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今日の『朝日新聞』朝刊17面「ビジネス書を楽しむ」に唐沢俊一の「夢の世界に遊ぶ「恋愛小説」」というインタビューが掲載されている(担当は尾沢智史記者)。なお、「ビジネス書を楽しむ」には唐沢のほかに、小宮一慶、山田玲子両氏のインタビューも掲載されている。
ビジネス書最大の謎は、売れている本の著者が、カルロス・ゴーン氏のような誰もが認める成功者ではなく、聞いたこともないベンチャー企業の経営者やどんな実績があるのかもわからないコンサルタントである場合が多いということです。
小説を読む人が主人公に感情移入するのに対し、ビジネス書の読者は著者に感情移入する。著者と自分を重ね合わせて、自分もこういう成功物語を書きたい、他人に成功の秘訣を得々と述べてみたいと思いながら読む。でも、ゴーン氏や松下幸之助氏のような真の成功者には、あこがれることはあっても感情移入はしにくい。だから、ビジネス書の著者は「なんとなく成功しているように見える」程度の人が望ましい。なるべく自分と一体化させやすい人がベストなんですよ。
2009年のベストセラー・ビジネス書部門の第5位にに入っている『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)は、松下幸之助の講話をまとめたもの。それから、カルロス・ゴーン『ルネッサンス 再生への挑戦』(ダイヤモンド社)は2002年のベストセラー・ビジネス書部門第7位に入っている。あと、『ビル・ゲイツ未来を語る』(アスキー)も1996年第2位。
最近のビジネス書のベストセラーといえば、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)だけど、あれなんか誰に感情移入するんだろう。茂木健一郎や勝間和代に感情移入できるかというと…。さらに言えば、唐沢俊一だって『博覧強記の仕事術』(アスペクト)というビジネス本を書いているのだけど、奇妙なことにその話はインタビューの中で全く出てこない。尾沢記者は知っていたのかなあ? …まあ、唐沢が「「なんとなく成功しているように見える」程度の人」というのは否定しない。
大半のビジネス書には「こうすればこんなに成功します」と書いてある。でも読む方は、書かれていることを実行して、実際に成功しようと本気で思っているわけではない。一時、自分が成功者になったかのような夢の世界に遊ぶことができればいいんです。女性がロマンス小説を読んで、主人公になったかのように恋愛話を楽しむのと同じですね。ビジネス書はいわばビジネスマン向けのハーレクイン・ロマンスなんです。
ふーん、そういう考えで『博覧強記の仕事術』を書いたのか。…それって真剣に勉強しようとしている読者をナメているんじゃないか?と思われてならないが。まあ、『博覧強記の仕事術』を読んだら悪夢の世界に遊ぶことができましたが(2009年9月23日の記事を参照)。もっと出来のいいロマンスを書いて欲しい。
いま、ビジネス書の棚に表れているのは、強い閉塞感です。一時期多かった起業やベンチャービジネス系の本は激減し、自分一人でできるネットビジネスや株のデイトレーディングなどを勧める本が増えた。かつては「嫌な上司と付き合う方法」とか「部下はこう育てろ」的なものが主流でしたが、いま読まれているのは自己啓発、自己改造系の本です。あなたには誰にもまねができないすばらしい能力がある、ただそれを引き出せていないだけだから自己実現しなさい、と説く。他者との関係に目を向けず、すべてを「自分」に収斂させる傾向が強くなってきている。
これはそういう一面もあるのかな、とは思ったが、2010年上半期のビジネス書のベストセラーを見ると、意外にも自己啓発・自己改造系の本は無くて、逆に「他者との関係」を重視したものがいくつかあった。簡単に言い切るのは危険だな。…っていうか、唐沢俊一も『博覧強記の仕事術』で自己啓発めいたことを言っている。P.11より。
博覧強記の世界へようこそ。
あなたも、誰でも、ちょっとした工夫と努力で現代の博覧強記人になれるのだ。
ふだん「世界にひとつだけの花」理論で若者をバカにしている人の言うこととも思えない(編集を担当した大内明日香女史がやった可能性もあるけれど)。
さらに注目すべきなのは、特にリーマン・ショック以降、ビジネス書の棚に、ユダヤの陰謀や9・11アメリカ自作自演説といったトンデモ系陰謀論の本が目立つことです。書店の人に聞くと、陰謀本とビジネス書を同じ人が買っていくというんですね。
経済がなかなか回復せず、先が読めないために、「こうすれば成功する」というだけの本にはリアリティーが感じられなくなった。「なぜ自分はうまくいかないのか」という不満が、「成功を阻んでいる何ものかがいるんじゃないか」「陰謀があるんじゃないか」という被害妄想に行きやすい。誰か「犯人」を見つけて、自分が悪いわけじゃないんだという安心感を得ようとしているのではないか。かなり危険な兆候だと思います。
へ? さっきは「他者との関係に目を向けず、すべてを「自分」に収斂させる傾向が強くなってきている」と言っていたのにそれじゃ真逆じゃないか。俺は全然逢ったことはないけど、自己啓発に走り陰謀論を信じるビジネスマンってそんなに多いのか? そもそも、どこの書店でそんな話を聞いたんだ?
それから、これはトンデモ本についての基礎教養だと思うが、もともとビジネス書にはトンデモ本が多いのだ。「と学会」でもよく取り上げられているよね。宇野正美『ユダヤが解ると世界が見えてくる』(徳間書店)は1986年にベストセラーになっているから、不況だからユダヤ陰謀論がウケるというわけでもないだろうし。
…ともあれ、唐沢俊一がビジネスマンを見下しているのがわかって不愉快である。「知ったことか!」と金剛番長みたいに言いたくなる。しかし、それでいながら『博覧強記の仕事術』を書いたわけだからなあ。ヘンなの。
※ dakkokkoさんからのご指摘に基づき追記しておきました。
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