Who will know.
1年9か月ぶりの更新。
唐沢俊一氏と町山智浩氏が久々にバトっている(togetter)。 きっかけは庵野秀明監督のインタビュー内での発言を紹介したある人のtweetを唐沢氏が引用してこのようにツイートしたことだ(当該tweet)。
国民はみんな、国政に頑張っている安倍首相の足を引っ張る野党の姿にストレスを感じていたのですね。なんか今の若い人の感覚に、すごく納得。
なお、元々のtweetは発言者が騒ぎに疲れてお気の毒にもアカウントを非公開にしてしまったため現在直接確認できないので、孫引きではあるがはてな匿名ダイアリーの方で確認してほしい。
ブログ主は現在長い文章を書ける状況にはなく、今回の騒動について詳しく考察することはできないが、庵野監督の発言をきちんと確認しないままバトルが続いているのは不健康に感じたので、おせっかいにもグランマ・ハートを発動させてみることにした。日本語で言うところの老婆心である。別のtogetterでもあれこれ言っている人たちもいる。
庵野監督の発言は『THE ART OF SHIN GODZILLA』(グラウンドワークス)に収録されたロング・インタビューにあるので、少し長くなるが書き出してみる。同書P.510より。
映画やドラマだと、手柄だけを取りたい人や自分が責任を取るのが嫌だから、とにかく新しいアイデアや意見を却下する上司とか。とかくコンフリクトを起こす存在がよく出てきます。そして最後に改心するという。
でも僕がドラマや映画を見ているときは、その種のコンフリクトが、ものすごくストレスに感じるんですよ。言い方は悪いですが、頭の悪い人や現状を理解していない人が次々に出てきては、失敗や事件や問題を起こす。その事で話がややこしい方向へ転がっていく。事件を複雑にするためだけに存在する人物が超苦手なんですよ。とはいえ、映画の構成上は冒頭15分くらいに主人公や近い誰かが、間違った選択や面倒な状況に関わらないと物語が展開せずにそこで終わってしまうし、コンフリクトがないと観客が登場人物の感情的なドラマを自分と同一視しないので、主観的なドラマ内容だと必要度数が高いと思います。
今回はコンフリクトによるドラマを排除して、常に気持ちよく展開していく。現実世界ではあり得ないフィクション「理想を描くエンタテインメント」に終始しようと。面白いものだけ、気持ちいい要素だけで構成されているので、何度も見られる面白さにつながるんじゃないかと。それもなんか珍しい感じもするし、いいんじゃないかと思っていました。
はい、以上が該当部分である。「ドラマ」というのはこのインタビューでの重要なキーワードのひとつで、庵野監督は『シン・ゴジラ』の制作中に登場人物の「ドラマ」を増やすよう注文されたり、自分からも「入れた方がいいだろうか」と迷ったりしていて、読んでいるだけでも力の入るくだりである。また、インタビュアーの氷川竜介氏が「シナリオの教科書には「そういうコンフリクトを描け」とあったりします」「ふだん見慣れている映画の定型と違うなと感じました」と合いの手を入れているところを見ると、『シン・ゴジラ』の「ドラマ」のありようはやはり特異なのだろう。
それから、町山氏は上記のtweetのうちのひとつで
「シンゴジラ」には足引っ張っる奴が出ている。大杉漣首相と小池モドキ防衛大臣たちで、そいつらがいっぺんに死んだから仕事が楽になる。
と書いているが、庵野監督はインタビューの中で、
本作では官僚も閣僚も自衛隊員も御用学者に至るまで、皆、一生懸命に責任と目的意識を持って自分の仕事をしている、やるべき事を粛々とやっている芝居だけなんですね。客観的な知性主義で動いて、感情だけでは動かない人物ばかりです。
と語っている(同書P.510)。あの三博士もそうなのかー。
とりあえず出典にあたってほしいというのと、『シン・ゴジラ』について語るなら『THE ART OF SHIN GODZILLA』はできれば読んでおこうよ、と言いたい。値は張るが謎を考察する手間を省いてくれる優れものである。読み物としてもシンプルに面白い。嘘か真か定かならぬ話を確認しないまま感心したり反撥したりする様子に精神的に疲れを覚えてしまったが、それこそが庵野監督が嫌う「コンフリクト」なのかもしれない。
なお、唐沢氏は昨年から『シン・ゴジラ』についてあれこれ語っているので、後日それらを紹介する時に今回のtweetについてもあわせて考えることとする。以前検証の際によく見かけた反動風味の牽強付会を久々に目にしても心は大して動かない。「国民はみんな」は凄いけどね。まあ、お元気そうで何より。
それではまた1年9か月後までごきげんよう。
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