唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

唐沢俊一のネタの使い回し・幸福の黄色い判決編。

「裏モノ日記」のダジャレ№1は「幸福の黄色い半可通」(2001年5月31日)だと思うが、今ググってみたらちゃんと表示されない…。



●今日から唐沢俊一演出の舞台がスタートしている(公式ブログ)。自分も一度は唐沢の舞台を観てみたいけど、今の状況ではなかなか厳しい。


最新の「つぶやき日記」では、唐沢俊一が新刊の締め切りに追われている姿が描かれている。発売まで1か月を切っている状況で書かれた日記だからなかなか壮絶である。そんな新刊は明日発売なので、次回のエントリーで見どころを簡単に「3か月ルール」にひっかからない程度に紹介する予定。
 なお、日記の中で出てくる『週刊プレイボーイ』のインタビューは「週プレNEWS」で見ることが出来る(その1その2)。また、やはり日記の中で出てくる『FLASH』のインタビューは12月18日号「日本社会を揺り動かしたあの人気「漫画」25年37作品」の中で紹介されている(P.89)。『FLASH』編集部のまとめ方が上手くないせいか、話があっちに行ったりこっちに行ったりして首を捻ってしまう内容だった。後日あらためて紹介するかも。




●本題。フィギュア王』№10(1998年2月発行)掲載の唐沢俊一のおんなのこってなんでできてる?』第9回「法律文書の中のオタク物件」は、判決文の中でオタク関係の事柄を説明すると珍妙な感じになる、ということがテーマになっているのだが、このコラムを読んだときに「…これ、前にも似たのを読んだぞ」とデジャブに襲われた。
 早速調べてみると、『トンデモ一行知識の逆襲』ちくま文庫)P.55〜62の「漫画『ピーナッツ』の主人公はチャーリー・ブラウンではなく、スヌーピーであると法律で決められている。」と文章が一部重複していることがわかった。ただし、『逆襲』には文章の初出がちゃんと記載されていて、それによると問題の文章は『ガロ』1996年10月号に掲載されているとのことだった。そうなると使い回しではなく『逆襲』の記載ミスの可能性も出てくる。念のために『ガロ』1996年10月号もチェックしてみると、同号に掲載された唐沢俊一の脳天爆発(スポンテニアス・コンバッション)』第10回「著作権で笑おう」と『逆襲』の文章はほぼ同じだったので(文体が変更されるなど修正アリ)、記載ミスではなく使い回しだと判明した。
 最初にふたつの文章を流れを説明する。まずは『逆襲』に収録されているオリジナルの方から。



(1)古本マンガを紹介するときに著作権が障害になることがある
 
(2)著作権について勉強してみようと土井輝生『知的所有権法基本判例著作権>』(同文館)という本を読んだ
 
(3)『キューティーハニー』『サザエさん』『ピーナッツ』『キン肉マン』について判決文の中でどのように説明されているか
 
(4)『仮面ライダーV3』について判決文でどのように説明されているか
 
(5)オチ



 次に『フィギュア王』の方。


(一)「オンナノコ」を表現する「文体」について
 
(二)変身ヒーローについて法律用語で説明するとどうなるかについて『知的所有権法基本判例著作権>』から例を引く
 
(三)『キューティーハニー』『サザエさん』『ピーナッツ』『キン肉マン』について判決文の中でどのように説明されているか
 
(四)マンガのアニメ化について判決文の中でどのように説明されているか
 
(五)『仮面ライダーV3』について判決文の中でどのように説明されているか
 
(六)「おニャン子クラブ」について判決文の中でどのように説明されているか
 
(七)かつての『エヴァンゲリオン』関係の論争に実りがなかったのは、双方が異なる「言語大系」で話をしていたせい



 見てわかるように『フィギュア王』の方にはオリジナルの『ガロ』の文章にだいぶ加筆がされている。とは言うものの、(3)と(三)はほとんどソックリである。以下比較してみる。まずはオリジナルの文章から。『逆襲』P.57、58より。

 まず、「ストーリー漫画にもとづきビデオ・ゲームを製作した業者の著作責任」(東京地裁昭六三・一二・二六)。
 これはどういう事件かというと、要するに永井豪先生の作品『キューティハニー』(原文ママ)をパクって『愛の戦士ビューティーハニー』(笑)というパソコンゲームソフトを作ってしまった男が永井先生から訴えられたわけだが、そこの記録にある『キューティハニー』(原文ママ)という作品の解説が実にいい味なのだ。

 なにひとつ間違ってはいないが、その間違っていないトコロが実におかしい。パンサークローという名前が出るたびごとにごていねいに(豹の爪)と訳が入るのもいい味である。「つぎからつぎへと戦って、最後には勝利を得る」って、言われんでもわかるがなアナタ、というのはわれわれの方の常識で、法律の場では、それをキチンと言わなくてはイカンのであろう。

 『フィギュア王』より。

 まず、「ストーリー漫画にもとづきビデオ・ゲームを製作した業者の著作責任」というのが出てくる。
 これはどういう事件かというと、要するに永井豪センセイの作品『キューティーハニー』(“このごろはやりのオンナノコオ”の旧作である。あの唖然とするラストの新作ではない)をパクって『愛の戦士ビューティーハニー』(笑)というパソコンゲームソフトを作ってしまった男が永井センセイから訴えられたわけだが、そこの記録にあるキューティーハニーという作品の解説が実にいい味である。

 なにひとつ間違ってはいないのだが、その間違っていないトコロが実におかしい。パンサークローという名前が出るたびごとにごていねいに(豹の爪)と訳が入るのもいい味である。「つぎからつぎへと戦って、最後には勝利を得る」って、そらヒーローものは大概そうですわなアナタ、というのはわれわれオタクの方の常識で、法律というのは、それをキチンと説明する義務があるらしい。


 もうひとつオリジナルの文章から。『逆襲』P.59より。

 ……ざっとこんなものである。『ピーナッツ』の主人公はスヌーピーじゃなくって、チャーリー・ブラウンの方ではないか、とか、スヌーピーの性格は絶対“愛らしく”ないと思うのだが、というようなツッコミはこの際、遠慮しよう。しかし、大キン肉星にちゃんと“架空の”天体とことわるあたり、なにごとをもないがしろにしない法律家の根性を見ることができる。


 『フィギュア王』より。

 ……『ピーナッツ』の主人公はスヌーピーじゃなくって、チャーリー・ブラウンの方じゃないかなあ、とか、スヌーピーの性格は絶対「愛らしく」ないと思うけどなあ、というようなツッコミはこの際エンリョする。しかし、大キン肉星にちゃんと「架空の」天体、とことわるあたり、なにごとをもないがしろにしない法律家の根性を見ることができて感動を覚える。

 どちらも微妙に違っているのが興味深い。


 15年前からネタの使い回しをやっていたかと思うと何やら感慨深いが、しかしながら、今回2つの文章を読んでいて一番に感じたのは、これらの文章の中身がどうにもヘンなことである。最大の問題点は最後に取り上げるとして、とりあえず使い回しの『フィギュア王』の文章の出だしを紹介する。

 オンナノコを文章の中に描くときには、やはりそれに見合った文体が必要である。星新一の作品に出てくる美少女は、やはりその文体に見合って、ちょっとクールな、情熱よりは理性がかっているような子に思えるし、西村寿行の作品に描かれる美少女は、たとえどれほど清純な、と描写されようと、出てきただけで、こいつもやっぱり男に尻を犯されてみだれ狂うんだろうな、というイメージがつきまとう。文体がすでにそのシーン用に設定されているからである。
 しかし、例えばCG空間内の電脳美少女育成ゲームなどで、その美少女の表現をコンピュータ用語満載で表記してあるような場合、その幾重にも覆われている無機質な専門用語の下に、美少女の姿が隠されているんだ、と思って、別の興奮を味わうことはできないだろうか。
 ヘアヌードばやり、ネット裏写真ばやりの昨今、われわれはあまりに“なんでも露骨に見せられる”ことに慣れ過ぎていると思う。活字のエロがまた流行のきざしを見せているが、これはやはり、直接視覚に訴えるより、隠されている部分を頭脳でおぎなう、という快感の楽しさがあるからではないか、と思う。


 西村寿行の場合は文体よりも作品の世界観が問題な気がするが、それはさておき。
 ゲームに登場する美少女は、ほとんどの場合ビジュアルで表現されているものではないだろうか。「電脳美少女育成ゲーム」というのは時代的に考えて『プリンセスメーカー』のことなのだろうが、『プリメ』でも女の子のビジュアルはちゃんと描かれている(GAINAX NET)。「美少女の表現をコンピュータ用語満載で表記してある」ゲームってどんなんだろう。小説ならサイバーパンクでありそうだけど。
 まあ、唐沢の意見を発展させてみると、ゲームの場合、ドット絵で描かれた女の子に萌える、ということはあると思う。個人的にファミコン直撃世代なので「萌えよ! ファミギャル」で紹介されているキャラクターは全然イケる。ムーンブルクの王女様なんか今でも人気あるし。…この手の話をしていくと、PCエンジンの家庭用ゲーム機にあるまじきエロさを語らなくてはいけなくなるのでもうやめておくが、ともあれ唐沢がTVゲームを全然やったことがないというのはよくわかる。

じれったさを楽しむテクニックを身につけておかねば、ベッドでオンナノコを喜ばすことも出来ないのであるぞ。


 フランス書院の小説をいくら読んでもベッドでのテクニックは身につかないと思うが、ドンファンが言っているんだからしょうがない。ほんの一瞬「耳年増?」と思ってしまったのは俺のカンチガイ。


 では、この文章の最大の問題点を指摘したいと思うが、その前にもう一度確認しておくと、これら2つの文章のテーマは「判決文の中でオタク関係の事柄を説明すると珍妙な感じになる」ということである。唐沢俊一が『知的所有権法基本判例著作権>』から引いている判例はいずれも地裁・高裁で出されたものだが、実は唐沢がこれらの文章を発表した後で、「オタク関係の事柄を説明すると珍妙な感じになる」のをよく表した最高裁判決が出ている。その名もときめきメモリアル事件判決」(2001年2月13日判決)で、名前はアレだが実は結構重要な判例だったりする。もちろん伝説の樹は関係ない。最高裁が『ときメモ』についてどのように説明しているかは「とある法律判例の全文検索」を参照してほしい。



 「ときめきメモリアル事件」の判決文を読んでみても、「判決文の中でオタク関係の事柄を説明すると珍妙な感じになる」ということはわかるので、唐沢俊一の目の付け所はよかったのではないか?と思いながら、『逆襲』P.58を読んでいて、「えっ」とビックリしてしまった。『サザエさん』『ピーナッツ』『キン肉マン』について説明した判決文を紹介する前置きとして次のように書いてあるのだ。

 このような法律による、いろいろなマンガの定義を見てみよう。


 『フィギュア王』掲載分では「いろんなマンガ」となっているのだが、あわてて『逆襲』P.55にある、この文章のタイトルを確認してみた。

漫画『ピーナッツ』の主人公はチャーリー・ブラウンではなく、スヌーピーであると法律で決められている。


 …えーと、「○○であると判決文の中で説明されている」のと「○○であると法律で決められている」のとでは話が全然違う。判決の主文で書かれているわけではなく、唐沢が紹介している事例ではオタク関連の事柄の説明はすべて判決理由の中で書かれている(上記の「ときメモ事件」最高裁判決も同様)。スヌーピーの件についても、

『ピーナッツ』は、愛らしい小犬として特に親しまれている主人公「スヌーピー」のほか、「ライナス」、「チャーリー・ブラウン」、「ルーシー」、「ペパミント・パティ」、「ウッドストック」等のキャラクターが登場する一回分四こまないしそれ以上のこま数からなる連続漫画である

と、判決理由の中にある(東京地裁1978年12月22日判決。原告の主張を裁判所が認めたかたち)。「漫画『ピーナッツ』の主人公はチャーリー・ブラウンではなく、スヌーピーであると法律で決められている。」というのなら、なんという法律の第何条でそのように規定されているのか、唐沢俊一に聞いてみたいところだ。


 法律の知識のない人がいきなり判例集を読んでも無理があるというか、『逆襲』は検証の最初にチェックしたのに見落としがあったなんてというか、いろいろな意味でモヤモヤさせられる話だったが、気を切り替えて次回は新刊を紹介していきたい。実はもう既に入手しているのであった。





タコシェで既刊『唐沢俊一検証本VOL.1』『唐沢俊一検証本VOL.2』『トンデモない「昭和ニッポン怪人伝」の世界』『唐沢俊一検証本VOL.3』『唐沢俊一検証本VOL.0』「唐沢俊一検証本VOL.4」の通販を受け付けています。タコシェの店頭でも販売しています。
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トンデモ一行知識の逆襲 (ちくま文庫)

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