唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

続・あっ! この映画には原作がない?

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日垣隆電子書籍の目次が大変なことに(魚拓)。この人の誤字はもはや芸だと思う。


●自分は「演劇人としての唐沢俊一」に興味はなくて、むしろ「自己啓発セミナーの講師としての岡田斗司夫」の方に興味があるくらいである。それに演劇に関してはまったくの門外漢なのでもっと詳しい人の意見を聞きたいと思っているのだが、そんな自分でも稽古場日誌の中の

私は芝居の実地の経験はまだ浅いのですが、観客としては大学時代から
年期が入っています。観客の立場で拍手したり、感心したり、笑い転げたり、
眠くなってしまったり、実際に眠ったりを繰り返していました。途中で
席を立って帰ったこともありました。客の立場で芝居の最低限の満足感を
得る要素として、上記の三つが基本であるという結論に達しています
(もちろん、その上で基本をはるかに跳び超える傑作が希にあることも
承知していますが)。

というくだりにはあぶなっかしさを感じずにはいられない。20年以上のキャリアがある文筆業でもあんなことになっているのに。『タイム・リビジョン』、私は行かないが成功してほしいものだ。


●本題。唐沢俊一が監修した映画「トンデモホラーシリーズ」の内の1本、『あっ! この家にはトイレがない!』の内容が森由岐子『魔怪わらべの唄』に酷似しているにもかかわらず、作中で原作表記が一切なかったことは11月25日の記事で取り上げた。
 ところで、「トンデモホラーシリーズ」の残りの2本にも同様に原作表記はない。『あっ! 生命線が切れている!』は好美のぼるの同名漫画が原作であるとすぐにわかったのだが、『あっ! お皿に首が乗っている!』は自分の勉強不足でどの作品を下敷きにしているのかわからなかった。…それにしても、『あっ! 生命線が切れている!』に原作表記がないのもヘンだと思うんだけどなあ。
 そうしたら、岸田裁月さんから以下のようなコメントをいただいた(どうもありがとうございます)。

岸田裁月 2011/12/01 02:41
タランティーノ以降、影響を受けた作品をそっくりそのまま再現する映画作家が増えたので(いわゆるオマージュ、若しくはリスペクト)、その流れで作られた作品なのかも知れません。
高橋洋脚本、佐々木浩久監督の『血を吸う宇宙』でも『魔怪わらべの唄』の「トイレがない」がネタにされていましたが、森由岐子は原作者としてはクレジットされていませんでした。
ただ『あっ!この家にはトイレがない!』は、あらすじを読む限りではどう見ても『魔怪わらべの唄』そのままで、これは問題があると思います。オマージュの域を越えています。

もう一つ気になったのが同シリーズの『あっ!お皿に首が乗っている!』です。あらすじの前半部分が唐沢俊一編『ホラーマンガの逆襲/かえるの巻』所収の、いばら美喜著『みな殺し』にそっくりなのです。
唐沢氏は様々な貸本漫画のエッセンスをシャッフルして「好美のぼるの異色貸本マンガを映像化」と銘打ったのでしょうか?
だとすれば、他の作家さんに対して失礼極まりない行為であり、「よくもこんな企画が実現したなあ」と呆れ返っている次第であります。

 『ホラーまんがの逆襲 かえるの巻』(光文社知恵の森文庫)を慌ててチェックしてみたら、『あっ! お皿に首が乗っている!』といばら美喜『みな殺し』は確かに内容に非常に似通った部分があった。『ホラーまんがの逆襲』はちゃんと読んでいたんだけどなあ。我ながらうっかりしていた。
 ただ、『あっ! この家にはトイレがない!』が『魔怪わらべの唄』をほぼそのまま映像化していたのに比べると、『あっ! お皿に首が乗っている!』はかなり脚色が加えられている。それで自分も気づかなかったのである、と言い訳。
 とりあえず、2つの作品を比較していこう。まずはストーリーから。


『みな殺し』=かつて牧刑事に家族を殺された皿回し芸人・河村幸一が鉄の皿を飛ばして牧刑事の家族と警官たちを次々と惨殺していく。


『あっ! お皿に首が乗っている!』=かつて橋本刑事に家族を殺された皿回し芸人・奥田和仁が美容師・小田切に変身し、美しい首欲しさに鉄の皿を飛ばして女性の首を次々と斬っていく。


 見ての通り、「皿回し芸人が鉄の皿を飛ばして復讐する」という点以外はだいぶ違っている。皿回し芸人が美容師になったり、刑事がバレバレの女装でおとり捜査をするという、映画独自の要素も付け加えられているのだ。
 …じゃあ、パクリとまでは言えないのでは?とも思うのだが、劇中には『みな殺し』に酷似したシーンがいくつかあるので困ってしまう。
 ひとつめは、『みな殺し』のラストでは河村の投げた皿に牧刑事の母親の首が乗って(まさに「お皿に首が乗っている」状態)、河村の首を斬ってしまうのだが、『あっ! お皿に首が乗っている!』のラストでは橋本刑事の妹・みなみの首が皿に乗って小田切の首を斬ってしまう。要するにほとんど一緒。
 また、『あっ! お皿に首が乗っている!』の中で、橋本刑事が奥田(小田切)を追い詰めた過去の経緯がイラストで描かれているのだが、これがいばら美喜の絵柄と瓜二つである。橋本刑事は牧刑事、奥田は河村にソックリなのだ。…い、いやあ、偶然なんじゃないかなあ、それも。
 しかし、さらに付け加えると、『みな殺し』では河村が鉄の皿をブーメランとして用い、

使用した鉄の皿はまた元に戻る………ムダがない

と、その威力を誇るのだが(『かえるの巻』P.29)、『あっ! お皿に首が乗っている!』で小田切まったく同じセリフを吐いている。…こうなってくると、偶然とは思えなくなってくる。


 では、ここで両者を具体的に比較してみることにしよう。最初に『みな殺し』で牧刑事が弟にある事件について語るシーンを紹介。『かえるの巻』P.14〜P.16より。

弟 兄さんは東京の…警視庁の刑事だろ


牧刑事 ウン そうだよ


弟 何か手柄ばなしを聞かせてくれよ


牧刑事 手柄話し(原文ママ)か……… 二ヵ月前に強盗殺人犯人を俺一人で逮捕したよ


弟 へえ! すごいや


牧刑事 一家四人を殺して金を奪い放火して逃げた…… 犯人(ホシ)は河村幸一という皿廻しの芸人だ…… 車でたかとび(原文ママ)しようとした 俺は通り合わせたタクシーで追跡した!


弟 そ、それで?


牧刑事 国電のふみ切りまで来たとき犯人の車の前でシャ断機(原文ママ)が下りた! 急ブレーキをかけたが間に合わず車はシャ断機の中へつっ込んだ そして…バク進(原文ママ)して来た電車と犯人の車はハチ合せ(原文ママ)さ


弟 それじゃあ犯人は


牧刑事 悪運強く犯人だけは助かったよ


弟 犯人だけは?……… じゃあ乗ってたのは犯人だけじゃなかったんだね


牧刑事 ムッ!


弟 誰が乗ってたの? 共犯者?


牧刑事 うるさい!


弟 (ポカン・・・・)


牧刑事 そんな事はどうでもいい! とにかく犯人を逮捕できたんだ


 次に『あっ! お皿に首が乗っている!』で橋本刑事がみなみに過去の事件について話すシーン(本編を観てセリフを書き起こしました)。

橋本刑事 テレビや映画で観るのと違って、実際に刑事が現場で銃を使うということはほとんどない。俺もこれを使ったのは一度だけだ。


みなみ 人を撃ったの?


橋本刑事 いや、撃ったのはタイヤだ。もうだいぶ前になる。所轄で、一家四人を殺して金を奪い、家に放火して逃げた犯人がいた。奥田和仁という皿回し芸人だった。奥田は盗んだ金で海外へ高飛びしようとしていた。俺は奴の乗ったクルマを追跡した。電車の踏切近くまで来たとき、俺は奴のクルマのタイヤを撃った。バランスを崩した奥田のクルマは、遮断機の中に突っ込んで、折よくやってきた電車と鉢合わせさ。


みなみ それじゃあ、犯人は……?


橋本刑事 悪運強い奴でな。奥田だけは助かったようだ。奴の死体はなかったからな。


みなみ 「だけ」って……。じゃあ、乗っていたのは犯人だけじゃなかったのね?


(橋本刑事、ショックを受ける)


みなみ 誰が乗ってたの? 共犯者?


橋本刑事 そんな事どうだっていいだろう!


 …いかがだろうか。映画の中でマンガと似通っているのはこのシーンだけで、映画全体としては独自の要素がかなり含まれていることを改めて付け加えておく。


 映画化にあたって著作権に不備があったとすれば、一番に責任を負うべきなのは製作者である。この映画について言えば「トンデモホラーシリーズ製作委員会」が製作者にあたるのだろう。ちゃんと原作者と交渉したのだろうか。映画製作と併せて原作を復刻するとか、メディアミックスらしきことをやってもよかったのかも。
 映画の監修をした唐沢俊一も『魔怪わらべの唄』や『みな殺し』を映画のストーリーの下敷きにしたことに当然気づいていたはずだよなあ…と思ってたら、「裏モノ日記」2006年6月23日に次のような記述が。

日記つけ、原稿書き。12時に弁当。焼き肉とネギ入り卵焼き。1時半に家を出て東武デパート。河崎実監督と待ち合わせ。脚本家の右田昌万氏と。河崎監督の次のVシネシリーズ企画に協力する話。資料なく話すのもなんなので、仕事場に場所を移し、貸本怪奇マンガ山と積んで、原案となるようなものを探す。私はまあ、原案協力くらいになるものと思うが、協力費とかがあまりでない(であろう)代わりに、あぁルナの役者さんたちをシリーズ通して使ってほしい、とバーター条件を提示する。即OKとれて、橋沢さんの連絡先もメモしていった。ここらへんの安直なまでの話の早さも河崎さんらしい。

 この記述からすると、映画のモトネタを提供したのが「監修」ということになるのか。
 もうひとつ「裏モノ日記」2007年8月11日より。

5時に場所を確保して、2時間、河崎カントクに頼まれた
DVDの次の原作などを読んで過ごす。
いばら美喜がやはりすごい。
天才ではないか。
昭和40年代ですっかりその天才を使い果たしてしまうのだが、
これだけ凄いものを連続して描いていれば無理もないとさえ
思う。

 どうも続編の企画があったっぽい。なお、『ホラーまんがの逆襲 かえるの巻』の巻末には、いばら美喜と連絡が取れていない旨が書かれている。唐沢俊一は貸本マンガを多数紹介しているわりに、作者と直接交渉したことがあまりなかったりする。ともあれ、本編の内容より、原作表記がないことの方がよほど「トンデモホラー」であるように思われてならない。

[ トンデモホラーシリーズ ]あっ!お皿に首が乗っている! [DVD]

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ホラーマンガの逆襲―かえるの巻 (知恵の森文庫)

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