「と学会」で聖者になるのはたいへんだ。
常識人であれば十分ですよ。
●6月17日の記事で
当ブログでは唐沢氏をはじめとした関係者の個人情報は掲載されていないはずですが、問題のある情報があればしっかり対応するのでお知らせください。
と書いたところ、山本弘会長から「“個人情報を持っていない”と書いていないからますます不安になった」といったご指摘がありました。自分の言葉が足りなかったせいで、同様の不安を抱えている関係者がいるといけないのではっきりと書いておきます。
自分は「と学会」の関係者の方の身元を特定し得る情報を一切知りません。
今のところ、山本会長と芝崎淳氏以外に個人情報に関する問い合わせはありませんが、もし不安に感じられている方が他にもいらっしゃれば、当blogまでご意見をお寄せください(下の方にメールアドレスがあります)。お待ちしています。
●唐沢俊一が公式サイトで「日本トンデモ本大賞2011」の投票結果を発表しているが、あれ、『新・UFO入門』が…?(山本会長のブログと比較してみよう) まあ、他にも抜けているものがあるから偶然なんでしょう。8月の札幌での講演会もできれば行ってみたいなあ。やっぱり、検証が終わるまでに一度は札幌に行っておきたい。
●『トンデモ本の大世界』(アスペクト)を読んだ。…えーと、これは発売日(6月18日)以降に書店で買ったんだけど、感想を書いても大丈夫だよね?
山本会長の前書きによると、この本は「初心者にもわかるトンデモ」を目指しているそうで、確かにその通り「トンデモ」の基本的な情報が網羅されている。だから、マニアには物足りなく感じられるかもしれないが、初代『トンデモ本の世界』から既に15年以上経過していることを考えると、あらためて入門編をやる意義は決して小さくない。
ゲストの寄稿も面白くて、特に巻頭の西原理恵子のマンガは必読。唐沢俊一に「鳥」扱いされて入会できなかった高須克弥院長が「と学会」を冷静に観察しているのも面白い。一体どっちが「鳥」なのか。大槻ケンヂには『トンデモ格闘技本の世界』をいつか書いてほしいものだ。オーケンと吉田豪さんが組めば『トンデモミュージシャン本の世界』もいけるのでは。
気になった点をいくつか挙げておくと、まず20周年記念本なのに植木不等式の名前がまったく出てこない(岡田斗司夫の名前は1か所だけ出てくる)。こないだのイベントでも話題にのぼらなかったしなあ。「と学会」にかなり貢献している人だと思うのだけど。それから、巻末(P.297)に載っている志水一夫のプロフィールに
科学的データを元にオカルトを否定しつつ、レイキを信じるなどバリバリのビリーバーでもあった。
とあった。山本会長もブログでの志水氏の追悼文でそのことに触れているが、これは志水氏の生前から公にされていたことなんだろうか、と少し気になった。
さて、この本を読んでいると実に複雑な気分になってしまった。何故なら、「と学会」と自分のやっていることにさほど差があるとは思えないからだ。山本会長は前書きで次のように書いている。P.3〜P.4より。
僕たちは「と」を見つけ出し、ウォッチングし、笑って楽しもうという趣味の団体なのです。
また、僕らの目的はオカルト思想を撲滅することではありません。オカルトのすべてがトンデモというわけではありませんし、オカルトでなくてもトンデモはたくさんあります。バードウォッチャーが鳥の絶滅を望まないように、僕たちは「と」をこよなく愛しているのです。
もちろん、愛しているからといって無条件に擁護はしません。鳥の中には人間に害を及ぼすものがあるのと同じで、「と」の中には明らかに有害なものもあります。まともな学問を妨げたり、健康を損ねたり、悪質なデマで無実の人を中傷したり……そうした有害な「と」に対しては、びしばしと批判させてもらっています。
「と学会」の活動の目的に「トンデモを笑って楽しむ」のと「トンデモを批判する」のがあること、ここは重要な部分である。複数の目的を持って活動するのは意外と難しいもので、他ならぬ自分自身も唐沢俊一の活動を検証していくうちにそれを実感することがある。基本的には「唐沢のしょうもない行動を見守る」立ち位置なのだが、数々の盗用や伊藤剛さんを中傷した件などはマジメに怒った方がいいのか?と思うし、個人的な事情としても好きな作品について適当なことを言われたり若いオタクを貶めるような言動にはどうしても感情的になってしまう部分はある。自分としては検証の目的を無理に決めることなく唐沢に関係する問題は可能な限り取り上げるようにして(関連性の低い話題から意外な方向につながっていくこともあって面白い)、その一方でそれぞれの検証が矛盾することがないような方向を模索しているのだが、なかなか難しい。だから、「と学会」の活動が実は結構難しいものだということは実感として理解できるし、「と学会」に問題点があるとしたら、2つの目的が上手く共存できていないことにあるのではないか?と思う。まあ、100人以上の会員をまとめるのは難しいんだろうけどね。それにしても、唐沢俊一が東浩紀の本を2度にわたって「トンデモ本」として取り上げた(『唐沢俊一検証本VOL.4』を参照)のは「笑って楽しむ」にしろ「批判する」にしろ、はたして適切と言えるのか、疑問が残る。あと、「悪質なデマで無実の人を中傷」というと、多くの方が“mindy9”事件を思い出すはずだが、山本会長の考えでは伊藤さんは「無実」ではないのだろう。ついでに書いておくと、「日本トンデモ本大賞2011」の投票結果について2ちゃんねる芸能ニュース速報+板にスレッドが立ったのだが、その中で「どうして『もしドラ』を取り上げないのか?」というレスがいくつかあったのは面白かった。確かにそれは気になった。
『トンデモ本の大世界』で唐沢俊一は「人はなぜトンデモにハマるのか」「世の中を騒がせたトンデモ人物列伝」を担当している。「トンデモ人物列伝」の参考文献の多さには驚かされるが(いいことです!)、「人はなぜトンデモにハマるのか」では「人間には“トンデモ”を信じてしまう能力がある」という『新・UFO入門』の延長線上にある話が展開されている。その中に次のようなくだりがあった。P.237〜P.238より。
私が仲間たちとと学会を立ち上げて一、二年たった頃、あるベテラン出版人に言われたことがある。
「カラサワくん、オカルト否定団体に入ってるんだって? やめた方がいいと思うがねエ」
どうしてですか、と私が訊くと、彼は何人もの先例を思い浮かべるような目を天井に向けて、「人を罵倒する文章を書いていると、不思議なことに全く関係ない分野のものであっても、文章力が目に見えて落ちていくんだよ」と言った。
なぜ、人を罵倒していると文章力が落ちるのか。
それから何年かしてやっと得た答えが、「罵倒は相手の思考・存在への徹底的な拒否であり、それは要するに、心の余裕のなさを表している」からではないか、ということだった。文章というものは、正確さだけを尊ぶものではない。むしろ、正確なだけの文章は無味乾燥になりがちである。世界が内包しているさまざまな要素、それには時に相反するものもあるだろうし、互いに矛盾するものもあるだろう。それらを取捨選択し、合わないものを取り捨てるだけではなく、これも世界の構成要素であると受け取り、自分の意識の中に共存させることが、心の余裕というものであり、その余裕が文章にみずみずしさをもたらすのではないかと思うのである。不正確だが興味深い情報あり、間違っているが面白い知識あり、世の中は複雑なのだ。
「人を罵倒していると文章力が落ちる」、これは事実だと思う。日垣隆もその一例だろう。哲学。俺がいつもウケを狙ってしょうもないダジャレを書いていたのは正しかったんだな、うんうん。…それは冗談だが(目は笑っていない)、文章を書くうえで常に読み手の存在を考えないといけないのは確か。気を付けよう。
そして、残念なことに上の文章を書いている唐沢俊一も罵倒をくりかえしたせいで文章に影響を受けたものと思われる。OLD PINK氏への罵倒を見てもちょっと…。「と学会」にも言えることだが、「言っていることは正しくても実際の行動には問題がある」というのは本当に困る。同じように「芸」や「キャラ」として「鬼畜」をやっているつもりでも、いつの間にか本体にまで「鬼畜」が染み込んでいってしまうのではないか。
それから、唐沢俊一のガセビアは「不正確なうえに興味を持てない/間違っているうえに面白くない」ので、「捨」を選択しても一向に問題はない。
もうひとつ気になった部分。P.239にはオウム真理教の信者に科学畑の人間がいたことについて次のように書かれている。
受験戦争で勝ち上がってきた世代(多くのオウム信者の世代)には、心に遊びしろを持つ余裕がなかったのではないか。ひたすらに実験データと数字という形而下の世界で生きてきて、ふと心に空虚感を感じたとき、それを埋めてくれるものを求めようとして、オウムの唱える教義に、すっぽりと全身をとらわれてしまったのだろう。
空にUFOを見ることを、耳に霊の声を聞くことを、私は決して否定しようとは思わない。否定するも何も、人間は最初からそのような能力を持って生れているのだ、と思っているから。
ただ、それを心の片隅でなく、すべてに満たしてしまったとき、他の物を心に入れる余裕がなくなったとき、人はトンデモにハマる。
「形而下」の使い方はこれでいいのかな。やっぱりついつい世代論をやってしまうんだなあ。「何故オウム信者になったのか?」について、もう少し深く考えた方がいいようにも思う。「実験データと数字」と「オウムの教義」はどこが違うのか。
どの世代でも、科学的知識があろうとなかろうと「トンデモ」にハマるときはハマってしまうのだろう。自分も唐沢俊一という「トンデモ」に余裕を持って接していきたいものだ。くれぐれも「自分だけは大丈夫」と思ったりしないようにしよう。
「と学会」については、夏に出す予定の本の中で自分なりに総括しておこうと思います。彼らの活動の良い面から、そして問題のある面からも多くを学んだので。
デヴィッド・ボウイもカバ−している。
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