ガメラ! ガメラ! ガメラ!
今回は“I Am A Gamera”にすべきか迷った。
どっちもいいなあ。
本題。『ガメラ創世記』(エンターブレイン)は、唐沢俊一による湯浅憲明監督へのロング・インタビューが元になった本である。唐沢はまえがきで次のようなことを書いている。P.20より。
大学時代、映画ファンの友人たちとよく怪獣映画のオールナイト上映に出かけたものだが、ゴジラなど、他の怪獣もののときに比べ ガメラのときは映画館の内部の雰囲気が違ったことを覚えている。
そのころからいたマニアたちが、なにやら深刻な顔でスクリーンを注視している他の怪獣映画とくらべガメラのときには、場内が何か陽気なのである。みんな、童心にかえって、映画自体を楽しんでいるのだ。この雰囲気の違いが何によるものなのか、それが僕には長い間、わからなかった。
それからさらに時が経ち、僕は物書きを商売にするようになった。『ガメラ』シリーズの湯浅憲明監督の談話をまとめて本にしてくれないか、と、大映企画部の福田勝さんから話があったとき、僕はふたつ返事で引き受けた。もちろん、ガメラに興味はあったし、以前にも、そういう、語り起こしの本をやったことがあり、評伝ならお安い御用だ、と思ったのである。子供のころからあこがれていたガメラを創った監督の話をたっぷりうかがえて、それを本にできるなんて、なんてオイシイ仕事だろう、と思ったのだった。
文中にスペースが入っていたり段落の最初の文字を下げていないのは原文通り。
最初に驚いたのが、唐沢俊一に大学時代に友人がいたということ。学校にロクに行っていなかったらしいのに、どこで知り合ったんだろう。
しかし、それ以上に問題なのが、唐沢俊一が「評伝」について誤解していることだ。「評伝」というのは「人物評をまじえた伝記」のことなのだが、『ガメラ創世記』はその大部分が湯浅監督の談話で、唐沢による批評はごくわずかしかなく、とても「評伝」と呼べるものではないのだ。そもそも、監督の話を聞けばそれで「評伝」が出来上がると考えているのがおかしくて、湯浅監督の話に記憶違いがある可能性もあるし、自分に都合の悪い話をすすんで言わないことも考えられるのだから、対象者の話を聞いただけでは全体像はとてもつかめないのである。
おそらく唐沢は『星を喰った男』のおかげで湯浅監督にインタビューすることになったのだろう。だが、唐沢は『古本マニア雑学ノート二冊目』(ダイヤモンド社)で『星を喰った男』を「評伝」と呼んでいるが、前から書いているように『星を喰った男』も潮健児の話をまとめているだけなので、やはり「評伝」とは呼べない。ちなみに、『ガメラ創世記』の元になった『ガメラを創った男』(アスペクト)では「評伝 映画監督・湯浅憲明」というサブタイトルがついているが、『ガメラ創世記』ではサブタイトルから「評伝」という言葉が消えている。
『ガメラ創世記』の湯浅監督の話は実に面白いので、これを元に「評伝」を本格的に書いていれば…、と惜しまれてならない。湯浅監督は子供の頃から映画業界に関係していて大映の倒産に立ち会っているし(永田雅一が社員に野次られるくだりは壮絶)、『おくさまは18歳』『刑事犬カール』『コメットさん』などのドラマを手がけているから、映画史・テレビ史としても面白くなりそうだったのだが。ちょっとだけ出てくる『ウルトラマン80』の話も実に興味深いので、『君はウルトラマン80を愛しているか』(タツミムック)で湯浅監督の話が聞けていればなあ、と残念に思う。
今度はあとがきから。P.300より。なお、このあとがきは「裏モノ日記」2004年7月19日とだいぶ重複している。
アルチザンというひとにもいろいろ会った。会うたびに彼らの言葉には感銘し、感嘆し、これこそが人生にとって本当に役に立つ金言なのだ、と、空虚な思想系の言葉が紙くずのように思えてきたものだったが、中でも湯浅憲明という人の、徹底した職人ぶりには舌を巻いたものだった。ただ、その職人性は、いいものにこだわって、頑固に自分の作品性を守り続ける、というものではない。クライアントの注文に従って、納期と商品性を完全にクリアした上で、どんなものでも、またどんな条件下でも作り上げるという、そちらの方面での職人だった。職人というよりは“プロ”という言葉が、より似合っていたかもしれない。
唐沢俊一はアルチザンが好きなようだけど、自分自身はアルチザンになろうと思わないのだろうか。原稿の締め切りは守れていないし、山本小鉄の「追討」やら「『ゴジラ』は祟り神」やら「空虚な思想系の言葉」をたくさん書いているしなあ。「職人」を持ち上げている人が全然「職人」じゃないのはどうしてなんだろう。『ガンダム』『エヴァ』や「萌え」を攻撃しているあたり、アルチザンというよりパルチザンのようだ。
P.302より。
これに限らず、映画マニアが“大人の目で”怪獣映画を語る際に、まず昭和ガメラシリーズは目の敵にされることが多かった。子供時代にあれだけワクワクしたものを大人になって再見して、そのあまりの安っぽさに愕然とし、それにかつて大喜びした 自分を恥じるのだろうか、躍起になってガメラをくさすのが、マニア的な高度な目を持っていると自負するファンの定番だった。そういう文章を見つけるたびに苦笑し、なら、なぜこんなに安っぽい映画に、当時の自分が熱狂したのか、その裏に隠されている監督の腕に気がつけばいいのに、と思ったものだ。
はいはい、それって「ガンダム論争」での唐沢俊一の『ゴジラ』批判のことですよね。
子供の頃見たゴジラ、あれは正直にいって大変コワかった。暗い夜空をバックにヌッと立っているゴジラの姿は悪魔のようなイメージとして心に焼きつきました。しかし、それはあくまでもイメージとしてであって、子供に映画としての出来云々がわかるはずもありません。それから数年たち、怪獣少年から映画少年となった僕が再びゴジラを見た時の感想は「アレ、コンナもんだったのかナ」ということでした。特撮は確かにあの頃の作品としては頑張っていたのかもしれません。しかし、映画としての完成度とすると、はっきり言ってオソマツの一言なのです。
ブーメランすぎて笑っちゃう。
それから、岡田斗司夫は「子供の目から見ても『ガメラ』はチープだった」「子供は“子供向け”を逆にバカにする」と「オタク座談会」で言っていたけどね(例として挙げていたのはガメラがジグラの背びれを叩いて『ガメラマーチ』を演奏するシーン)。…岡田と唐沢、本当に話が合っていたのだろうか。
ちなみに、『エンサイスロペディア』第40回では「ガメラ」が取り上げられているのだが、『ガメラ創世記』での湯浅監督や村瀬継蔵の話が使い回されている。
この作品のヒットにより、日本映画界にはゴジラに対抗する怪獣映画が存在し得る、ということが証明され、松竹が『宇宙大怪獣ギララ』、日活が『大巨獣ガッパ』で参戦したが、ガメラのような成功を収めることは出来なかった。やはり、映画作りの活気は、最初のチャレンジャーだけが持てる特権なのかもしれない。
何この精神論。それを言うなら真の「最初のチャレンジャー」は『ゴジラ』のスタッフだろう。
そのガメラが、旧シリーズ終了から15年ぶり(実際は、1980年の『宇宙怪獣ガメラ』は再編集版なので、その前の『ガメラ対深海怪獣ジグラ』から数えて24年ぶり)に金子修介監督によりリメイクされたとき、完成試写会場が割れんばかりの拍手に包まれたのを今でも記憶している。あの拍手は、その新作にきちんとガメラ作品の本質である“チャレンジャー精神”が濃厚に含まれていたことに対する、初代ガメラファンたちからの喝采だったのである。
…それは単純に『ガメラ 大怪獣空中決戦』がいい作品だったからでは? 「チャレンジャー精神」に欠けた名作・傑作ってあるのだろうか。
なお、『大映特撮映画大全』(角川書店)に唐沢俊一は参加していない(唐沢なをきは『ガメラ対深海怪獣ジグラ』の解説を担当)。湯浅監督のインタビューをしているのになあ。
やっぱり思春期に聞いていた音楽は大きいよね、ということで。
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