唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ぶれてんの?

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 今回は『熱写ボーイ』5月号に掲載された、唐沢俊一『世界ヘンタイ人列伝』第2回「殺人マニア・武烈天皇を取り上げる。


 まず最初に徳川家光に男色と女装の趣味があったことが書かれている。男色趣味があったのは確かなようなのだが、

父の秀忠が家光を嫌い、弟の忠長に将軍を譲ろうとした(映画『柳生一族の陰謀』の元ネタとなった)事件というのも、こんなところに原因あった(原文ママ)のではないか。

 一般的には、秀忠夫妻が忠長を溺愛していたのを心配した春日局の訴えで、家康が家光が後継者であることを決定したとされているのだが、さて、それ以降に秀忠が家光を廃しようとしたことがあったのだろうか。


 その次に、家光には女装趣味どころか辻斬りの趣味があって、柳生十兵衛が美女に化けてこれを止めた、という話が書かれている。だが、三田村鳶魚は家光が夜中に江戸の街に出かけていたことは事実だが、辻斬りは「虚誕」であるとしている。講談でよく出てくるネタらしいが、真に受けてはいけないようだ。
 しかし、真に受けてしまった唐沢俊一は、「美女好みのヘンタイの家光に気に入られるくらいだったのだから十兵衛は実は美青年だったのでは?」などという話をした後で、家光が殺人愛好症であったことを合理的に説明しようとするのであった。

 ひとつは、戦国の夜(原文ママ)から何代もたって、世継ぎの遺伝子がだんだんひ弱になっていった末の“身分ある家”ならともかく、家光の頃は、一代さかのぼればまだ戦国の残光が強かった時代であり、サツバツとした空気が国中でまだただよっていた。彼らの数代前は、みな戦でいかに人を数多く殺したかを競い、その数が多い者ど(原文ママ)、出世をしていった。最初から殺人に対する抵抗感の薄い者ほど生存に有利であり、そういうDNAを持った家系が、戦乱が収まったあとに“身分ある名家”になる。殺人嗜好の遺伝子は、名家にこそあるのだ、というわけである。

 「戦国の夜」ってトリュフォーじゃあるまいし。まあ、「殺人嗜好の遺伝子」だなんて胡散臭くてまともに取り合う気にはなれないが、しかし、この説はやろうと思えばもっと上手く膨らませることが出来る。簡単なことで、家光の弟の忠長の乱行と絡めればいいのだ(なお、忠長の乱行については事実であるかどうか疑わしいという)。「この兄にしてこの弟あり」という具合に書けば説得力が出てくる。そして、山口貴由シグルイ』にも触れておけば、マンガ好きの読者には伝わるはずだ。…デタラメを書くにしても芸がないね

 もう一つの答えは、方向性がちょっと逆で、どんな名家でも、いや、名家であればこそ、その血統を大事にして、近親婚を繰り返し、DNAの保存を望む場合が多い。そのような行為は、生れてくる子供の肉体や精神のどこかに欠陥を生じさせる場合が多い。長く続き、その血統が純粋に保たれている場合、もともと遺伝子の中にある小さな欠陥であっても、それが増幅した形で現れる場合がある。王族や貴族の中に、時に精神異常的性格が現れやすいのは、このためである、というのだ。

 「ちょっと逆」どころか最初の説と完全に逆だろう。しかし、この説が成り立たないのはすぐにわかる。徳川家は家康の代で成り上がった家であって、少なくとも家光の代では唐沢が書いているような「名家」にはあてはまらないのだ。

 もちろん、欠陥が増幅されるということは、長所も増幅されるということである。家光は徳川家の長期政権保持のためにさまざまな改革を行い、また、日本を海外の侵略から守るために鎖国政策を打ち出すなど、非常に果断な政治を行う優れた才能を発揮した将軍だったが、そのことと、殺人癖があったということは、何の矛盾もなく、一人の人間の中に同居できるのである。

 欠陥が増幅されたからって、必ずしも長所が増幅されるわけじゃないだろう。優れた才能がある殺人者、というと何やら魅力的に思えなくも無いが、実際のところはそのような人間は稀有な存在である(絶対にいないとは言い切れないけれど)。

思えば、ロリコン殺人の元祖となった宮崎勤知能指数はレオナルド・ダ・ビンチと同じ135であった。

 このくだりを読んだときにはひっくりかえりそうになった。ダ・ヴィンチの時代には知能指数という概念が無かったのに、どうやって知能指数を算出したのか。ダ・ヴィンチはいつテストを受けたんだ? 雑学集というサイトを見て信じちゃったのかなあ。


 さて、ここから武烈天皇の話になる。

 こういう、一人の人間、それも高貴な血筋の人間の中に、輝く才能と残虐な狂気が同居しているという代表は、日本においては第25代のオオキミにあたる、武烈天皇だろう。

 わざわざ「オオキミ」と表記する理由がよくわからないが、続いて『日本書紀』が武烈天皇をどのように評価しているかが書かれている。

「刑罰の是非の判定を好まれ、法令に通じ、日が暮れるまで政務を行い、隠れた冤罪も必ず明らかにし、訴えを処断されても道理にかなっていた。」
 つまり、裁判を好み、自らその審理にあたり、無実の罪をかぶっている者に関してはそれをことごとく見抜いたというのである。名判官(原文ママ)というわけであろう。
 ところが、そういう絶賛のすぐ後に、こういう記述が続く。
「また、悪行を重ねられ、良いことは一つもなさらなかった。およそすべての極刑で、自分でご覧にならないものはなかった。国内の人民は皆恐怖に震えていた」

 この部分の『日本書紀』の訳は「邪馬台国大研究」というサイトに載っているものをコピペしたものである。…何度目になるかわからないが指摘しておくと、外国語や古文を訳したときには、人によって違いが出るものなので、よそからコピペするとすぐにバレてしまうのである(さらに原文をチェックするとよりわかりやすい)。「世界の三面記事・オモロイド」からパクったのがどうして問題になったのかわかってないのかもなあ。


 さらに続いて、『日本書紀』に書かれている武烈天皇が行った残虐な行為の数々が列挙されているのだが、この部分もやっぱり「古事記なページ」というサイトからコピペしたうえで一部改変したものである。

「即位二年目の九月、妊婦の腹を裂いて、その赤子を取り出して見た」
「即位三年目の十月、人の生爪を剥いで、芋を掘らせた」
「即位四年目の四月、人の頭髪を抜いて、木に登らせ、その木を切倒して、落として殺した」
「即位五年目の六月、人を池の樋に流し、外に流れ出てきた所を、三刃の矛で刺し殺した」
「即位七年目の二月、人を木に登らせ、弓で射落とす」
「即位八年目の三月、女を裸にして、馬と交接させる。その陰部を見て、潤っている者は殺し、濡れていない者は、連れ帰って奴隷にした」


 その後で、唐沢は『日本書紀』での武烈天皇の記述は本当のことなのか?と疑問を投げかけていて、このこと自体は正しい。武烈天皇の後に即位した継体天皇の正統性を印象付けるために悪人にされてしまったという説があるのだ(『日本書紀』における残虐行為とよく似た描写が中国の歴史書にも見られるという)。だが、せっかくまともなことを書いたのに自分からそれをぶち壊しにしてしまっている。

 しかし、ならば武烈という人間は、さきほどの記述の前半だけを信じればいい、名君主であったのか、というと、それもどうも、信じられない。『日本書紀』には、武烈が天皇位を継ぐ前、皇太子時代だった頃のエピソードが紹介されているのだ。

として、武烈天皇が皇太子のときに影媛という女性に横恋慕して、影媛の恋人だった平群鮪(へぐりのしび)を殺してしまい、さらに大伴金村にそそのかされて鮪の父親である平群真鳥(まとり)まで殺してしまったエピソードを紹介した後で、

 ともあれ、いくら金村にそそのかされたとはいえ、恋人をとられた腹いせに殺してしまおうとする武烈が、まっとうな精神の持ち主だったとは思えないのである。

と書いて、コラムを締めている。なお、唐沢は鮪のことを「鯖」と誤記している。
 …どうして天皇時代の武烈天皇の記述を疑問視しているのに、皇太子時代の記述は信用してるんだろう? 理由がわからない。はっきり言うと、今回のコラムは構成を間違っている。天皇時代の残虐行為→『日本書紀』の記述には疑問がある→皇太子時代の残虐行為、としているからおかしくなるのであって、皇太子時代と天皇時代の残虐行為を列挙した後で、『日本書紀』の記述には疑問があるということを結論に持ってきて、「残虐行為は恐ろしいが、自らの都合のいいように歴史を改変しようとすることもまた恐ろしい」という風にでもすれば、一応筋は通ったはずなのである。武烈天皇を「ヘンタイ人」にしようとしたための過ちだろう。…まあ、それ以前に今回のコラムは全体的に文章がおかしいんだけど。上の文章だと「恋人をとられた腹いせに殺してしまおうとする」って、この書き方だと誰を殺そうとしているのかわからない。また、こういうのもある。

武烈が皇太子だった頃、当時の政治をとり行っていたいたのは大臣・平群真鳥(へぐりのまとり)であった。

「いたいた」って痛々? やっぱり原稿をチェックしてないんだろうなあ。


 さあ、『世界ヘンタイ人列伝』、あと5回残っているけど、検証が終わるまで俺の体がもつかどうか。これから連載も追いかけていかないといけないしなあ。

※追記 gurenekoさんのご指摘を受けて追記しました。

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