唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ぼくの不安を救ってくれなかったデマ本へ・その1

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 今回からしばらく唐沢俊一の新刊『トンデモ非常時デマ情報レスキュー』(発売:コスミック出版、発行:ブリックス株式会社)を紹介していく。


 最初にこの本が出版に至った経緯を説明しておこう。唐沢俊一は公式サイトで2011年4月6日「時には沈黙を」という文章をアップし、同業者に対して震災に関する発言を控えようと提言している。この文章については2011年4月7日の記事でツッコミを入れているが、この文章がきっかけでブリックス株式会社からオファーがあったのだという。…まあ、クロマティが敬遠球をサヨナラヒットしたこともあったけれど(新庄でも可)。『トンデモ非常時デマ情報レスキュー』P.5〜6より。

 皮肉なことに、このブログを読んでのインタビューが何件か来ましたが、それ以外のところでは、私は上記の宣言通り、震災に直接関係する発言は控えて、観察者に徹してきました。
 そして、その結果、いろいろと見えてきたものがありました。
 それは、われわれ日本人の、安全、情報、日常というものに関する、かなり興味深い反応でした。


 いま、ここで最初の禁を破って、震災に関する本を出すのは、ブリックスさんの強いお勧めがあったということの他に、私の専門であるサブカル、そしてトンデモという分野から、この震災に対する日本人の反応に、ある種の提言が出来ると思ったからです。

 上の文章でもわかるが、唐沢は自身のサイトのことを何故か「ブログ」と呼んでいる。まあ、ゲーム機=ピコピコ、みたいなものかとおじいちゃん扱いしてみる。また、沈黙を呼びかけたにもかかわらず、唐沢は震災に関する文章を何度かサイト上で書いている(2011年4月20日の記事を参照)。当の本人が沈黙できていないのだ。


 唐沢のサイト上のお知らせによると、本来であればこの本は昨年7月上旬に出る予定だったらしいが、いろいろあったらしく半年も遅れてしまった。だから、今回の震災を論じた本というスタイルから「震災など非常時デマに学ぶ情報処理術」(表紙の惹句より)を論じた本へと変化したのだろう。出版が当初の予定より遅れてしまった点は重要なので記憶しておいてほしい。



 さて、いよいよ『トンデモ非常時デマ情報レスキュー』の中身について論じていきたいのだが…、はっきり言ってこれはかなり読みにくい本である。一番気になるのは途中で文体がガラッと変わるところである。第1章から第5章までは常体なのに、第6章からいきなり敬体、「ですます」調になるのだ。読者としてはかなり戸惑ってしまう。
 ただ、こうなった理由はおおよそ想像がついていて、第5章までは唐沢が自分で書いた文章であるのに対し、第6章以降は唐沢がしゃべったものを文章に起こしたため、文体の違いが生じたものと思われる。上にリンクを貼ったお知らせにも

現在、テープ起こし含めて鋭意執筆中です。

とある。第6章以降、論旨があっちに行ったりこっちに行ったりで読みづらいのもしゃべりをそのまま起こして整理していないためだろう。…ともあれ、文体はなるべく統一してほしい。


 この本の第1章から第5章は、今回の震災において見られた数々の陰謀論を紹介している。本の中で取り上げられている陰謀論を以下に列挙しておく。


●第1章
東日本大震災HAARPによって起こされた
・震災が発生した「2011年3月11日」の数字を足すと「獣の数字」になる


●第2章
「日本の陰謀」での陰謀論


●第3章
梶川ゆきこtwitterについて


●第4章
リチャード・コシミズのブログとそこに寄せられるコメントについて


●第5章
・「中国のマスコミが“石原慎太郎の核実験によって震災が発生した”と報じた」というデマについて



 このうち第2章は唐沢俊一のサイトで2011年4月19日にアップされたものに若干追記を加えたものである。唐沢はこの話をとても気に入っているようで、昨年の「日本トンデモ本大賞」で販売された同人誌「トンデモ流言飛語大賞2011」にもサイトとほぼ同じ内容の文章が収録されている。ネット→同人誌→商業本、と着実にステップアップしている…わけでもないのか。ともあれ、この使い回しから、第1章から第5章までは唐沢が自分で書いている、という見当がついたわけである。


 気になるのは出ている情報がどれも古いことで、梶川ゆきこtwitterにしろ、リチャード・コシミズのブログにしろ、昨年4月の話題にツッコミを入れている。そして、第5章で取り上げられているデマは昨年3月末の話題である(KINBRICKS NOW)。
 また、第2章は唐沢がネットで発表した文章に追記を加えたものであることは前にも説明してあるが、その追記も古いのである。P.44より。

 ところで、このサイトのことを私がと学会で報告した後、このサイトの主催者がツイッターをやっていることが判明した。


 つぶやきのまとめがこれ。http://twitter.com/japanconspiracy
 あまりに膨大でトリトメのない本サイトの、ちょっとした索引代わりに使えて便利である。


 最近のつぶやきにはこんなことが書いてある。


「先日、町内会役員会に班長として出席したがそこは、3名の男性役員と、40名前後の女性会員の怒号と笑いの渦になった(以下略)」

 この「最近のつぶやき」というのは昨年4月15日のものである。…最近? しかも、このtwitter自体、昨年6月から更新されていない。
 …まあ、本の出版が遅れたのは、必ずしも唐沢俊一個人の責任ではないのかもしれないが、それにしても情報くらい直してほしい。半年以上前の情報を「最近」のものとして平気で出すのはあんまりだ。東日本大震災にしろ原発事故にしろ半年の間にどれだけ状況が変わったと思っているのか。



 で、皆さんも既にお気づきかと思われるが、唐沢俊一が取り上げているのはどれもコテコテの陰謀論である。普通の人が読んでも簡単にはひっかからない類である。唐沢は第1章で東日本大震災の直後に既にネット上でHAARPのデマが発生したことに驚いて、2ちゃんねるのスレッドtwitter上での騒ぎを紹介している。なお、唐沢が紹介しているHAARP関連のツイートはtogetterにまとめられているが、何故か唐沢は引用元を示していない。
 しかし、唐沢が紹介している2ちゃんのスレで19個しかレスがつかず、上記のtogetterに関してはてなブックマークについたコメントがどれも辛辣なものであることを見ると、一般の人がHAARPのデマに踊らされていないことがよくわかる。陰謀論を受け入れる人はいつの世の中でもいて、それは震災という非常時においても変わらない。それだけの話ではないか。
 …だから、もうこの時点で『トンデモ非常時デマ情報レスキュー』という本に大きな疑問符を付けざるを得ない。あまり信じる人もいないデマを長々と書いておいて、そこからどのような「サバイバル情報制限術」だか「緊急時の情報選別」だかをレクチャーするというのか、と。


 
 今回の震災時に発生したコテコテの陰謀論を扱った本としては、ASIOS/アンドリュー・ウォーナー『検証 大震災の予言・陰謀論』(文芸社)が『トンデモ非常時デマ情報レスキュー』に先立って出ているうえに、取り上げられているネタも重複しているので、正直なところ、こっちを読んでおけば唐沢のデマ本を読む必要はあまりない、とも思える。
 この本の著者たちはコテコテの陰謀論を主に取り上げることについて自覚的で、まえがきでは荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)と重複する話題をあまり取り上げなかった旨を説明している。また、巻末の座談会で、皆神龍太郎が次のような発言をしている。『検証 大震災の予言・陰謀論』P.242〜243より。

 あと思うに、「陰謀論」信者と「政府の言うことを信じない」と言っている人々は、必ずしも1つのまとまった層ではないと思う。たとえば人工地震HAARPだとか言ってるのは、はっきり言って一部の奇説が好きな方々であって、決して国民の大多数ではない。
 いま国民の多くが政府を信じないと言っているのは、このような形の地震が起きるということ自体が自分たちには告げられていなくて、かつ、原発がああいう形で爆発するということとなると、完全に予想を超えていたわけです。政府も政府で、今まで「こんなことは絶対起きないから安全だ」と言っていたのに、最悪の事態が起きて「原子力安全神話」は完全に崩れた。そこに陰謀論側が入り込む真空地帯ができあがったわけです。
 ですが、今回の本で紹介しているような奇説を本気で信じているのは、国民のごくごく一部ですよ。政府とかマスコミに対する幅広く薄い不信感の存在と、HAARPが人工地震を起こしたといったような、かなり尖ったことを本気で信じているのは、やはり層も違えば、人数も全然違うと見るべきでしょう。

 デマにもさまざまな種類がある、という認識が必要なのだろう。どう考えても怪しいものもあれば、うっかり信じてしまいそうになるものもある。そこは分けて考えなくてはいけないのではないか。



 次回以降、唐沢俊一が「デマ」をどのように考えているか、そして、唐沢がレクチャーする「デマへの対処法」について説明していく。一番気になる原発放射能関連の話題も徐々に出て来るんだけど…。ここからが本当の地獄だ。


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