唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

オレたちのオーレオレ詐欺。

『もうひとつのJリーグ』とゴッチャにして覚えていた。






唐沢なをき『まんが極道』が『コミックビーム』来月号からタイトル変更されるとのことだが、現在発売中の『ビーム』11月号掲載の第91回ではタイトル変更にまつわる内部事情をぶっちゃけていて面白かった。新しいタイトルは『ビーム』本誌で確認してほしいが、タイトルが変わっても「実録・唐沢商会シリーズをまたやってほしいところ。



●今日発売の週刊新潮』10月24日号P.52〜55に唐沢俊一『「オレオレ詐欺」を撲滅できない「落語」と「歌舞伎」の心理』というコラムが掲載されている。唐沢さんの署名入りのコラムを雑誌で読むのも随分久しぶりな気がする。
 まずは『週刊新潮』P.52より。

(前略)オレオレ詐欺がこれらと決定的に違うのは“親子の情愛”を利用しているところです。
 無論、親子愛は普遍的なものです。世界中、それは変わりありません。けれど、日本と比べて欧米では個人主義が確立されています。例えば親子ひとつ屋根の下で暮らしていても、子供は物心ついた時から親とは別々の部屋で寝ますし、お互いを「ユー(あなた)」「ミー(私)」と呼び合います。
 そこからしてすでに、個人主義の素地があります。


 この手の「日本特殊論」にありがちではあるが、比較対象が欧米に限定されているのが不思議。アジアやアフリカの事情も考えた方がいいのではないか(ラテンアメリカも入っているのかどうか…)。欧米でも「マミー」「ダディ」とか呼んでいるのでは。
 


 で、唐沢はビジネスライクな欧米では「オレオレ詐欺」は成立しにくいとする。P.53より。

 ところが、日本では子供が泣きついてきたら、親の頭の中は真っ白になってしまう。悲しいかな、困った子供の声に対して生理的に反応し、別のスイッチが入る民族なんです。(後略)


 CNNによるとアメリカでも「オレオレ詐欺」の事例があったとのこと。また、ボイスフィッシングを取り上げた東亜日報の社説の中にも「親子愛」を利用した詐欺の事例が出ている。だから、「オレオレ詐欺」は日本以外でも見られる犯罪なのだが、唐沢は「社会問題化」しているのは日本だけだと書いている。まあ、「民族」とか言われると若干引いてしまうけれども。



 唐沢は、「オレオレ詐欺」にひっかかりやすい日本人の心性が歌舞伎や落語などの古典芸能に表れているとして、最初に『一谷嫩軍記』の「熊谷陣屋」を挙げている。…しかし、「熊谷陣屋」は熊谷直実平敦盛の身代わりとして我が子を斬るという筋書きなので、「親子愛」を大切にした話とは言えないのではないか?と思ってしまうのだが、唐沢はこのように書いている。P.54より。

 自らの忠義のために子を殺すなんて“情愛”も何もないだろう。そう思う方もおられるかもしれませんが、それは早計というものです。
 この話に誰もが痛切、哀切なるものを感じて涙するのは、裏を返せばそれだけ「何よりも子供が大事」だという社会的な合意があるからにほかありません。


 …うーん、「「何よりも子供の方が大事」だという社会的な合意」が本当にあったとしたら、そもそも「自らの忠義のために子を殺す」話は受け入れられないと思うけどなあ。やっぱり、江戸時代は忠義の方が重かったのではないか。他にも『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋」でも松王丸が我が子を菅秀才の身代わりにしている。
 続いて、『東海道四谷怪談』でもお岩の産んだ子供の存在が重要で、お岩だけでなく子供を邪険にする伊右衛門は許せない、と当時の観客は感じた、という風に書いた後で、伽羅先代萩』『加賀見山旧錦絵』といった御家騒動をテーマにした芝居を取り上げている。P.54より。

 内容に詳しく触れるほど紙幅の余裕はありませんが、要は「放埓な殿様や専制的な主君が自分の子に何としても跡目を継がせようとするご無体」が物語の発端に位置づけられています。

 「殿様」や「主君」は「何としても」と意気込むまでもなく普通にしていれば自然と「自分の子」に跡目を継がせられると思うのだけど。『伽羅先代萩』『加賀見山旧錦絵』のあらすじはそれぞれウィキペディアを参照されたいが、どうも唐沢の説明とは違うような。『伽羅先代萩』のモトネタである伊達騒動も『加賀見山旧錦絵』のモトネタである加賀騒動も別に殿様が我が子可愛さに暴走した事件ではないし。あと、唐沢は端折ってしまっているが、『伽羅先代萩』には政岡が我が子の死を目の前にして悲しみをこらえる有名な場面がある。
 その後で、落語の『双蝶々』では親子の愛の不変が謳われている、としている。



 結局のところ、唐沢俊一は、江戸時代から古典芸能によって「文化的DNA」に親子愛を刷り込まれた日本人は「オレオレ詐欺」を撲滅できない、と言いたいようなのだが、思わず笑ってしまった一節を紹介しておこう。P.55より。

 そういう歴史的経緯を踏まえた上で日本を見渡してみると、遺産を元手に事業を起こし、失敗して食いつぶす輩はゴマンとおりましょうが、成功して親に配当を差し出すなんてケースは寡聞にして耳にしたことがありません。


 何故笑ってしまったかというと、他ならぬ唐沢俊一親にお金を出させて会社を作ったからである(2010年12月10日の記事を参照)。唐沢さんはご両親に配当を差し出したのかどうか。まあ、「遺産を元手に事業を起こし」た場合には残念ながら親に返すことはできないのだが。



 感想を率直に言えば、親が子供にお金を差し出すのが日本固有の事情なのか疑わしく、さらに古典芸能の説明もアヤしいので、読んでいてモヤモヤした感じが残ってしまう。ドラ息子や不良娘は海外でもいくらでもいそうなものだし、そもそもこれだけの話に4ページは長すぎる。他にも「?」となったくだりはあるものの、疲れたのであとは興味のある方におまかせしたい。次回もたぶん『週刊新潮』ネタ。



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