですよ。
最初に読んだ時に「なんで似たような話をしているんだろうなあ」と訝しく思ったものだ。鶴岡氏の発言に「今気が付いた」「最近思うんですよ」とブレがあるのも妙である。昔、電気グルーヴ『俺のカラダの筋肉はどれをとっても機械だぜ』(宝島社)の中で「デジャヴ」と称してまったく同じ見開きページを続ける荒業が繰り出されたことがあったが(つまり、P.96〜97とP.98〜99が全く一緒なのである。できれば現物を手にとって確認してほしい)、そういったギミックでもなさそうだ。思いがけず電気の偉大さをあらためて痛感させられつつも、雑な編集に溜息が出る。
それとP.207〜208より。
唐沢 だから、不思議なことに、徳川家康は戦争がうまかったからね。まぁ、なんだかんだいってうまかったからあそこまで生き残ったのに、徳川家康は戦争はどのようにしたら勝てるかとかは子孫に伝承しないのね(笑)。
鶴岡 あぁそうですよね。
唐沢 うん、やっぱり。“主の道とは、人の一生は重き荷を背負いてどうのこうの”みたいなことを言ってね、そうじゃなくてさ、“あんたがどうして豊臣秀家(原文ママ)を滅ぼすことができたかっていう、テクニックを書いてくれればすごく役立つんだけどなぁ”って(笑)。
豊臣と宇喜多がゴッチャになっているのもさることながら、家康の遺訓も適当過ぎ。正しくは「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」で、『論語』泰伯編の「任重くして道遠し」を元にした言葉らしい。以前ブログで紹介した『ブンカザツロン』の間違いの中では、『ジャイアントロボ』のギロチン帝王の名前を間違っていたのが忘れがたい(2011年3月8日の記事を参照)。リアルタイムで観ていたはずの作品でまでやらかされると困る。
今回読んでいて気になったくだりをもうひとつ紹介しておこう。P.172より。
唐沢 明治の作家がすごいのは、鴎外(原文ママ)も漱石も、もちろん藤村も、すごくシンプルな形で、国家とか、制度とか、そういうものと個人の関わり、アイデンティティの依って来るところを描ききっているんですよね。谷崎潤一郎なんて、昭和に入ってからも明治を最後までひきずっていた人でしょう。もう、凄いですよね。『刺青』とか『春琴抄』なんか、ツァイトガイストから千里も離れているようなもの書いていて、ぐるりと裏返って、時代に裏側から完全密着している。あれこそ悪魔ですよ。
ずいぶんと大袈裟な言葉遣いをするものだなあ、と思うが、よく読むと一体何が言いたいのかよくわからない。そもそもこの人が谷崎を本当に読んでいるのか疑わしいというのに(2010年3月29日、7月31日の記事を参照)。「ツァイトガイスト」と「内藤大助」は響きが似ている。
『ブンカザツロン』検証は次回大ネタを取り上げて、それで終了。
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