唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ジャイアント・アンド・トイ。

「裏モノ日記」8月26日のタイトルが秋葉原抗うつ博物館」だったので首を捻ってしまった。
「はて。交通博物館2006年に閉館しているんだけど…」
 閉館したことを知っているのなら受けの文章でも触れて良さそうなものだが。唐沢俊一のアンテナの鈍さからすると、閉館を知らなかったことも有り得るのが怖い。


 唐沢俊一ソルボンヌK子『昭和ニッポン怪人伝』(大和書房)のまえがきにこのような箇所があった。P.3〜4より。

もちろん、カラオケの普及には、日本人が誰でもマイクを持って人前で歌うということに対するハードルを下げるという状況が必要である。1960年代までは、人前で歌ったり拍手を浴びたりすることに、極端な照れや恥じらいを感じる人々が、かなりの数いたのである。

 それが緩和されたのは、60年代のグループサウンズブームで、日本の若者が自分たちで楽器を持ってバンドをやり、プロの歌手ごっこをし始めたことに原因がある。そして、芸能プロダクションも、そのような素人たちを、素人っぽさを残したまま、テレビやステージ上に引っ張り出すようになった。その代表格が、ザ・タイガースである。

 やがて70年代になると、“アイドル”と呼ばれる若手スターたちが次々と人気者となる。天地真理麻丘めぐみといった歌手たちは、最初、歌唱力の未熟さから“プロとも言えないジャリタレ”と酷評されたが、その素人っぽさ、つまり一般人との差のなさによって人気を博し、これは素人にとっても人前で歌うことへの敷居がぐんと下がったことを意味した。

 カラオケの普及は、単にカラオケの機械が発明されたということによるのではない。このような日本人の意識の変化が、そのニーズを生み出したのである。

 この文章のおかしさについては6月4日の記事歌声喫茶の存在などを挙げて指摘しておいたのだが、同じ『昭和ニッポン怪人伝』のあとがきにはこのような箇所がある。P.220より。

 1958(昭和33)年に公開された、『巨人と玩具』という映画がある。開高健原作、増村保造監督で、当時の広告業界の加熱した宣伝合戦を徹底して皮肉った作品だ。
 キャラメルの売り上げ増に命をかける宣伝部長・合田(高松英郎)が、くたびれ切った表情で薬をのむ。部下の西(川口浩)はそれを見て、
覚醒剤ですか」
と何気なく言う。現代の目で見ればひっくりかえるセリフだが、日本でも、覚醒剤取締法が実施される1951(昭和26)年までは、覚醒剤は処方箋さえあれば薬局で簡単に手に入った。この映画の時代にはすでに禁止されていたものの、闇では普通に出回っていたのである。
 高度経済成長期を調べれば調べるほど、当時の社会全体が、まるで覚醒剤を服用したかのようにハイで、常軌を逸した行動も平気で行われていることに呆れ、驚かざるを得ない。何か日本中が、
「自分たちにはできないことはない」
という万能感に支配され、浮かれまくっていたかのような感じである。

 唐沢俊一は麻薬に妙に甘いよなあ」と思いつつ、一応『巨人と玩具』を観てみた。検証を別にしても増村保造の映画なら観ておいて損は無い。で、合田が覚醒剤を服用するシーンは本当にあって、それどころか他の薬とチャンポンで飲むシーンまである。それはいいのだが、『巨人と玩具』の別のシーンを観ていて思わずズッコケてしまった。実はこの映画には歌声喫茶が出てくるのだ。映画の最初の方で西と横山(藤山浩一)が一緒に歌声喫茶に行くシーンがあって、さらにだいぶ後の方になって西が横山に「歌声喫茶に行った時の気持ちを思い出せ」と詰め寄るのである。…えーと、『巨人と玩具』を観ているのにどうして「1960年代まで日本人は人前で歌うことに恥じらいを感じていた」とかそんな話をするんだろうか? 
 唐沢は「裏モノ日記」2007年10月14日でも『巨人と玩具』を観た感想を書いている。

1958年、私の生れた年に作られた映画だが、
あの時代というのはこんなに刺激的で面白い時代だったのか、
と改めて生れてきた時代の遅過ぎたことを悔やむ。
もちろん、その面白さというのは、目まぐるしいほどの
社会変化をリアルタイムで体験できるという、ジェットコースター
的面白さであって、振り落とされて命を落とす危険性も大いにある。
実際、昭和30年代というのは少年犯罪の発生率や自殺率が
ピークを迎えた時代でもあった。
『三丁目の夕陽』のようなのほほんとしたいい時代では
決してなかったのだ。

 『巨人と玩具』は宣伝が加熱していくのを風刺しているのだから、そこは割り引いて考えた方がいいように思う。っていうか、映画1本で時代を判断するのはいかがなものか。『巨人と玩具』と似たようなテーマを扱った映画として吉田喜重の『血は渇いてる』があるけど(『巨人と玩具』の野添ひとみ=『血は渇いてる』の佐田啓二)、登場人物を突き放して描いている『血は渇いてる』を見ても、高度経済成長期が「刺激的で面白い時代」だったとは思えないけどなあ。…まあ、映画で時代を判断するなら本数をこなしたうえでやりましょう、ということで。
 なお、『巨人と玩具』『血は渇いてる』両者のストーリーを比較するためにgoo映画のリンクを貼っておくが、いずれの作品もDVD化されているので興味のある人は現物にあたってほしい。大きめのレンタル店なら見つけられるはずである。

巨人と玩具

血は渇いてる

巨人と玩具 [DVD]

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パニック・裸の王様 (新潮文庫)

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血は渇いてる [DVD]

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昭和ニッポン怪人伝

昭和ニッポン怪人伝