いちいち自粛。
7×7=49
『週刊新潮』4月7日号の特集「「自粛自粛自粛」で日本が滅びないか!」の中で唐沢俊一がコメントを寄せている。
(前略)同じく評論家の唐沢俊一氏も、
「やみくもに自粛、自粛と言うのは、日本のパワーを失わせるだけ。現在、この国では全てのことを“被災地の心情を考えて”という理由で自粛、延期してしまっている。しかしそれでは日本の復興に最も大事な“人々の活気”を失わせてしまう。花火大会をこんなに早い時期から“配慮”して中止にしてしまうのはあまりに不自然です」
と、苦言を呈す。(後略)
そしてこの後、「道頓堀劇場」が早々と営業を再開したことを評価していて、要は自身のサイトで言っていたことをもう一回雑誌でコメントしたわけだ。
唐沢が言っている「花火大会」とは「東京湾大華火祭」のことだと思われるが、「毎日新聞」の記事によると「大華火祭」の主催者である中央区は中止を決めた理由について「被災地や被災者の方へ最大限の協力や支援が求められる時期であり、被災地の状況を考慮した」とコメントしている。このコメントを見ると、「被災地の心情」を慮ったというだけでなく「被災地や被災者の方へ最大限の協力や支援」という現実的な問題も考慮したように読める。
唐沢俊一はわかっているのかどうか知らないが、東京も東日本大震災の被害を受けているのであって、震災の影響でイベントがまともに行えない可能性も存在した(する)わけである。一例として「GO!FES2011」開催中止のお知らせから一部抜粋してみよう。
3月14日現在、計画停電により会場である幕張メッセへの電力供給が不確実である事、また公共交通機関の運行が不安定な事、そしてなお会場地域において余震が続いている事態を踏まえ、開催中止を決定いたしました。
「電力供給が不確実である」
「公共交通機関の運行が不安定」
「会場地域において余震が続いている」
現実的な理由が3つも挙がっている。もうひとつ、「鋼の錬金術師FESTIVAL2011」開催中止のお知らせでも同様の理由が挙げられている。
だから、唐沢が言うように「全てのことを“被災地の心情を考えて”という理由で自粛、延期してしまっている」わけではないのだ。電力が安定しないと今後も大規模なイベントの開催は大変かも。知恵を絞らにゃあ。
もっとも、震災による自粛に反対する意見は既にあちこちで出ていて、『週刊新潮』に先立って出た『週刊プレイボーイ』4月11日号では「今こそ脱・自粛で日本を動かせ!」という特集が組まれていたし(てっきりこっちにも唐沢が登場するものだと思っていたが)、小林よしのりも最新の『ゴーマニズム宣言』で自粛に反対していた。こうなってくると、単に自粛に反対するだけではなく、経済活動を盛り上げるための具体的な対案も出してほしいところだが、唐沢俊一は『週刊新潮』でさらにコメントを続けている。
「最近、銀座や六本木といった繁華街に行くとドキッとさせられます。灯が半分以上消え、街が死んだようになっている。被災を免れた者にとって一番重要なのは、“日常”を崩さないことではないでしょうか。いたずらな悲嘆や憤慨で精神が興奮状態にあると、デマや煽りといったものに対する正常な判断能力が失われます」
照明の落ちた銀座の写真はこれ(サンケイビズより)。
自分は銀座や六本木に「日常」的に行かないのでよくわからないが(映画館や美術館に行くくらい)、やはり今週号の『週刊新潮』で福田和也が銀座の店に出かけたらいつも以上に歓待してくれたと書いていた。まあ、やはり厳しいのだろうな、とは思う。唐沢俊一の書き方だと節電に反対しているようにも読めるけど。
ただ、これは「水が半分入ったコップ」の話ではないが、人によって受け止め方は変わってくるのだろう。自分は震災後に都内の繁華街にしばしば出かけているが、灯りがだいぶ落ちていても人が案外多く、彼らは別段「悲嘆や憤慨」しているわけでもないので、「これなら大丈夫だな」と出かけるたびに安心して帰ってくる。それと、やはり震災後に外でご飯を食べようとして、店が満員で入れなかったことが2回あったので、どこもかしこも「自粛」しているわけでもないと思うし、「街が死んだようになっている」ってそれこそ「煽り」ではないだろうか。「興奮状態」になっているのはどこの誰なんでしょうかね。…まあ、自分も唐沢俊一と同様に「「日常」を崩すべきではない」と考えている。京都アニメーションはあらゐけいいちの作風を崩すことなく再現してほしいものである(わかりにくいボケ)。最速だと来週の日曜から放送するのか!
桜井先生が好きだなあ。高崎先生ガンバ。
ついでに、唐沢俊一が自身のサイトで書いた「花見をしよう、お祭りをしよう」にも触れておこう。石原慎太郎の花見自粛発言を批判した文章だが、気になる点がいくつかある。
私は太平洋戦争の目的そのものを否定する思想の持ち主では
ありません。個々の戦闘における陸海の戦士たちの活躍もよく
知るところです。しかし、一方であの戦争の時の国民が、
軍部により、また神懸かった一部の人間たちによりいかに頭を
押さえつけられ、あらゆる娯楽を奪い取られ、その神経を痛めて
いったかも勉強しているつもりです。
「太平洋戦争の目的」というのはなんだろうな。しかもそれを否定するわけでもないと。たぶん、戦前を全否定するような見方を取らない、ということなんだろうけど。
この後、唐沢はさまざまな事例を紹介していくのだが、奇妙なのは紹介されているのがどれも敗戦後の話であって、石原発言を否定するのであれば「戦争中でも人々はささやかな娯楽を楽しんでいた」という風にしなければ効果はないのではないか。
「戦には敗れたが」
と知事は言いました。その、国民が“美しく”連帯していた
日本を破ったアメリカ軍は、戦時中であっても娯楽を禁じたりは
していませんでした(もちろん、一部での規模縮小などは
ありましたが)ルーズベルト大統領自らが娯楽の必要性を訴え、
スポーツや映画産業はかえって振興しました。
『カサブランカ』も『我が谷は緑なりき』も『誰がために鐘は
鳴る』も、みんな戦争中に公開されてヒットした映画です。
戦争に勝てる指導者というのは、何が国民に必要なのか、を
しっかりと理解している指導者なのです。どんなに(指導者
にとって)美しい連帯感を国民が見せても、負けては何にも
なりません。
黒澤明のデビュー作『姿三四郎』は1943年に公開されヒットしている…、というのにどうして思い当たらないんだろ。スポーツでいえば、大相撲は敗戦間際まで開催されていたしね。…しかし、娯楽に対する態度で戦争の勝敗が決まるというのもどうなんだろ。「振興しました」というのもどうかと思うが。石原慎太郎が公人でありながら放言を続けるのは大いに問題だが、批判するにしてももう少ししっかりしてくれないと困る。唐沢俊一も町山智浩さんみたいに花見をしたらいいよ。
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