唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

いぢめる?

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karasawagasepakuri@yahoo


 今回はパチスロ必勝ガイドNEO』5月号に掲載された唐沢俊一のコラム『エンサイスロペディア』第48回を取り上げる。今回のテーマは、いがらしみきおぼのぼのである。
 はじめに唐沢は70年代末から80年代前半にかけて「笑い」が大きく変化し、4コママンガにも変化が訪れたとしている。

 これは、いしいひさいちの『がんばれ!! タブチくん!!』のブレイクが牽引の働きをしていたわけだが、これの影響で、4コマ漫画専門誌というものが何誌も創刊された。70年代末にアダルト雑誌でデビューしていたいがらしみきおが、一般読者の目に触れることになったのも、このブームがあったからこそ、と思うといがらしファンとしてその僥倖に感謝せずにはいられない。

 へえ、唐沢俊一いがらしみきおのファンだったのか。知らなかった。おかべりかの作品がマンガの中で一番好きだと『コミックビンゴ』のコラムで書いていたけど。

 誰もが復帰はないのではないか、と心配しはじめていた頃になって、いがらしはそれまでの4コマ漫画の常識を打ち破る、凄い作品を引っさげてカムバックしてきた。それが、『ぼのぼの』である。それまでエロ系ギャグを多く発表してきたいがらしの、この作風のいきなりの転換は、
「休筆中に何かよほどの事件があったのではないか」
 という憶測まで生んだほどだ。

 初期のいがらしみきおは「エロ系」というよりは「過激」なんじゃないかなあ(「エロ系」のネタもあるけれど)。「電子貸本Renta!」で『ネ暗トピア』のサンプルが見られるので参考までに。


 で、唐沢俊一はこの後『ぼのぼの』は「ただ可愛らしい作品ではない」と論じていく。

 マンガのキャラクターというのは、何か行動して初めて意味がある、というのがそれまで、わざわざ口にするまでもない常識だった。それが、行動よりも思索の方に中心がおかれる作品が人気を博す。これはマンガというジャンルが、すでに成熟し、深遠化し、ある意味での“純粋哲学”すら包容できるようになったという作者と編集部の、時代を先取りしたアイデアであったろう。

 『ぼのぼの』を「純粋哲学」と評するのは、『BSアニメ夜話』における「『エヴァ』は純文学」と同じ手口であろう(「序破Q」を参照)。あなたは「哲学」や「文学」をどれくらい知ってるのか、と思ってしまうのだけど。しかし、それなら『ぼのぼの』の中で「哲学」を感じさせる部分を紹介してみた方が読者にはずっとわかりやすいのではないだろうか。「哲学=凄い」、というのはいささか短絡的な思考だし、『ぼのぼの』を「哲学」として捉える意見は決して珍しくない。その証拠にいがらしみきお自身が次のように語っている。『ぼのぼの』文庫版1巻(竹書房文庫)P.130より。

 最初はほのぼの漫画と言う事で始めたんですけど、そのうち哲学漫画とか言われだしてね。別に哲学を描こうとしてたわけじゃないんだけど、哲学的とか言われちゃってちょっとその気になった部分もあるのかもしれないですね。だけど、そういう路線で描いてて、ちょっと煮詰まったというのがありまして、最初の頃は、自分でテーマというか、クェスチョンを出して、それに自分で答を出すというようなことをやってたんですけど、そのうち説教臭くなるというか、うんざりしてくる感じはあったので、もうそういうのはやめようと思いました。それで、哲学じゃなくて、もっと日常的な雑感というか、ぼのぼのがこういうことを見て、こう思いました、という方向にシフトしましたね。ギャグに関しても、自分では判りやすくなったと思ってます。なにか変わるべきだというのであれば“わかりやすくなること”が当然の流れだと思ってましたから。

 このいがらしのコメントはなかなか「哲学」を感じさせる。結局、ぼのぼの』を読んでなくても「哲学」と言っておけば持ち上げることは可能なのだが、まさかそういうことはあるまい。
 それから、唐沢は漫画の「成熟」「深遠化」をポジティブに評価しているが、以前は「成熟」を否定して資本漫画やアジアの漫画を評価していたのではなかったか。

 サザエさん』以来、4コマは世相を描くものであり、“風刺”が4コマの神髄だという命題は、この“ぼのぼの”(原文ママ)のヒットにより崩された。それは静かな革命だったと言える。

 まず、「命題」の使い方がおかしい(Yahoo!辞書)。
 次に、『サザエさん』以前にも4コママンガはあったわけで、何故『サザエさん』で区切っているのかよくわからない。そういえば、中学生の頃に読んだ『いじわるばあさん』の中にあった、ばあさんが誕生日にたった一人で「ハッピーバースデートゥーミー」と歌ってお祝いをしていた話には「哲学」らしきものを感じたっけ。
 なお、業田良家自虐の詩』が『ぼのぼの』より1年早くスタートしていることも一応付記しておく。あれも「静かな革命」と言っていいのでは。

 パチスロをプレイするのも、ある種自分の意のままにならぬマシンとの対峙という意味で哲学の世界に片足を突っ込んでいる。この台でプレイしつつ、ぼのぼののように、自分を見つめ直していただきたい。

 ドストエフスキーもギャンブル狂だったというし、目押しも哲学的な行為なんだろうね、きっと。


 ちなみに、伊藤剛さんも『テヅカ・イズ・デッド』(NTT出版)で『ぼのぼの』について一章を割いて論じている(第2章)。パチスロ雑誌のコラムと漫画評論を比較するのは無茶かもしれないが、同じ漫画を論じていてもかなり違うものなのだなと(穏便な言い方)
 また、唐沢俊一は『テヅカ・イズ・デッド』を何回か批判しているので、この件はいずれ取り上げたい。

ぼのぼの 1 (バンブー・コミックス)

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パチスロ必勝ガイド NEO (ネオ) 2011年 05月号 [雑誌]

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とちめんぼう劇場

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いじわるばあさん (1) (朝日文庫)

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自虐の詩 (上) (竹書房文庫ギャグ・ザ・ベスト)

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賭博者 (新潮文庫)

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テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ

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