東京情報いらっしゃいませ。
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●唐沢俊一はこの1月からどこかの週刊誌で毎週匿名のインタビュー記事を連載しているそうなのだが、手がかりがないためその連載なるものがどの雑誌でやっているのか、これまでわからなかった。本当にそんな連載あるの? とうっかり思ってしまったことは秘密だ。
で、「つぶやき日記」5月22日分にこんな記述が。
もうひとつ、「雑誌の新聞」から『週刊新潮』6月6日号の見出し。
東京情報/「新型鬱」と「5月病」
◆ ヤン・デンマン/肥大性ナルシシズム型精神障害、新型鬱
週刊新潮(2013/06/06), 頁:110
「新型うつ病」→「新型鬱」、「ナルシズム症候群」→「肥大性ナルシシズム精神障害」
キーワードがふたつカブってますね。これは偶然とは考えにくい。
『東京情報』について簡単に説明しておくと、かつて『週刊新潮』で1960年から97年まで長期連載されていた名物コラムで、外国人記者ヤン・デンマンが日本の世相を鋭く斬るというスタイルになっていたが、今年からやはりヤン・デンマン名義で復活している。…って、デンマンさん、今何歳だよ? という話になるので、おそらく「ヤン・デンマン」なる人物は実在せず、何者かのペンネームだろう。「イザヤ・ベンダサン」みたいな。一部にはあの斎藤十一の変名ではないかという話もあるそうだ。わざわざ外国人のフリをして日本を語る、というのが若干奇妙ではあるものの。
それはともかく、さっそく今日発売の『週刊新潮』に掲載されている『東京情報』第21回「「新型鬱」と「5月病」」をチェックしてみた。
コラムの内容を簡単にまとめると、駒込駅近くの庭園までピクニックに出かけたデンマン氏が部下のラッセル君や友人のベルギー人記者とともに、日本の「新型鬱」とアメリカの「肥大性ナルシシズム障害」の話をするという内容になっているのだが、その中にこんなくだりがある。『週刊新潮』P.112より。
ベルギー人記者はアニメオタクでもある。
「昔のヒーロー漫画は、正義感の強い主人公が悪と戦うのが定番だった。でも『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジはナヨナヨした男子中学生なんです。人のために動くわけでもなく、発生する事件に巻き込まれる形で物語が進行していく。都合のいい設定が次々と用意され、人類と戦ったり、美女が現れたりする。あのアニメを見て、多くの若者は“あれは俺だ!”と心の中で叫んだんじゃないかな。自分から動かなくても、いつか大役が回ってくる、そのうち素敵な恋人が現れるだろうと妄想している」
ははははは、確かにっぽいっぽい、唐沢さんっぽい。あんまりぽいぽい言ってるとあやまんJAPANかやまざき貴子になってしまうのでやめておくが、このベルギー人記者は『Q』を観たのかなあ、と思う。シンジくん、エラいことになってるんですが。それに、主人公に都合のいい話が好まれるのって最近に始まった話じゃないでしょう。平凡な主人公が悪をバッタバッタと薙ぎ倒したり、美女(美男)にモテモテだったり、大金持ちになったり。そもそも『エヴァ』ってそんな「都合のいい」話なのか? ベルギー版ではそうなのかもしれないが。
まあ、アニメオタクのベルギー人記者もこの世の中に存在するのかもしれない。なにしろ『タンタン』の国である。ところが、この後デンマン氏まで変なことを言い出す。同誌P.112より。
最近のライトノベルも同じパターンが多い。彼らには「世界が自分を中心に回っている」という大前提がある。こうしたファンタジーに脳が侵された若者が社会に出れば、鬱になるのも当然だろう。
この外国人記者連中はオタクばっかりなのか。秋葉原でピクニックすればいいのに。
それにしても、このデンマン氏の発言もやはり唐沢俊一のラノベ観にソックリである(2012年3月12日の記事を参照)。マンガやラノベを読むと「ファンタジーに脳が侵され」て「新型鬱」になるのか。凄いや。
最近の若者でなくても「世界が自分を中心に回っている」と思い込んでいる人なら唐沢問題に何人も登場しているので、デンマンさんが御存知なのかは知らないが、唐沢俊一というライターに一度取材をしたらいいんじゃないかな。
同誌P.112より。
努力してダメなら自分の能力のなさも自覚できるが、周りの用意してくれるのを待っているだけだから、「悪いのはすべて他人だ!」ということになる。これは多様な人間関係が消滅した結果かもしれない。他者との濃密な付き合いにより自分の弱点を痛感することができるのに、今の子供には最初からその機会が奪われている。つまり、「新型鬱」は現代社会が生み出した病なのだ。
このコラムではずっと「新型鬱」は一種の「わがまま病」として捉えられていて、結局は「近頃の若い者は」論でしかないように思えた。それも唐沢俊一っぽい。
誤解のないように書いておくと、今回の『東京情報』の内容が唐沢の日記の記述とカブっているからといって、これまでの唐沢俊一の論調とソックリだからといって、「唐沢俊一=ヤン・デンマン」が確定したわけではない。ただ、これが偶然であるとも考えにくいため、今後も注意深く観察を続けていき、真相を見極めていきたいと考えている。バックナンバーも一応チェックしておくか…。唐沢のインタビューが元になっているとしたら、やはり編集部の人がだいぶ手を加えているんじゃないかな、とは思った。まあ、ヤン・デンマンの正体が誰だろうと、こんな面白コラムを書かれたら突っ込まずにはいられないのだけど。
●『東京情報』の中の人が唐沢俊一だと断定されたわけではないので、正真正銘唐沢俊一の話も紹介しておこう。だいぶ昔だが、「裏モノ日記」1999年12月22日より。
昨日から、軽い鬱である。そのせいかも知れないが、これは引用資料として書棚から引っ張り出して拾い読みした岡田斗司夫『僕たちの洗脳社会』が、漫談のような語り口に反して、非常なペシミズム、ニヒリズムに満ちた発想から成っていることを改めて確認した。オタク文化を語るとき、それがペシミズムとニヒリズムを根底にしていることを無視しては扱いをあやまるであろうし、逆に、そこに着眼することで、岡田さんや私などを代表とする(らしい)オタクたちの多くが自らの道化性にこだわる理由もわかってくるだろう。筒井康隆の『短編小説講義』に、ニヒリズムと道化性をあわせもった作家、マーク・トゥエインのことを当時の文壇が“時代の無知に便乗し、無知を売り物にした”という批判を加えていたというくだりがあるが、そう言えば岡田斗司夫批判をしている人たちってのも、みな、似たようなことを言いますな。
その「軽い鬱」というのは「新型鬱」? というのは冗談だが、「道化性」というのは唐沢や岡田斗司夫が自らを「芸人」と呼んでいたのと同じことだろう。しかし、唐沢さんや岡田さんに「ペシミズム」「ニヒリズム」ってあるだろうか? 「ウケを取れればいい」「発言に責任を負いたくない」というのは厭世的でも虚無的でもないような気がするが。非倫理的とは言えるかも。それに「道化」や「芸人」というのは安泰を保障されず誰からも尊敬もされないとても厳しい仕事なわけで、それを理解したうえで「芸人」を名乗っていたのか、少し気になる。「オタクたちの多くが自らの道化性にこだわる理由」というのもそんな大層なものではない、と見当はついているけど、それに関しては来たる岡田斗司夫検証で詳しく論じよう。
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