唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

あの日からのマンガ。

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唐沢俊一山本美香さんの死について「つぶやき日記」8月29日分でまた語っている(8月25日の記事も参照)。

山本美香氏関連のニュースをいろいろ見る。あえて危険地帯に足を踏み入れた彼女のジャーナリスト魂を賞賛する記事、多々。感動しつつ、やはり違和感を覚えざるを得ず。彼女のジャーナリストとしての功績に異存を唱えるわけではないが、ジャーナリストだから闇雲に危険地帯に出かけて当然ということは絶対ない。そこに充分な計画と、危険を回避する準備を必要とする職業である。

シリアという国は厳格なイスラム国家だ。女性は髪を隠すヒジャブや顔を隠すニカブなどといった布を身につけなくてはいけない。彼女の取材した最後の映像をYouTubeで見る限り、彼女はそういうものを何ひとつ身につけず、女性であることを隠していない(後に遺影に使われた写真では、ヒジャブらしき布をつけている)。これがかの国でいかに異様に映ることか、たとえ外人であっても、敬虔なイスラム教徒たちにとり、奇矯かつ不快に思えるスタイルである可能性は充分ある。“目立つ”のである。緊張状況にある地帯を取材するジャーナリストとして、果たしてこれが適切なスタイルであったか、ということを、彼女の死を悼む心の一方で考えるべきではないのか。

(前略)そして、
http://iiyama16.blog.fc2.com/blog-entry-1189.html
この記事に見られるように、山本美香氏は、その問題を取り上げることをイスラムでの取材のモチベーションにしていた。以前“魔”という言葉を使ったが、彼女の心の片隅に、イスラムのそのような教義に、“あえて”反発しようという意識がふと、生じていたのではないか。


 どうしてそうなるのか、という思いしかない。山本さんがベールをかぶった写真(毎日新聞)があると知っているのに、どうして山本さんがイスラムの教義に反発しようとしていた、という風に考えるのか。唐沢が引用している日刊ゲンダイの記事を読んでもやはりそうとは思えず、結論ありきなのでは?という疑問を持たざるを得ない。細かいことだが、どうしてオリジナルの記事にリンクを貼らないのかも気になる。あと、アサド政権は政治に宗教をからめない、いわゆる「世俗主義」をとっているのだけど。
 ところで、唐沢俊一がしばしばコメントを寄せている週刊新潮』9月6日号には山本美香さん死亡 戦地の花は散って「戦場ジャーナリスト」という職業」という記事が掲載されているのだが、その中にこのようなくだりがある。同誌P.46より。

(前略)その死の直前の映像を見ると、山本さんは紅いスカーフを首に巻き、カメラを2台首から提げていた。かなり目立つ格好ではなかったか?
 しかし、先のベテランジャーナリストは首を振る。
「彼女の服装は全く問題ありません。戦地では自分がジャーナリストであることを知らせるために、あえて目立つ服装をするのです。兵士と同じような格好をしていたら撃たれてしまいますからね。(後略)」

 そうなると、むしろ山本さんはジャーナリストにふさわしい格好をしていたからこそ狙われてしまったのではないか?とも考えられる。山本さんは右腕を撃たれているが、カメラを狙われたせいなのではないか。シリア政府がジャーナリストの殺害を命令したとの一部報道もある(東京新聞)。まあ、唐沢が山本さんにかくもこだわるのは興味深いところではあるものの。



●今日発売のFLASH』9月18日号「漫画が描いた「大震災」」という記事が掲載されていて、東日本大震災を描いた数々の漫画が紹介されているのだが、その中で「サブカル評論家の唐沢俊一氏」が「漫画と大震災」について語っている。同誌P.85より。…あれ? 肩書からサブカルを外したんじゃ?(7月21日の記事を参照)

 震災が起こった際、石原慎太郎都知事が「津波は天罰だ」と言って物議をかもしたが、そもそも漫画を含むエンタテインメントは、大災害を“人間の悪行の報い”として描いてきた。ところが今回の震災では、正しく生きてきた普通の人々の生活基盤ですら突然崩壊した。これは因果応報では説明がつかない。しかもネットには、リアルタイムで災害の最前線にいる人々が撮った生々しい映像が上がっている。震災後、漫画家にとって破滅シーンは描きにくくなったと言っていいだろう。
 しかし、漫画の描写力自体は進歩が著しく、どんな不条理であれ、カタストロフに襲われた人間のドラマを描きうるだけの懐の広さを持っている。またこれだけの災害を前にしたとき、なんとか表現したいと思うのが心あるクリエイターの宿命だ。そうでないと創作物が現実に負けてしまいかねない。
 すでに多くの優れた漫画家たちが震災を描いた。ただ読み手の側にまだ心の痛みが残っているので、表現者のほうに「大胆に表現してはまずいのでは」という自主規制が生まれてしまっている。被災者から「私は震災で家を失ったんですけれども、こんな茶化すような描き方をしてもいいんですか」と言われたら、書き手としては二の句が継げない。そういう意味では、現段階で発表された震災作品はまだ現実を消化しきれておらず、現状を描くだけの段階に終わっているかもしれない。
 エンタテインメントは第二次大戦からタイタニック沈没まで多くの災害を作品に取り込んできた。今回の震災も数年後には、読者の側に余裕も生まれ、娯楽作品の素材として大胆に使われることもあるはずだ。

 「二の句が継げない」の使い方が気になったり、タイタニック号の事故くらい大規模なものになると「災害」に含まれるのだろうかと思ったりしたが、それはさておき。
 東日本大震災の記憶が生々しく残っているため、「まだ現実を消化しきれておらず」というのは理解できるが、表現者が「自主規制」してしまっているというのは本当にそうだろうか。
 今回の特集記事では平松伸二『ザ・松田』(ニチブンコミックス)が最初に紹介されているが、雪藤と松田さんが電力会社の社長一家を爆発した原発まで連れて行くというかなり凄い話である。…これは立派なエンターテインメントではないだろうか? 平松先生のブレなさに感動して、自転車からスポークを抜き取りたくなる。また、今回の記事では萩尾望都『なのはな』小学館フラワーコミックスペシャル)も紹介されているが、単行本にはプルトニウムを美女に擬人化した『プルート夫人』という話も収録されていて(ウランを擬人化した話も収録)、自分にはやはりこれも立派なエンターテインメントだと思える。特集記事によると、唐沢は「戦争が生んだ惨劇を日本の創作芸術が“消化”した好例」として、横溝正史『獄門島』『犬神家の一族』を挙げているが、エンタメの定義がいささか狭いのではないか。それに、唐沢の理屈だと発生から17年が経過した阪神大震災「娯楽作品の素材として大胆に」使った作品も当然あるはずだが、阪神大震災については「読者の側に余裕も生まれ」たのだろうか。
 おっと、『FLASH』の特集記事で紹介されていない東日本大震災を描いた漫画をここで取り上げておこう。当ブログではすっかりおなじみになっている唐沢なをき『まんが極道』第66話「リセットくん」でも震災がネタにされていて、東京で夢破れ実家に帰ってきた漫画家志望の青年が大震災の発生に浮かれまくり、「東京ざまあ」とネットでデマを拡散したりする話である(単行本6巻に収録)。…うむ、唐沢なをきもブレない人だ(その他『電脳なをさん』でも震災ネタあり)。せっかくなんだから弟さんの作品も紹介したらよかったのにね。…というわけなので、表現者は自己規制しているわけではない、と思いますよ。
 ちなみに、「つぶやき日記」8月24日分に今回の記事の取材について書かれている。

で、新宿東口椿屋珈琲店、光文社『FLASH!』インタビュー。“コミックは震災・原発事故をどう描いてきたか”のまとめコメント。『ザ・松田』から『原発幻魔大戦』までを語り、
「被災地の子供たちにとり一番嬉しかったのが、被災前と変わらぬ日常がそこにある連載マンガだったはず。あえて描かないという選択肢もある」というようなことを語る。非日常の興奮をおさめ得るのは日常だけなのだ。

 見てわかるようにそのような話は雑誌には一切載っていない。週刊誌にコメントするのって大変なんだなあ。


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