ガセビアの首。
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『百mono語』は2010年の夏コミで唐沢俊一のサークル「NO&TENKI商会」から発行された同人誌である。唐沢の知り合いである渡辺シヴヲ氏のコレクションを紹介した本で、京極夏彦・木原浩勝・多田克己という豪華メンバーが寄稿しているほか、唐沢が渡辺氏のコレクションに解説を加えている。とらのあな、COMIC ZINで通販しているほか、「NO&TENKI商会」公式ブログで通販も始まっている。
さて、『百mono語』になんとなく目を通していると、「生首・干し首」について唐沢が次のように解説してあるのを見つけた。『百mono語』P.40より(COMIC ZINで該当ページのサンプル画像も掲載されている)。
首という言葉はそもそも、頭部と胸部の間の部分、つないでいる部分を言うので、この章で扱うのは解剖学的には「生頭・干し頭」としなければならないのだが、いつのまにかその連結部分が、その上全体を指す言葉になってしまった。これは私の見るところ、室町時代、武士の世になって、斬首が日常的に行われるようになってからであろう。“首を刎ねて、頭の部分を持ってこい”という指示が面倒臭くなり、縮めて“首を刎ねて持ってまいれ”と命じてもわざわざ真ん中の首の部分だけをを(原文ママ)頭から切り離して持ってくる奴はいないので、首が頭を含めて指す言葉に変化したのだろう。……そう言えば、巨大な女性の生首が空中に出現する“大首”という妖怪があるが、あれは平安時代には“面女”と呼ばれていた。まだ、平安時代には面(顔面)と首は分けて考えられていたのではあるまいか。
まず、小学生でも気づくのが「室町時代、武士の世になって」の部分。鎌倉時代を素っ飛ばしているし、源平の争いも承平天慶の乱も素っ飛ばしている。平将門はそれこそ「首塚」で有名なのに。
「首」という言葉の解釈について、唐沢俊一は『給与明細』でも同様の見解を採っている(2008年7月29日の記事を参照)。しかし、「首」には「首から上の部分」という意味もあるし、唐沢は「船首」や「首領」という単語に含まれる「首」をどのように考えているのか。
次に「首級」についてgoo辞書を引いてみる。
《中国の戦国時代、秦の法で、敵の首を一つ取ると1階級上がったところから》討ち取った首。しるし。「敵将の―を挙げる」
秦でも「首」と呼んでいたわけである。また、『史記』刺客列伝にある、荊軻による始皇帝暗殺計画のエピソードでは、樊将軍の「首」が重要な小道具となっているのだが、列伝の中では
乃遂盛樊於期首函封之
といったように何度か「首」が出てくる(『史記』については明治書院『新釈漢文大系』の記述に拠ったほか、「古代史獺祭」を参考にした)。
このほか、わが国で鎌倉時代までに成立した書物の中で「首」が出てくるものをいくつか取り上げてみる。最初は『平家物語』の「敦盛最期」の中で、熊谷直実が平敦盛の「首」を斬ろうとする場面(岩波文庫版の記述に拠った)。
よろひ直垂をとッて、首をつつまんとしけるに
『吾妻鏡』文治五年六月十三日には源義経の首実検について書かれているが、その中には
豫州の首を腰越の浦に持参し
件の首を黒漆の櫃に納め
とある(岩波文庫版の記述に拠った)。「豫州」というのは義経のこと(伊予守だったから)。
『将門記』より将門の首が京へ送られる場面(東洋文庫版の記述に拠った)。
便ち下野国より解文を副へて、同年四月二十五日を以て其の頸を言上す。
『平治物語』より信西入道の最期の場面(岩波書店『日本古典文学大系』の記述に拠った)。
ほり起てみれば、いまだ目もはたらき息もかよひけるを、首を取てぞ帰ける。
ほり起て=「掘り起こして」というのは、信西入道が地中に堀った穴の中に隠れているところを見つかったことを指している。
なお、引用文の一部を必要に応じて改変したことをおことわりしておく。
探せばまだあるはずだが、とりあえず室町時代以前から「首」が使われていたことを示せたと思う。唐沢俊一がどうしてあのような考え方に行き着いたのか気になるところである。
原題は“Bring Me the Head of Alfredo Garcia”。
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