哀しい気分でジョーク。
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唐沢俊一の冬コミの新刊は昔の雑誌の読み物を採録したものになるとのこと(公式サイト)。相変わらずの話だが、著作権はクリアーしているのだろうか。一応書いておくと、自分は今回早めに実家に帰るのでコミケには行きません。
唐沢俊一の新刊『雑学プロファイル・日中韓お笑い不一致』(徳間書店)のメインは日本・中国・韓国にまつわるジョークの紹介とそれに解説を加えたものである(ジョークの紹介に1ページ、解説に3ページという構成)。そのほか、解説の中でも別のジョークが紹介されてもいるので、合計すると40以上ものジョークが収録されていることになる。
唐沢は本書の「あとがき」で次のように書いている。P.229より。
本書を組むにあたって、基本となるジョークは、ネットを中心に集めさせてもらった。
これは現在、エスニックジョークが広まる代表的な場がネット社会だろう、と考えていることと、いくつもの新しいバージョンがこういうジョークには常にあり、そのうちの最新のものを参照したいと思ったからである(あえて古い基本バージョンを採録した場合もある)。
他のエスニックジョーク集ですでに有名になっているものもあるが、あくまでもそのジョークから、三国の民族の考え方や行動のルーツを探る素材として、有名無名を問わず使用したもの、とご承知おきいただければ幸いである。
つまり、本書に収録されているジョークはネットで集められたものなのである。まあ、雑学に著作権がないのと同様にジョークにも著作権はないのだから、ネットで拾ったジョークをそのまま紹介しても何ら問題はない、という考え方には一理あるのかもしれない。
ただ、自分が気になったのは、ネタ元が特定のサイトに集中していることである。昨日の夜のうちに調べてジョークの出典およびネタ元と本文との比較リストを作ってみたのだが(発売直後なので公開は後日に)、複数のジョークがピックアップされているのは以下のサイトである(12月21日時点での確認)。
ジョークアベニュー「民族性ジョーク」のコーナー……14個
世界史系ジョークまとめサイト@2ちゃんねる世界史板「朝鮮半島関連のジョーク」のコーナー(その1、その2)……11個
世界史系ジョークまとめサイト@2ちゃんねる世界史板「民族性ジョーク」のコーナー(その1、その2)……5個
Yahoo!知恵袋「世界のジョーク集」……4個
『社会派くんがゆく!』で2ちゃんねらーをバカにしていた人が2ちゃんからネタを拾うのはなんだかなあ、という感じだが、少なくともこれらのサイトについては本の中に出典としてサイト名とアドレスを明記すべきだったと思う。ジョークに著作権はないとしても、ジョークを収集した努力には敬意を払うべきではないか。
ひっかかる点がいくつかある。まず最初に「なぜ日本のサイトだけからジョークを拾っているのか?」ということだ。「日中韓」をジョークで比較するというのなら、中国や韓国のサイトからもネタを拾ってくる必要があるだろう。
もうひとつは「ネットでネタを拾うのはやはり危険」ということだ。例として、P.136の「日本ジョークⅡ」を紹介する。
六か国協議の際、各国の政治家が集まって『どうしたら日本を怒らせることができるか』について話し合った。
中国の政治家が言った。
「我が国は潜水艦で日本の領海を侵犯したが、日本は潜水艦を攻撃してこなかった」
韓国の政治家が言った。
「我が国は竹島を占領した。それでも日本は攻撃してこない」
ロシアの政治家が言った。
「我が国は長きにわたって北方領土を占拠している。なのに日本は攻撃してこない」
それらの話を黙って聞いていた北朝鮮の政治家が、笑いながら言った。
「そんなこと簡単ですよ。我々が核兵器を日本に使いましょう。そうすれば、さすがの日本も怒るでしょう」
すると、アメリカの政治家が首を横に振りながらこう言った。
「もう、やったんだよ、それ……」
これはYahoo!知恵袋「世界のジョーク集」にあったジョークを改変したものである。
各国の政治家が集まって『どうしたら日本を怒らせることができるか』について話し合った。
中国の政治家が言った。
『我が国は潜水艦で日本の領海を侵犯した。それでも日本は潜水艦を攻撃してこなかった』
韓国の政治家が言った。
『我が国は竹島を占領した。それでも日本は攻撃してこない』
ロシアの政治家が言った。
『我が国はもう長きにわたって北方の島々を占拠している。それでも日本は攻撃してこない』
それらの話を黙って聞いていた北朝鮮の政治家が、笑いながら言った。
『そんなこと簡単ですよ。我々が核兵器を日本に使いましょう。そうすれば、さすがの日本も怒るでしょう』
すると、アメリカの政治家が首を横に振りながらこう言った。
『無駄だね。それ、もうやったもの』
唐沢の文章の一番上のカギカッコだけ二重になっているところに名残が感じられるが、ネタ元のYahoo!知恵袋を見てもらえればわかるように、このジョークは早坂隆『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)P.187〜188の「日本人を怒らせる方法」を転載したものなのである。…つまり、本の内容を間接的に改変してしまったわけなのだが、他の箇所では早坂氏の本で紹介されているジョークをYahoo!知恵袋経由で丸写ししてしまっているケースもある。唐沢もそれを知ってか知らずか、上で引用したあとがきの中で、
他のエスニックジョーク集ですでに有名になっているものもあるが(後略)
とことわってはいるものの、ネットで情報を拾う怖さをもう少し感じてほしい、とまことにおせっかいなことを考えてしまった。
また、紹介されているジョークにも疑問がある。P.56の「中国ジョークⅧ」。
プエルトリコ人と中国人をかけ合わせると何ができるか?
運転できない自動車泥棒。
『日中韓お笑い不一致』というタイトルの本で、なぜプエルトリコ? そもそもプエルトリカン=運転できないというイメージがないよ。ちなみに、「ジョークアベニュー」にこれと全く同じジョークがある。
P.88の「韓国ジョークⅣ」。
韓国ジョークを掲載したある新聞に韓国人から抗議が来た。
「何という中傷だ。われわれは怒りっぽくなんかない!!」
「“韓国人は怒りっぽい”という記事を掲載した新聞に…」だったらわかるけど、これはジョークとして成立しているんだろうか。このジョークのモトネタは「世界史系ジョーク集まとめサイト@2ちゃんねる世界史板」の「朝鮮半島関連ジョーク」№13。
ある新聞への投書。
「我々は怒りっぽくなんかない!!」
P.164の「日本ジョークⅨ」。
もしロンドン・テロ誤射殺事件が他の国で起きてたら、
アメリカ:とりあえず必死で隠し通そうとする。でも結局バレる。
警官は裁判にかけられ、涙ながらに「愛する国家のための行為」を主張。
当然無罪。同僚に肩車をされて『国を護った英雄』を讃えるパレード。
中国:射殺されたのはテロ犯だったと意地でも言い張る。
もちろんマスコミは疑問をもたずに報道。
ネット上で「実は誤射では?」と書いた男性がテロ犯の仲間として投獄。
韓国:なんかよくわかんないけど、日本のせいになる。
日本:射殺された男性がいかに素晴らしい人間だったかを特集。
「殺された奴の自己責任論」が唱えられる。警官は戒告処分。
一週間後、逆立ちするアライグマが発見。みんな事件のことを忘れる。
これとほぼ同じジョークが「ジョークアベニュー」にあるが、ロンドンの同時テロでの誤射とかレッサーパンダの風太くんとかいつの話だよ(2005年です)。笑う以前に懐かしくてキョトンとしちゃったよ。
これは現在、エスニックジョークが広まる代表的な場がネット社会だろう、と考えていることと、いくつもの新しいバージョンがこういうジョークには常にあり、そのうちの最新のものを参照したいと思ったからである(あえて古い基本バージョンを採録した場合もある)。
と「あとがき」で書いていたのはなんだったのか。ジョークはとりわけ鮮度が大事なんだから、その辺は気を付けてもらわないと。あと、なぜアメリカが出てくる?
くりかえしになるが、ジョークには著作権がない。だから、ネットや本からジョークを拾ってそのまま載せるかあるいは一部を改変して本に載せても特に問題はない、のかもしれない。ジョークそのものではなくジョークの解説こそが大事なのだ、とも言える。
では、『日中韓お笑い不一致』での唐沢俊一によるジョークの解説はどうなのかというと…、残念ながら自分にはいまいちピンとこなかった。一読してみても「よくある俗流比較文化論」としか思えなかったのだ。上で紹介しているいくつかのジョークを見てわかるように中国と韓国に好意的な人が読んでも面白く思うかは疑問だし、逆に中国と韓国に反感を持っている人が読んで面白く思うほどに「毒」があるわけでもない。自分が唯一ひっかかったのはP.122のこんなくだりくらい。
確かに日韓併合は行ったが、日本は韓国に莫大な援助を行い、インフラを整備し、教育をほどこし、衛生環境を整え、韓国の発展の礎を築いたではないか、というのが日本の本音である。
確かに、創氏改名など、民族の誇りのいくばくかを失わせたかもしれないが、全体的に見れば、その統治は世界に類を見ない良質なものだったはずだ。
現に、同じ方法をとった台湾では、今でも日本にその統治を感謝し、各地に記念碑などを建設している。
なぜ韓国だけが日本をここまでうらむのか。
いや、「民族の誇りのいくばくかを失わせた」のが重要なんじゃないの?と思う。韓国の人間に「日本の統治は良質だった」と説明しても納得してもらえるかどうか。日本人でも「GHQによる日本占領は良質だった」と言われるとモヤモヤする気持ちはあるのではないか。『社会派くんがゆく!』でしばしば「鎖国」を唱えた唐沢俊一なら、他国の干渉は嫌うところではないか、とも思うのだが。なお、唐沢は別の箇所で創氏改名について、かつて朝鮮人が中国風の名前に改名したことを挙げて、
(前略)日本人もあまりそのことに対し、罪悪感を持つ必要はないのではないか。
と書いているが(P.95)、呉智英が昔同じようなことを言っていたから、影響を受けての文章かも知れない。…もしかすると後になって本文中に他に気になる点も出てくるかもしれないので、その場合は追記することにする。
巻末の唐沢俊一・石平・呉善花の鼎談は、実際の体験談もあってなかなか読める。笑ったのは「日本人の笑いは幼い」という話題の時の唐沢俊一の発言。P.187より。
唐沢 (前略)……つい数日前も、私はあるテレビ番組に出演したのですが、お笑い芸人の方たちが、あまりにやかましくて、とにかくギャグで全ての出演時間を埋めようとして、こちらの話を遮るんですよね。そのことでテレビ局に文句を言ったばかりだったので(苦笑)、お話はよくわかります。
『スクール革命!』の件ですね(11月6日の記事を参照)。ザキヤマがうるさかったのだろうか。…っていうか、苦情の内容が違わないか? 遮られるほど話をしてないんじゃ。
次回は、『日中韓お笑い不一致』を読んで気になったある問題について考えてみたい。ある意味この本の根幹に関わる問題かも。
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