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karasawagasepakuri@yahoo.co.jp
唐沢俊一検証を始めた当初は、「唐沢俊一の単行本を全部調べればそれでいいや」と考えていたのだが(唐沢に会いに行くつもりもなかった)、「ガンダム論争」の検証のために『ぴあ』のバックナンバーを調べていて、「この要領で他の雑誌も調べられるのでは?」と我ながら余計なことを思いついてしまい、その結果予想以上に検証が延びることになってしまった。どこまで続く泥濘ぞ。
しかしながら、そのおかげでさまざまな発言を見つけることができたので、余計なことをした甲斐はあったと考えている。過去と現在の矛盾を衝くという狙いがなくても、昔の発言を拾っていくだけで単純に面白い。雑誌は単行本と違って本人のコントロールの度合いが低いのか、案外隙が見つかったりするのだ。岡田斗司夫も面白いことを言ってそうだな…。
というわけで、今回は『SPA!』のバックナンバーから唐沢俊一の発言および文章をいくつか紹介していきたい。唐沢と『SPA!』と言われてもあまりピンとこないが、自分が確認した限りでは10回余り登場している。
まずは2007年6月12日号の特集「「知らないほうが幸せ」な雑学事典」に掲載されたコメント。同号P.131より。
私の考える雑学とは、世の中の裏を知りたいというのが出発点。だから、知らないほうが幸せな雑学って、むしろ雑学の本質だと思うんですよ。
『トンデモ一行知識の世界』(ちくま文庫)P.10のまえがきより。
雑学は、頭脳の細胞がその知識を増やしたいと欲する、その純粋な欲求のためにのみ、存在しなければならないのである。
ということは、「世の中の裏を知りたい」という考えが含まれてしまっては「純粋な欲求」とは言えなくなるのでは。
続き。
自分の気に入らない事実から目を背けて平穏無事に人生を歩む……これは知的怠慢にほかならない。余計なお世話かもしれませんが、私はそういう方々に向けての啓蒙活動に励んでいるわけです。
じゃあ、「唐沢俊一検証blog」も一種の「啓蒙活動」になるのかなあ。唐沢俊一の「気に入らない事実」を指摘していっているわけだから。余計なお世話かもしれませんが、もうしばらく頑張りたいと思います。
続きましてー(パペットマペット風)、1996年9月11日号の特集「アブナイ「毒本」24冊」で唐沢俊一もおすすめの本を紹介しているのだが、本文はおいといて、プロフィールに以下のような箇所があるのだ。
自己の価値転換に備え、蔵書は6万冊以上。
またしても蔵書不安定(2010年10月10日、2月11日の記事をそれぞれ参照)。唐沢俊一の蔵書の数は本当に一定しないのだが、その中でも6万冊というのは多めである。
このプロフィールが面白いのは、蔵書の数の前に「自己の価値転換に備え」という前置きがあることで、価値観を変えるために蔵書を増やしているのか?と思うと不思議な感じがする。それとも、「価値観が変わったら面白く感じるかも」と思って本を集めているのだろうか。
もうひとつ、1993年9月29日号の特集「この愛すべき有名人の「輝ける引退劇」」に唐沢俊一は「引退の旬を間違うと必ず悲劇がやってくる」というコラムを書いている。…うーん、いろいろと考えさせられるタイトルだ。同号P.53より。
人の評価というものは、引退の時期をあやまっただけで、実に顕著に変化するものである。たとえば、あの『ジュラシック・パーク』に登場する恐竜たちへの感動と興奮を、すでに二十数年前にボクらに与えてくれた特撮師レイ・ハリーハウゼン。
彼は映画『シンドバッド七回目の航海』や『恐竜100万年』の中で、見事に巨竜やガイコツ兵士たちを動かし、一時は多くの専門家をして特撮の巨人とあがめられていた彼の師匠オブライエンをも凌いだといわれたが、その秘密主義的な撮影方法が災いし、新しいエッセンスを注入できず、『シンドバッド虎の目大冒険』を最後に精彩をなくし、ついに見るに見かねた弟子たちによって、無理やり引退を強要されてしまったと聞く。
これに対して、ハリーハウゼンの師匠ウィリス・オブライエンは、映画『キングコング』という傑作だけを残して不遇な死を遂げたが、逆にハウゼンのような悲惨な晩年がなかったために、今もって特撮マンたちの目標とされ続け、“特撮の巨人”という名誉まで与えられているのである。
「悲惨な晩年」とか「不遇な死」とか、この頃から「追討」していたのか…。「悲惨な晩年」を送ったハリーハウゼンよりマシだとされるオブライエンも「不遇な死」を遂げたことになっているのも凄ければ、今でもお元気なハリーハウゼン(現在91歳)に向かって「悲惨な晩年」呼ばわりしているのも凄い。オブライエンとハリーハウゼン、2人とも特撮ファンにとっては神様みたいな存在のはずなんだけどなあ。
それ以外にも上記の文章にはヘンなところがある。ハリーハウゼンを「ハウゼン」と呼ぶか?と思うが、ハリーハウゼンは『シンドバッド虎の目大冒険』の後で『タイタンの戦い』(最近リメイクされた)を手掛けている。…っていうか、この記事には『タイタンの戦い』のスチル写真が一緒に掲載されているのだが、編集者はおかしいと思わなかったのだろうか。また、ウィリス・オブライエンは『キングコング』の後も活動を続けているが(『猿人ジョー・ヤング』など)、1960年版『失われた世界』に登場する「恐竜」はヒレをつけたトカゲだったりする(いわゆる「トカゲ特撮」)。唐沢がこれを知っていれば確実に「悲惨な晩年」呼ばわりしていただろうなあ。今回ばかりは、唐沢さんのウスさに感謝☆(フェッちゃん風)。
死ということで引退の旬をつかんだオブライエンと、散り際をつかみきれずに晩年、苦い酒を舐め続けたハリーハウゼン。この皮肉なる師弟関係は、何も特撮の世界だけの話ではない。探せばどこの世界どの時代にもちゃんと存在しているのだ。代表的なのが織田信長と徳川家康。無論、信長がオブライエンで家康がハリーハウゼンである。他にもプロレスラーの力道山とジャイアント馬場。そして漫画家の手塚治虫と石ノ森章太郎などもそんな間柄といえるだろう。
気がついてほしいのは、オブライエンをはじめ力道山、そして手塚治虫など、歴史に名を残した人々のほとんどが、常に向上心を忘れず時には自身の生活をも犠牲にして、次々と新分野に挑戦していく狩猟型であり、それに対し馬場や石ノ森章太郎は、自らの足元から固めることをよしとし、挑戦よりも安定を求める農耕型の人間ということ。どれも農耕型が狩猟型に弟子入りし、才能を開花させ成功をおさめてはいるが、晩年はそんなかつての栄光にこだわりすぎて、引退の時期を逃しているのだ。
この記事が出たのは1993年なのだが、20年近く経った今になって読むとジャイアント馬場も石ノ森章太郎もまとめて「追討」されているように読めてしまう(馬場は1999年、石ノ森は1998年にそれぞれ亡くなっている)。「生前追討」とでも呼ぶべきか。
「狩猟型」だの「農耕型」だの俗流文化論っぽいなあ。「歴史に名を残した人々のほとんど」が「狩猟型」ってマジか? 信長と「師弟関係」にあったのは家康よりは秀吉では?という気もするし、石ノ森先生は結構チャレンジャーな気もするのだが。また、ジャイアント馬場が「引退の時期」を逃がしたというのも見解が分かれるところだろう。手塚治虫が貶されていないのは珍しいけれど。
元来日本人は農耕型の人間であるといわれている。ならば日本の著名人のほとんどが、引退時に醜態をさらしてもおかしくないわけだ。そうならぬためにも、すでに農耕型と自覚する著名人の方々は、自分を戒め、くれぐれも引き際だけは見極めてほしいものである。
なんとも強引な話である。「農耕型」「狩猟型」というのと「農耕民族」「狩猟民族」というのは違うのではないか? 「挑戦よりも安定を求める」のは別に日本人に限った話ではないだろうし。どうも、このコラムの後半部分は「トンデモ本」っぽい流れになっていて、「と学会」の幹部がこーゆーことを書くのか、と少なからず困惑させられる。前半のオブライエンとハリーハウゼンの文章も合わせると実に味わい深い。
…まあ、唐沢さんは現在53歳だから、あと15年はライターとして活動するのでは?と思うけどね。「引退の旬を間違うと必ず悲劇がやってくる」とは言うけれど、唐沢さんの場合はこれからっしょ。
次回も『SPA!』の記事から紹介していきます。
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