唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

『育毛通』にまつわる疑惑。

 最初は軽い気持ちで始めたことだった。「猟書日記」唐沢俊一の『育毛通』(ハヤカワ文庫)とその元となった『現代ヘアーの基礎知識kamidas』(同文書院)が比較されていて、それがとても面白かったのである。
『育毛通』P.204〜205より。

 ちなみに、筆者(唐沢)がいつも帽子をかぶっているのは、キャラクターを固定するための一種の手段なのだが、以前、マンガ家の西原りえこさん(原文ママ)に、何で帽子をかぶっている、と聞かれ、冗談にハゲ隠しだ、と答えたら、彼女に怒られた。
「あたしはハゲでデバラでなくては男と認めないのに、それを隠すなんて男の風上にも置けーん!」
 そんなことはそっちの勝手じゃねえか、と思ったものの、世の中にはこういう趣味嗜好の女性(それも美人)がいるんだな、ということがわかって、非常に興味深かった。
 全国のハゲ、デバラのおじさん、希望を捨ててはいけませんぞ!

 ところが、オリジナルの『kamidas』ではこうなっていたのだ。P.141より。

 ちなみに、筆者もそろそろ前頭部があぶなくなってきていて、ふだん、帽子でそこらを隠している。あるとき、マンガ家の西原りえこさん(原文ママ)に、何で帽子をかぶっている、と聞かれ、ハゲ隠しだ、と答えたら、彼女に怒られた。
「あたしはハゲでデバラでなくては男と認めないのに、それを隠すなんて男の風上にも置けーん!」
 そんなことはそっちの勝手じゃねえか、と思ったものの、世の中にはこういう趣味嗜好の女性がいるんだな、ということがわかって、非常に興味深かった。全国のハゲ、デバラのおじさん、希望を捨ててはいけませんぞ!

…あれ〜?「ハゲ隠し」がどうして「キャラクターを固定するための一種の手段」になったのかな〜?不思議だなあ。…とはいっても、いつものガセやパクリに比べればずっと他愛のない微笑ましい改変だと言っていい。ハゲは決して他人事じゃないしね。たまにはこういうネタもいいだろうと思って、『育毛通』と『kamidas』を入手してみた。…ところが、これが新たな地獄の始まりだった
 実際に本を手にとって見てギョッとしたのは、『育毛通』と『kamidas』とでは、著者の名義が違うのだ。

唐沢俊一著『育毛通』
稲葉益巳監修/唐沢俊一・毛髪探検隊著『現代ヘアーの基礎知識kamidas』

…うわー。『星を喰った男』のケースとダブるなあ。『星を喰った男』も『育毛通』もハヤカワ文庫だしなあ。唐沢俊一は『育毛通』のあとがきでその事情について以下の通り説明している。

 本書の元本は、一九九五年、株式会社同文書院から刊行された『現代ヘアーの基礎知識・kamidas』という本である。元本は、本文中にもお名前の出てくる稲葉クリニックの院長、稲葉益巳博士の稲葉理論の解説書としての解説書としての性格が強いもので、髪の雑学をその付け足しとして書き加えたものだった。
 文庫化にあたり、一般書としての性質を強調するため、稲葉理論解説の部分は大幅に削り、ハヤカワ文庫での僕の前著『薬局通』の続編として、読んで役にはたたないが楽しい雑学の本として、体裁を改めた。稲葉博士の皮脂理論についてご興味のある方は、東京・阿佐ヶ谷にある稲葉クリニックに直接、お問い合わせを願いたい。

疑問その1。稲葉博士に失礼じゃないのか?
 唐沢俊一は「稲葉理論解説の部分は大幅に削り」としているが、『育毛通』では、『kamidas』で稲葉博士の理論が紹介されていた8ページ分と巻末に収録されている稲葉博士のインタビューがカットされている(それ以外にもカットされた部分はある)。しかし、その一方で稲葉博士の理論を紹介していた部分を残していたりするのだからよくわからない。中には稲葉博士の名前をカットして理論だけを紹介している部分もあるのだ。『kamidas』では唐沢俊一とともに稲葉博士も著者として紹介されているのだから、もう少しきちんとした扱いをすべきではないだろうか。『星を喰った男』の潮健児さんといい稲葉博士といい、世話になった人に対して無礼な態度をとっているのがどうもひっかかる。

疑問その2。毛髪探検隊の役割は?
 『kamidas』では唐沢俊一とともに「毛髪探検隊」なるグループが著者として名を連ねている。『kamidas』では「唐沢俊一・左保圭・おおいとしのぶ・伊藤剛」の各氏がライターとして参加していることが表記されている。…あれ、伊藤さんも『kamidas』に参加していたのか。…しかし、疑問なのは、「毛髪探検隊」のメンバーが書いたネタ(インタビューも含む)もあっただろうに、それを『育毛通』ですべて唐沢個人が書いたかのようにしているのは疑問である(『育毛通』では『kamidas』と比較してだいぶ手が加えられているのだが)。唐沢俊一は『育毛通』のあとがきでこのように書いている。

 元本は僕のこれまでの本とは違い、若いライターのみなさんに大きく協力してもらって完成した。文庫化にあたってかなり改稿しはしたが、彼らの熱意ある調査とまとめがこの文庫においても基本になっている。おおいとしのぶ、左保圭、泊倫人の諸君に感謝する。

「泊倫人」は伊藤さんのペンネーム。なお、『育毛通』が出版された1998年4月といえば、唐沢俊一たちと伊藤さんがニフティの会議室でかなりもめた後なので、それを考えるとなかなか興味深い。唐沢の書き方だと「熱意ある調査とまとめ」という風に「毛髪探検隊」が原稿を書いていないかのようなのだが。

…ただ、『育毛通』のケースは『星を喰った男』とは違って、著作権法上の問題があるとは考えにくい。『kamidas』の奥付でも、

(C)Syunichi Karasawa

と単独で表記されているのだ。だが、法律に違反していなければいいってもんじゃない問題なのは、唐沢俊一が物を書く人間の倫理にもとることをやっていることなのだ(これは唐沢俊一の盗用の問題全般に言えることだが)。それは『古本マニア雑学ノート2冊目』(ダイヤモンド社)に収録されている唐沢俊一による自著解説である「唐沢俊一ビブリオグラフィ」を読めば分かる。まず、『kamidas』について「共著」として表記されているので検証していてひっくりかえりそうになってしまった。…ということはやっぱり「毛髪探検隊」のメンバーは原稿を書いていたんじゃないか?『Kamidas』と『育毛通』は内容にそれほど大差はないのだから(くりかえしになるが表現はだいぶ書き換えられている)、勝手に唐沢個人の著書にしてはいけないのではないか。「ビブリオグラフィ」を書いた時点では文庫化するつもりがなかったから「共著」とつい本当のことを書いてしまったということなんだろうか。そして、唐沢による『kamidas』の解説がトンデモないものなのだ。

 これは持ち込み企画本で、某育毛研究所の宣伝用の本を出したいのだが、それだけでは誰も読んでくれないと思うので、髪の毛に関するエッセイを書き足して、雑学本の体裁にしてくれないかと依頼されたもの。最初はM新聞社のムックで出す予定だったが、いろいろとトラブルがあり、最終的に同文書院からの発行となった。若手のライターたち、イラストレイターたちと組んで仕上げたが、後半のヨイショ記事がつらく、やる気がなくなって途中で放り出してしまい、後半はほとんど編集部のE氏がまとめてくれた。申し訳なく思っている。ただし、出来の評判はよく、版を重ねたそうである。

…えーと、「ヨイショ記事」を書くのがつらくて放り出した人が、なんで「文筆業サバイバル塾」なんか主宰してるんだろう。いや、自分の書きたいものが書けないのはつらいだろうけど、悪口を言っちゃダメだって。…この人が今までサヴァイヴできたのがつくづく不思議になる。
 余談だが、『古本マニア雑学ノート2冊目』の著者紹介を読んで笑ってしまった。

1958年、札幌生まれ。
アニメ評論、演芸プロデュース業を経て、マンガ原作者・作家となる。
古本評論マンガ『古本市血笑旅』が業界で話題となり、B級カルト本評論家として注目を浴びる。

…「アニメ評論」ってアニドウの同人誌に寄稿していたこと?まさか、「ガンダム論争」は含めてないだろうな。『古本市血笑旅』(『脳天気教養図鑑』に収録)が話題になったのか…、弟さんに感謝しようよ。

 唐沢俊一がハヤカワ文庫から出しているのは、どれも他社で一度単行本として発売されたものである。

唐沢俊一『ようこそカラサワ薬局へ』(徳間書店)→唐沢俊一『薬局通』
潮健児『星を喰った男』(バンダイ)→唐沢俊一編著『星を喰った男』
稲葉益巳監修/唐沢俊一・毛髪探検隊著『現代ヘアーの基礎知識Kamidas』(同文書院)→唐沢俊一『育毛通』

…そのうち2つが「共著」を自分単独の著書としたものである。そして、現在新刊として入手できるのは、最初から唐沢俊一の著書だった『薬局通』だけであるのは興味深い(ただし『薬局通』はガセだらけである。当ブログ内を「薬局通」で検索すると記事がゴロゴロ出てくるはずである)。もうひとつ気になるのは、ハヤカワ文庫から出た3冊の本について編集者の名前が記されていないことだ。唐沢俊一は著書の後書きで必ず担当編集者への謝辞を書くのだが、ハヤカワ文庫から出た3冊についてはそれがない。そういえば、早川書房に電話したときに担当編集者の名前を聞いてみたのだが教えてくれなかったっけ(文書で問い合わせれば教えてくれるかもしれないが)。なお、『Kamidas』を出版した同文書院に電話で問い合わせてみたのだが、当時の事情を知る人がいないらしく詳しいことはわからなかったこともここに記しておく。この件も『星を喰った男』と同様に現在も調査を続けているので何か新事実が分かれば記事にするつもりである。

育毛通 (ハヤカワ文庫 JA (598))

育毛通 (ハヤカワ文庫 JA (598))

カミダス―現代ヘアーの基礎知識

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