佐野バガン。
●「つぶやき日記」3月10日分より。
公演の準備も胸突き八丁だが、4月の半ばからはネットでの連載仕事も始まる。こっちの準備もしないといけない。今年度の主要な仕事である。クライアントさんは私の名前は宣伝用に考えて、「お忙しいようだから無理をなさらないで」と言ってくれているらしいが、しかしそれで手取りが減るのもイヤだ(笑)。
唐沢俊一の新連載が始まるそうで何より。「宣伝用」だの「無理をなさらないで」だのというあたりに、一風変わった形式であることが推察されるが、どんな内容になるのか気になるところだ。まあ、当ブログはもうじき唐沢検証を終了する予定で、「ここまでやれば終わり!」というポイントは既に自分の中で設定されているので、唐沢の連載があるからといって検証を無理に続けようと思ってはいない。そのポイントまで行くのが大変なのだけど。
ただ、気になるのは「4月の半ば」には、唐沢の演劇ユニットの公演もあることで、前回の公演時には『日中韓お笑い不一致』の執筆が重なってかなり大変そうだったのに、にもかかわらずまたしても公演と執筆のスケジュールを重複させているのが謎。お体には気を付けてほしいものだ。
●今回は佐野眞一について考えてみる。いろんな意味で渦中の人であるが、「唐沢俊一検証blog」としても無関係な話ではないので、番外編的に取り上げてみることにした次第。
現在発売中の『創』4月号には、佐野がパネリストとして出席した「『週刊朝日』連載中止問題と出版ジャーナリズムのあり方を考える」というシンポジウムの模様が紹介されているとともに、『ガジェット通信』で追及されている佐野の数々の盗用に対する佐野本人の弁明が掲載されている。
まずシンポジウムについて簡単に感想を書いておく。パネリストである佐野、高山文彦、篠田博之『創』編集長は「『ハシシタ』の連載中止によってノンフィクション全体がマイナスの影響を受けている」という点で一致していたのだが、個人的に一番興味深かったのは佐野が橋下徹に対して嫌悪感を隠していないところで、高山も孫正義を取り上げた『あんぽん』(小学館)と『ハシシタ』との温度差を指摘している。シンポジウムの中で佐野は橋下が取材に応じてくれなかったことを愚痴っているが、
そもそも僕はなぜ橋下徹という人物をやりたかったかというと、橋下氏が、特にテレビメディアの中で、ほとんど批判されないような、タブーというか、非難してはいけないような存在になりつつあったことに大変な危機意識を持ったんです。それが、この人物をやろうと思った、最初のきっかけです。
という佐野の発言(『創』P.96)を見ても、かなりの先入観を持って取材に臨んだことが見受けられ、橋下が取材を拒否するのも無理はない、とも思えてしまう。そもそもテレビメディアで橋下批判がされていない、という事実認識からして疑問に感じるのだが(桜宮高校の問題で橋下が小倉智昭とTVで討論していたのは記憶に新しい)。
結局のところ、部落差別という問題をきわめて安易に扱ってしまったことは勿論、橋下に対してかなりのバイアスがかかった文章を書いてしまったこともまた重大なのだろう。取材対象者の出自を探るのはノンフィクションの基本的な手法のはずだが、『ハシシタ』のように一方の立場に極端に傾いた文章ではそれが「橋下を貶めるために出自を暴いている」と受け止められてしまったわけである。同業者である高山の困惑ぶりをみても、佐野は罪なことをしたと思う。坪内祐三と福田和也には「佐野さんのノンフィクションはファンタジーだから」などとおちょくられていたしなあ(福田に関しても興味深い話があるので後日紹介するかもしれない)。
続いて盗用疑惑に対する弁明を紹介する…のだが、この弁明につけられたタイトルはいただけない。なにしろ、『「無断引用」問題をめぐる最初で最後の私の「見解」』である。…このブログでは過去に何度も指摘しているが、「引用」というのは本来著作権者に無断でするものであって、「無断引用」だからといって何ら問題になりはしない。要は、「盗用」と書きたくないがために「無断引用」という意味不明な用語で言い換えているだけなのだろうが、言い換えたところで事態は何も変わらないうえに、「“無断引用”なんて言葉を使っているあたり、著作権について本当に無知なんだな」と思われるのでやめておいた方がいい。
それでは、『ガジェット通信』で指摘されている疑惑について佐野がどのように答えているか、まとめておく。
(1)『化城の人』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 参考文献について単行本収録時に明記すれば足りると考え、雑誌掲載時には省略していたが、配慮に欠けていたとして謝罪。
(2)『旅する巨人』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 文中で石牟礼道子の名前を挙げているので「無断引用」にはあたらないと考えているが、誤解を招きかねない表現があったと認める。なお、この件について佐野は過去に石牟礼に直接謝罪しているとのこと。
(3)『QA』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 『ガジェット通信』の指摘を認め、赤瀬川原平に謝罪。この件に関する佐野の弁明を一部引用する。『創』P.109より。
しかしながら、同書を刊行してから約2年後に発表した平凡社発行の雑誌『QA』(1992年7月臨時増刊号)に、『紙の中の黙示録』を要約したエッセイを発表した際、赤瀬川氏の文章からの引用だと明記せず、それに続く地の文の記述も赤瀬川氏の見方に酷似してしまった。
…出典を明記せずに他人のものとソックリな文章を書く、それは「盗用」以外の何物でもないよ。
(4)『宮本常一が見た日本』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 取材対象が重なっているだけで「無断引用」にはあたらない、と否定。
(5)『日本のゴミ』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 山根一眞の著書は参考文献として明示しており、文中にも山根氏の名前を挙げて敬意を表している、と「無断引用」を否定。また、章題のつけ方が似ているというのは言いがかりに等しい、と反論。
(6)「ドキュメント『欲望』という名の架橋」の盗用疑惑(「ガジェ通」): 佐野良衛の文章から引用したことを認めながらも、
問題箇所は客観的事実関係に類することなので、あえてその部分は「引用」としなかった。
と弁明(P.111)。
(7)『あんぽん』の盗用疑惑(「ガジェ通」): 井上篤夫、大下英治、松原耕二の著書については『あんぽん』の巻末に参考文献として明記してあり、また、少年時代の孫正義の詩の解釈について、佐野と松原の解釈は微妙に異なっていると主張。
(8)『紙の中の黙示録』の盗用疑惑(ガジェ通): 当該文章は佐野が自ら取材を行ったうえで「自分の実感でリポートしたもの」だったので、深田祐介『新・東洋事情』を参考文献として挙げると「却って混乱を招く」と思い省略した。だが、その点の説明が不十分だったせいで誤解が生じてしまったと認める。深田には編集者を通じて謝罪済みとのこと。
以上が佐野の具体的な弁明である。個人的に(3)(6)(8)には首を捻らざるを得なかった。問題になった風景描写が「客観的事実関係」にあたるか疑問だし、「自分の実感」を重視したから参考文献として挙げなかった、というのはどうにもおかしな話だと思う。
一連の弁明を読んでいて感じたのは、「佐野眞一は引用の仕方がわかっていない」ということである。地の文章と引用した文章は明確に区別しなければならないのに、読者に誤解を与えるような表現があってはいけないのに、それができていないのだ。佐野ほどの著名なライターにして、と驚きを禁じ得ない。加えて、他人の著作に安易に拠りながら、それでいて他人の著作を尊重しないという面もあるように思う。風景描写なんか自分で書けばいいと思うし、それをやらないから「本当に取材しているのか?」という疑いを招くのである。ライターにとって文章技術がいかに重要かを思い知らされる話である。
さて、佐野は『創』誌上での弁明の最初に次のようなことを書いている。同誌P.106〜107より。
『週刊朝日』の「ハシシタ 奴の本性」の連載打ち切り問題を奇貨として始まった「ガジェット通信」の私への批判の狙いがどこにあるかはわからない。
ただ、いまから四半世紀以上も前に雑誌に書いたルポまで探し出してきて、片言隻句まで問題とされるのは、あまり気持ちのいいものではない。
正直、重箱の隅をつつくような書き方や、鬼の首でも取ったようにはしゃぎまくる物言いに幼稚な悪意を感じた。と同時に、執拗で粘着質な記述にネット常習者特有の陰湿さと独善性を感じた。
そこから類推して、私の物書きとしての信用失墜を狙った批判らしいことは推察できた。
(前略)この騒動の背景には、景気回復とはマスコミの掛け声ばかりで、実際には、閉塞感ばかりが漂う現在の時代状況が陰に陽に働いているような気がする。それを誰かが晒し者にしたいという隠微な情動に火をつけた。
このくだりには笑ってしまった。…いや、唐沢俊一を検証している人たちも「アンチ」などと呼ばれて検証の動機をあれこれ憶測されていたから、「わかるわかる」と思ったのだ。「ガジェット通信」が佐野の失墜を狙ったのかどうかは知る由もないが、自分が唐沢を検証しているのは、「有名なライターなのに書いているものが間違いだらけだったりネットからのコピペだらけだったりするのが面白いから」程度のくだらない動機にすぎないんだけどね。「閉塞感」だなんて大層なものに動かされてはいないし、そもそも動機よりも指摘が正しいかどうかの方が問題じゃね?と思う。たとえ悪意のある人間の指摘であってもそれが正しければ認めるしかないのだ。佐野といい唐沢といい、「平気で盗用する人」は責任転嫁が好きなのだろうか。
あと、ネットを悪者に仕立てる点も佐野と唐沢はよく似ているが、小林よしのりも最近は「ネトウヨ」と戦っているようだし、ネットを悪者にして戦う姿勢をアピールするのは一種の流行りなのだろう。佐野に関しては、Twitterで佐野の盗用を指摘した猪瀬直樹を相手にした方が「ネット常習者」なる存在するかどうかも分からないものを相手にするよりずっといいのでは、と思う。
あれこれ書いてきたが、それでも佐野眞一はエラいな、と思う部分もあるのは確かだ。第一に「ガジェット通信」の指摘に対して一応は答えていること。この点は当ブログの検証対象者に比べると立派であると認めざるを得ない。第二に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム賞と開高健ノンフィクション賞の選考委員を辞任し、レギュラーの仕事を休止してケジメをとったこと。『サンデー毎日』の連載はまだ続いているじゃないか、という指摘もあるようだが、当ブログの検証対象者なんか盗用が発覚しても『朝日新聞』の書評委員を4か月休んだだけだから、それに比べればずっとマシである。日垣隆も盗用発覚後に連載をすべて休止していたことを考えると、佐野がエラいというよりは唐沢俊一の対応のヌルさが際立つ、と考えた方が正しいのだろう。さらに言えば、唐沢が盗用の被害者をクレーマー扱いした悪質さも記憶にとどめられるべきである。…「唐沢俊一検証blog」を名乗っている以上、最後は唐沢の話題で締めてみた。
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・1970年代後半に札幌でアニメ関係のサークルに入って活動されていた方、唐沢俊一に関する情報をご存知の方は下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
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