唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

もっと丁寧に。

『史上最強のムダ知識』P.83

 ここで紹介されているトリビアは、「1ページ半の論文で、ノーベル賞をとった科学者がいる」というものだが、「1ページ半」といっても用紙や文字のサイズがどのようなものか、どんな形式で発表されたものかわからないので困る。ちゃんと『ネイチャー』に掲載されたということを書かなければ説明不足だと言わざるを得ない(その論文はこれ。ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの「デオキシリボ核酸の構造」といえばみなさんご存知のはずである)。どうしてやることがいちいち雑なのか。そして、今回取り上げるネタも、とても雑な紛らわしい書き方をしていて、こっちが頑張って読み取らないとガセになってしまうという困った話なのである。

なお、ライナス・ポーリング博士という人が、ワトソンらと似たようなアイデアを、彼らより9年も前に思いついていた。が、ポーリング博士は、DNAの構造を「三重らせん構造」としたために、ノーベル賞を取り損ねた。
その後、ポーリング博士は、翌1954年に「化学結合の本性、ならびに複雑な分子の構造研究」で、ノーベル化学賞を受賞し、名誉挽回した。
そのうえ、1962年には、核兵器に対する反対運動の功績で、ノーベル平和賞も受賞している。全く別ジャンルで2つのノーベル賞を受賞したのは、このポーリング博士だけである。

 
 「ワトソンらと似たようなアイデア」についても説明不足でよくわからないが、唐沢の書き方だと、ワトソンとクリックは『ネイチャー』に論文を発表したことで、すぐに1953年のノーベル賞を受賞できたかのように読めてしまう。だが、ワトソンとクリック(およびモーリス・ウィルキンス)が実際にノーベル生理学賞・医学賞を受賞したのは1962年(つまりポーリングの平和賞受賞と同じ年)のことである。それに加えて締めの文章にも問題がある。

全く別ジャンルで2つのノーベル賞を受賞したのは、このポーリング博士だけである。

 これだけを読むと、ノーベル賞で異なる部門の賞を獲得したのは、ライナス・ポーリング一人だけのように考えてしまうだろう。だが、実際にはポーリングのほかに、マリー・キュリーノーベル物理学賞と化学賞を獲得している(物理学賞=1903年、化学賞=1911年)。「全く別ジャンル」という書き方をしているところを見ると、唐沢俊一が物理学と化学の違いをわかっているかどうか心配になってくる。まあ、理系の学問はあきらかに不得意そうだが。そして、ノーベル賞について「ジャンル」というのもどうだろう。「部門」「分野」ならわかるが。
 付け加えると、ポーリングの真の偉業とは、ただ一人「個人でノーベル賞を2度受賞していることである。ノーベル賞を2度受賞しているのは、ポーリングとキュリー夫人のほかに、ジョン・バーディーン(物理学賞=1956年、72年)とフレデリック・サンガー(化学賞=1958年、80年)がいるが、ポーリング以外の3人はいずれもどちらか一方の賞を他の研究者と共に受賞しているのだ(キュリー夫人は物理学賞を夫であるピエールと共に受賞している)。