『金枝篇』をモトネタにするのは禁止。
『唐沢俊一のトンデモ事件簿』(三才ブックス)の中で説経節『さんせう太夫』の中で山椒太夫が鋸挽にされるシーンについて、唐沢俊一が
罪人たちの処刑に託して、自分たちの罪や汚れを一身に引き受けて地獄へ持って行ってくれるよう、庶民は願ったのである。
と書いていることに疑問を投げかけたのは11月1日の記事で書いた通りである。
その後、「それってむしろキリスト教の発想なのでは?」「仏教にそういう考え方はないなあ」というコメントが寄せられ、多くの人を悩ませてきたのだが、どうして唐沢俊一がこのような文章を書いたのか、唐沢自身がネタばらしをしているのを発見した。『トンデモ事件簿』P.107より。
死刑が犯罪抑止に本当に効果があるのかどうか疑問の声もあるが、しかし死刑は国民の意識の安定に効果のあるイベントなのである。法が的確に執行されて国の秩序が守られている、という安心感もあるが、もう1つ、死刑囚に(原文ママ)国民の罪を代理に背負ってあの世に持って行ってくれるという、フレイザーのいわゆる“身代わり信仰”が、その深層の心理に通底しているのである。
先に、説経節『さんせう太夫』の、山椒太夫処刑のシーンのことを書いた。いくら罪人とはいえ、自分の子供の手で鋸で挽き殺される凄惨な場面ながら、この状況にどこかカーニバル的な、陽気な雰囲気すらただようのは、処刑は単に悪人の命を奪うだけではなく、悪人の命と引き換えに、善男善女を減罪させて魂を極楽へ導く儀式でもあったからだろう。悪人の最期をできるだけ派手に、陽気に送ることで、その悪人に自分たちの背負っている罪障までをも、引き受けてあの世へ持っていってもらおう、と昔の人は考えたのである。そして、その、自分たちの罪をできるだけ数多く背負ってあの世(地獄)へ流してくれるためには、その罪人の存在ができるだけ大きいこと、要するに凶悪犯であることが必要とされる。凶悪犯であればあるほど、常人以上の、多くの罪を背負って逝ってくれるパワーがあるのである。
というわけで、モトネタは『金枝篇』でした。…まあ、無茶な話だ。『さんせう太夫』と『金枝篇』って何の関係もないもの。だいたい、『山椒大夫』について大ボケをかましている唐沢俊一に『さんせう太夫』と『金枝篇』を結びつける荒業は無理である。「裏モノ日記」2007年12月8日より(ここにも「フレイザーの“身代わり信仰”」の話がある)。
これは偶然にも数日前、ラジオライフの原稿に書いたことだが、
説経節の代表作『さんせう太夫』では、森鴎外の『安寿と厨子王』
と違って、山椒太夫は国守となった厨子王にとらえられ、
鋸挽の刑に処せられる。その鋸を、なんと太夫の息子に挽かせるのだが、
息子の三郎は父の首を鋸で挽き切るとき、
「ひと引きひいては千僧供養、ふた引きひいては万僧供養」
と歌いながら鋸を挽くのである。
鷗外の小説は『山椒大夫』だ。『安寿と厨子王』は『さんせう太夫』を子供向けに改変したものである。
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