唐沢俊一のネタの使い回し・その4
今回指摘するのは、唐沢俊一『トンデモ一行知識の世界』(ちくま文庫)P.68〜72の「モンゴルでは羊を食欲のほかに性欲の解消にも使っていた」と、唐沢俊一/著・唐沢なをき/画『カラサワ堂怪書目録』(光文社知恵の森文庫)P.94〜99の「猿社会を生きてきた男“猿渡”―『愛情生活』」である。ただし、これはどっちが先に書かれたものなのか良く分からない。『一行知識』の方は1998年8月に発売された単行本のために書き下ろされたもので、『怪書目録』の方は『小説CLUB』1996年9月号から1999年9月号まで連載されたものをまとめたものなので、書かれた時期がカブるのだ。
まず、『一行知識』ではこのように始まっている。
こないだ北海道でジンギスカン鍋を食べてきたのだが、なぜ羊の焼肉をジンギスカン料理と言うか、同行者のうちに知ってる者がいなかった。
あれは昔、モンゴルで成吉思汗(ジンギスカン)の軍隊が行軍している最中、兵隊の性欲を解消させるために羊の群れを連れていた(羊のアソコは大変に人間にアジワイが似ているそうで)。で、使用後の羊は殺して、焼いて食った。食欲
と性欲の両方を満足させられる、大変に重宝な存在だったわけである。羊というのは。それで、羊料理のことをジンギスカンと言うようになったのである。あの鍋が山型をした独特の形だが(原文ママ)、あれは料理の際に、かぶっていたカブトを鍋がわりにしたから、と言われている。
で、あるから、サッポロのビール園も、ただ羊を食わせるだけでなく、そこは
伝統にのっとって、ワキに性欲処理コーナーを設けるべきだと思う。行くと、カコイに羊がつながれていて、そこで一発やってから、おもむろに食卓につく。名物になると思うがいかがだろう。
このトリビアがガセだというのは、「唐沢俊一は和製ライアン・コネルだった!?」で指摘したとおり。続いて、『怪書目録』の出だし。
先日、故郷の北海道に帰ってジンギスカン鍋を食べてきたのだが、なぜ羊の焼き肉をジンギスカン料理と言うかというと、昔、モンゴルで成吉思汗の軍隊が行軍するとき、兵隊の性欲を解消させるために羊の群れを連れていたことが元だという。で、使用後の羊は殺して、焼いて食った。食欲と性欲の両方を満足させられる、大変に重宝な存在だったわけである。
「で、使用後の羊は〜」以下は完全に同じ。ガセネタを3冊の本(『一行知識の世界』、『怪書目録』、『世界の猟奇ショー』)で使いまわしていることになることになるわけだ。…こういうやり方で原稿料をもらってもいいものかどうか…、いや、業界ではアリなのかも知れないけども。
『一行知識』では、続いて某国立大学のサル研究所で「人間とサルとのセックスは可能か」ということが議論になったというエピソードが入る。しかし、このエピソードは「トンデモない一行知識」によってガセだと判定されている。
そして、『一行知識』では、カストリ雑誌『愛情生活』昭和27年8月号の特集記事「猟奇!獣姦実話選」の紹介に入る。『怪書目録』では、大学研究所のエピソードは無くて、ジンギスカンに続いて『愛情生活』の紹介に入る。
まず『一行知識』の文章。
その記事「猟奇!獣姦実話選」の目次がスゴい。
「山羊と遊んでいる変態男」
「馬のために新婦に逃げられた男」
「猿の貞操を奪った奴」
「猫又とあだなのある男」
「犬を追いかける×痴」
「性病を治すために驢馬と性交する男」
「兎の尻はなぜ裂ける」
「狐と同棲した変態男」
「鶏と交わった妙な青年」
などなど……である。「猿の貞操を奪った奴」って、サルに貞操なんてあるのか?
次に『怪書目録』の文章。
この特集、タイトルもすごいが目次がまたすごい。
と目次を列挙して(なぜか「犬を追いかける×痴」だけ省略されている)、
語尾に「ね」をつけた以外は同じですね。そして、「猿の貞操を奪った奴」の紹介に移る。最初に『一行知識』。
「こんなことを言っても、あなた方はおそらく信じはすまいと思う。だがこれは本当の話なのです。信じなくてもよろしいが、それならばある男の話として聞いてもらいたい。自分自身が、今となってはどうしてあのようなことになったのか、不思議に思っているくらいなのですから。」
と、思わせ振りにこの記事は始まるが、その証言者の名前が「猿渡」というところがまたアヤシイ。この男は記憶喪失になって山中をさまよううち、いつの間にかサルの群れに交じり、そこでサルと一緒に暮らしていたという。サルの群れは人間の社会と違ってまったくの自由で、権力の横暴も、裏切りもウソも何もなく、その中で彼は本当の自然に帰ってのびのびと暮らしていた。
続いて『怪書目録』は、まったく同じ箇所を引用した後で(ただし、句読点が異なる部分がある)、
……と、思わせぶりにこの記事は始まる。ある日山から見知らぬ男が下りてきて、自分はこれまで猿の群れの中で生活してきた、という驚くべき事実をあかすのであるが、その証言者の名前が“猿渡”というところがどうにもアヤシイ。
この男はどういう理由か、記憶喪失になって山中をさまよううち、いつの間にか猿の群れに交じり、そこで猿と一緒に暮らしていたという。猿の群れは人間の社会と違ってまったくの自由で、権力の横暴も、裏切りもウソもなにもなく、泥棒などがあった場合は警察の手をわずらわせずとも親兄弟の中で処罰が決まっている、理想郷のような世界だったという(おいおい)。その中で彼は本当に自然に帰って、のびのびと暮らしていた。
一読するとわかるだろうが、『怪書目録』の方が詳しい説明がされている。とはいうものの、重複する文章が多すぎる。 この後、『一行知識』も『怪書目録』も「猿の貞操を奪った奴」からまったく同じ箇所を引用していき(ただし、漢字表記だったところがかな表記になっている部分があって、問題のある引用である)、締めの文章となる。まず『一行知識』から。
……ウソだあ、と言うのは勝手だが、しかし某国立大学が貴重な実験をしそこねたいまとなっては、この証言を信じる以外にないではないか。
次に『怪書目録』から。
ウソだあ、とここまで読んで私もさすがに本を放り出した。いくら脳天気本評論家だと言っても、これを放り出さないわけにはいかない。……今回、このエッセイを書くために、以前放り出したところから先を読む必要が生じたが、まとめとして、彼の話を聞いていた青年達は、
「この男に妙な憎しみを感じていた」
ともらしたとここに書かれていた。
それどころじゃねえだろう、青年達!
最後のツッコミがスベっているような気がするが、それはともかく、『怪書目録』の方が詳しく書かれているのは明らか。雑誌に掲載されていた挿絵と唐沢なをきのイラストが載っているのもお得だ。
しかし、どうしてネタを使いまわすのか不思議である。せめて「猟奇!獣姦実話選」から他の話をチョイスすればいいんじゃないか?と思うのだが。ネタを使いまわしていたのでは、せっかくの「蔵書2万冊超、総額1000万円」のコレクションも泣くのではないか。
<追記>
藤岡真さんに「猿の貞操を奪った奴」は『世界の猟奇ショー』P.51〜54でもネタにされているとの指摘を受けました。つまり、三重の使い回しだったわけですね。
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