球は転々日中韓。
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唐沢俊一の新刊『雑学プロファイル・日中韓お笑い不一致』(徳間書店)を読んでいて気になったのは、収録されているジョークを読んでいると中国人と韓国人の区別がつきにくいことである。どちらかと言えば、中国人は尊大で、韓国人は怒りっぽい、くらいの違いはあるようにも見えるが、実際問題として、中国人と韓国人を置き換えても成立するジョークが複数あるので、ジョークに登場する中国人と韓国人はキャラがカブっているのではないか?というように感じられる。
その例をいくつか挙げてみよう。『日中韓お笑い不一致』P.84の「韓国ジョークⅢ」より。
日本人と韓国人が殴りあいの喧嘩をしていた。
やがて警察がやってきて仲介に入った。
韓国人が口を開いた。
「とにかく滅茶苦茶な話なんですよ」
韓国人は日本人を指さして続けた。
「そこの生意気な日本人が、私に殴り返してきたのが喧嘩の発端なんです」
このジョークは、早坂隆『続・世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)P.113の「喧嘩の発端」を改変したもので、モトネタでは「中国人」となっていたのが唐沢の本では「韓国人」になっている(Yahoo!知恵袋「世界のジョーク集」を参照)。
もうひとつ、『日中韓お笑い不一致』P.80の「韓国ジョークⅡ」より。
神「日本という国をつくろう。そこで世界一素晴らしい文化に世界一素晴らしい気候を、世界一勤勉な人間に与えよう」
大天使「父よ、それでは日本だけが恵まれ過ぎています」
神「我が子よ、案ずるな。隣に韓国をつくっておいた」
これもYahoo!知恵袋「世界のジョーク集」にそのまま載っているが、早坂隆『<ジョーク世界戦>中国人VS日本人』(ベスト新書)P.131の「神様の決断」はこのジョークの変形である。
●神様の決断
この世界を創造している最中の神様が天使に言った。
「今度、日本という理想的な国を造ってみた。自然豊かな国土に、勤勉な人々。美しい四季があり、水も豊富にある」
それを聞いた天使が言った。
「しかし、それでは他の国から不満が出るでしょう。一国だけ住みやすい国を造るのは不公平です」
神様はうなずいてから答えた。
「それもそうだ。それでは、隣を中国にしておこう」
やはり「韓国」と「中国」を置き換えても成立するパターンである。早坂氏は『中国人VS日本人』P.3〜4の「はじめに」でこのようなことを書いている。
ちなみに、世界のジョークに出てくるアジア人は、日本人と中国人がほとんどで、韓国人はあまり登場しない。「韓国人のステレオタイプ」が、世界共通の認識としてまだ十分に成熟していないためであろう。つまりジョークになるということは、それだけ日本人と中国人のキャラクターが世界で定着しているということである。
欧米人にしてみれば、日本人も中国人も韓国人もあまり区別がつかないということなのかもしれないが、どうも「中国と韓国を置き換えても成立するパターン」のジョークは日本発祥なのではないか?という気がしてくる。日本にとって迷惑な隣人を笑いの種にしようという発想のもとに作られたジョークとして。唐沢俊一もネタ元として大いに活用している「世界史系ジョークまとめサイト@2ちゃんねる世界史板」の「その他世界史ジョーク」№3を見てもそのように思われてくる。
神は天地を創造された時のこと(原文ママ)。
神「イタリアという国を作ろう。そこには世界一素晴らしい風景と、
世界一素晴らしい食べ物と、世界一素晴らしい気候を与えよう。」
大天使「父よ。それではイタリアだけが恵まれすぎています。」
神「我が子よ、案ずるな。イタリア人を入れておいた。」
このジョークが日本に「輸入」されたときに「中国」パターンと「韓国」パターンが発生したのではないだろうか。
もうひとつ紹介しておこうか。P.108の「韓国ジョークⅨ」より。
数人の韓国人がこんな話をしていた。
「我々は、何かというとすぐ日本人のせいにしてしまう」
「うむ、その通りだ。いったいなぜなんだろう」
「私もわからない。なぜ日本人のせいにしてしまうのだろう」
韓国人たちはしばらくその問題について考え、次の瞬間、全員が同時に叫んだ。
「日本人のせいだ!」
このネタ元は「ジョークアベニュー」だが、『中国人VS日本人』P.28の「諸悪の根源」は上のジョークの変形である。
中国人の学者が集まって、日本について議論していた。一人の学者が言った。
「私たちは何でもかんでも日本人のせいにする傾向があるのではないか。この悪癖の原因とはいったい何だろう?」
学者たちはこの問題提起についていろいろ意見を交わしたが、やがて一つの結論が導き出された。
「この悪癖の原因は日本にある」
だからこれも「中国←→韓国」置き換え可能パターン。
唐沢俊一は『日中韓お笑い不一致』P.105で次のように書いている。
エスニックジョークに登場することが多い、ということは、その国民が非常にキャラが立っているということだ。
たとえばスペイン人というのはあまりエスニックジョークの中に出てこない(例外は闘牛ネタくらいか)国民なのだが、これは、イタリア人との区別があまりつかないからであろう。
そこへ行くと、日本、韓国、中国というのは、外面から見るとほとんど違いがわからないはずなのに、いや、見事にキャラ分けがされていて、名トリオ(!?)を組んでいるといっていい。
スペイン人とイタリア人ってそんなに似ているだろうか?というのはともかく、中国と韓国を置き換えても成立するジョークが複数あることを考えても、「キャラ分け」がきれいになされているとは言えないのではないか。
…それより問題なのは、中国と韓国を置き換えても成立するジョークが複数あるとなると、ジョークを元に国民性を考える試み自体が成り立たなくなってしまう、ということである。ただ単にジョークを紹介するのではなく、類似のジョークがあることも踏まえつつ、ジョークの構造そのものを分析する必要があるのだろう。そこまで行くと民俗学の領域になってしまうかもしれないが。
食べていたらT社O氏から電話。企画通ったので来週打ち合わせを、とのこと。あ〜、通っちゃったよ、とバチあたりなことを思う。これが本業なのだし、この出版不況の中、企画が通ったらもっと喜ばないといけないのだが、これで今年の年末は公演と執筆で地獄の様相を呈すること確定。
この企画は『日中韓お笑い不一致』のことだと思われる(本書の担当編集は大野修一氏)。本書のあとがきには「12月2日」の日付があるので、企画が通ってから執筆が終了するまでほぼ2ヶ月かかったことになる。これが商業出版のスケジュールとして標準的なものなのかどうかは素人である自分には判断できないが、2ヶ月では内容をあまり練り込むこともできなかったろうな、とは思う。とはいえ、「短期間で本を書き上げる」のもライターの腕のうちであることは間違いないので、唐沢俊一は今後もそのようにして重宝されていくのかもしれない。今回の本のような中国・韓国ネタには一定のニーズもあるから、続編も有り得るだろうしね。
とりあえず、『日中韓お笑い不一致』についてはここまでにしたい。また気づいた点があれば後日あらためて取り上げることにする。それから、『日中韓お笑い不一致』で紹介されているジョークとネット上にある元ネタを比較したリストを作成してあるので、もう少し時間が経ってから公開する予定。比べてみるとわかりやすい。
新刊の紹介で1年を締め括ることが出来て、スッキリした気分だ。…とか言いながら、結局のところ、やっぱり今年中に終わらせられなかったんですけどね。ガッカリ。残った2つの大ネタの検証は残念ながら来年に入ってから。
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