おまえがこれを穿いたら、松の廊下じゃねえかなあ……。
竹宮ゆゆこ『とらドラ!』2巻(電撃文庫)P.31より。
マンガ版2巻(特装版)は素晴らしかった。『じゅっTEN!』(REXコミックス)も良い。
では本題。『唐沢俊一の雑学王』(廣済堂)P.41。ソルボンヌK子のマンガより。
忠臣蔵で有名な松の廊下
(中略)
実際は江戸城の表白書院の廊下で…
白壁に白障子
監督「芝居の背景としては地味だなあ」
演出家「浅野内匠頭は松の間詰めの大名だから…」
松の廊下にしちゃえ!
芝居は歴史を変える!!
「表白書院の廊下」というのはどこのことなんだろう?松の廊下は、まさに江戸城本丸表御殿の大広間から白書院へとつながる廊下なのだが。で、吉良上野介と梶川与惣兵衛(「殿中でござる!」と浅野内匠頭を取り押さえた人)が松の廊下で会話をしている時に内匠頭が吉良に斬りかかったわけである。このことは梶川自身が日記に書き残しているし、事件当日に登城していた多門伝八郎も「松の廊下で喧嘩があった」との知らせを聞いて現場へ駆けつけたことを書き残している。…現場に居合わせた人間が「松の廊下で刃傷があった」と証言しているのを唐沢はどう考えているんだろう?
次に疑問なのが、「芝居」というのは一体何なのか?ということである。ソルボンヌK子のマンガではベレー帽をかぶった演出家が出ているので、あたかも最近になって変えられたかのようなのだが、『仮名手本忠臣蔵』にも松の廊下がモデルとなった「松の間の場」はあるので、不適切な描写であろう。
ついでに書いておくと、松の廊下のふすまには松の並木と千鳥の絵が描かれていたのだが、大きな松の木が一本だけ立った絵が描かれていたとしばしば誤解されるらしく、江戸時代に描かれた「刃傷松の廊下」の絵でもそのような誤りがある(『仮名手本忠臣蔵』の背景にも大きな松の木が描かれている)。
…今回の記事を書くに当たって、赤穂事件について書かれた本をいろいろ調べてみたが、自分が探した限りでは松の廊下で刃傷があったことについて疑問を呈したものはひとつもなかった。だから、唐沢の書いていることが本当なら雑学どころか歴史上の新発見になると思うのだが…。ただ、『雑学王』の同じページには、
討ち入りの際の服装は実はみんなバラバラで、内蔵助が打ち鳴らす陣太鼓も実際にはドラだった
というトリビアも載っているのだが、このサイトにはそのトリビアと「刃傷の現場は表白書院の廊下だった」という話が書かれているので、これがモトネタなのかもしれない。
※追記 みたかさんのご指摘に基づき一部修正しました。
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