考えるんじゃない、パクるんだ。

Don't think,　steal.

　十数年前、NHKで『日本はアメリカにどれくらい理解されているか』という番組があった。アメリカの一般市民たちを集めて、磯村“ちょっとキザですが”尚徳氏が、
「あなたの知っている日本人の名前を挙げてください」
と質問したのだが、そこで真っ先に、多くの人から挙がった名前がブルース・リーだった。それが何度も何度も出てくるので、磯村氏がとうとうカンシャクを起こし、
「ブルース・リーは日本人ではありません！！」
と怒鳴るように言ったのがオモシロかった。
　……しかし、これを無知扱いするのはアメリカ市民に気の毒である。何しろあちらのテレビ番組『グリーン・ホーネット』で、リーは“ケイトー（加藤）”役で人気者だったのだから。当然、この役もカンフー名人という設定で、強烈な印象を残した。その後、“ケイトー”といえばカンフー使い、というイメージが定着したのは、イギリス製のコメディ映画『ピンク・パンサー』に、クルーゾー警部の召使で、カラテを使うケイトーという中国人（！）のキャラクターが登場することでもわかると思う。

　『グリーン・ホーネット』が放映されたのは1966年から67年にかけて。一方、ケイトー（バート・クウォーク）が『ピンク・パンサー』シリーズに初登場したのは、1964年公開のアメリカ映画『暗闇でドッキリ』(シリーズ第2作)である。つまり、『ピンク・パンサー』の方のケイトーが先に登場しているので、ブルース・リーが『ピンク・パンサー』に影響を与えた可能性は否定されることになる。なお、『グリーン・ホーネット』と『ピンク・パンサー』の二人のケイトーの関係については「MUSIC MOVIE MEMO」での考察も参考にしてほしい。

　P.70〜71より。

　……ところで、ブルース・リーがキッチュとは何だ！　と、熱烈なファンは怒り出すかもしれない。確かに、ブルース・リー本人はキッチュどころか、映画人としての王道を歩んだ人物だった。ハリウッドではアクション映画の小道具的扱いに過ぎなかった少林寺拳法をメジャーにするべく努力を続け、アメリカ資本の『燃えよドラゴン』でやっとその望みを果たし、カルト人気を得る直前の死亡。作家の山田風太郎は『人間臨終図鑑』（徳間書店）の中で「死は大半の人にとっては挫折である。しかし、奇妙なことに、それが挫折の死であればあるほどその人生は完全型をなして見える」と言っているが、ブルース・リーの一生も、まさにそういう意味で完全型だった。

　ブルース・リーも「追討」されていたのか…。細かい点を指摘しておくと、『人間臨終図鑑』は誤りで、正しくは『人間臨終図巻』。それから、『燃えよドラゴン』はアメリカ・香港の合作映画。
　さて、「少林寺拳法」とあるが、少林寺拳法は日本発祥の拳法である（少林寺拳法公式サイト）。『トリビアの泉』でも「少林寺拳法の発祥の地は中国ではなく香川県」というトリビアが紹介されているのだが（№553）、スーパーバイザーは知らなかったのだろうか。それにしても、ブルース・リーがやっていた武術といえばジークンドー（截拳道）が真っ先に思い浮かぶんじゃないかなあ。最近だと仮面ライダーメテオが使っていることで知られている。もしくは詠春拳。ロバート・ダウニー・Jrもやっているらしい（映画.com）。

　この後、ブルース・リーブームの盛り上がりっぷりやそっくりさんについて触れられているが、この文章より先に出ている『ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進』（洋泉社）を知っている人間からすると、字数制限を考えても物足りない内容と言わざるを得ない。まあ、志穂美悦子をおちょくるような書き方をしているせいでカチンときてしまった部分もあったりするので、我ながら人間ができていない、と反省するしかない。水のようになれるよう頑張りたい。

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