本人も知らない物語。
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karasawagasepakuri@yahoo
吉田豪さんによる唐沢俊一のインタビューでは「村崎百郎の事件」の話も出てくるのではないだろうか。村崎百郎の話なら根本敬に聞いた方がいいような気もするけど(既にあちこちで語られているが、『人生解毒波止場』文庫版での町山智浩さんの解説は凄かった)。ともあれ、『村崎百郎の本』以上のネタが出てくることを期待。
本題。1995年に出た『東大物語』(翔泳社)という本の中で、唐沢俊一は「漫画のなかの東大」というテーマで、数々のマンガに登場する東京大学について論じている。取り上げられているのは、『男どアホウ甲子園』『東大一直線』『東大快進撃』『東京大学物語』なのだが、この中で唐沢はマンガ界では高学歴がかえって災いすることがある、という話をしている。同書P.176より。
ひとつだけ例を挙げると、以前、僕の知り合いの、ある国立大(理系)出身の男がマンガ家を目指して、大手企業を退職し、現在週刊誌で活躍中の某人気マンガ家(高卒)のプロダクションにアシスタントとして入ったことがあった。入社したその日、くだんの人気マンガ家はわざわざ彼を個室によびつけ、
「オレは君を特別扱いする気はないからな!」
と宣言した。別にコネ入社したわけでもなく、いったい何の話かさっぱりわからずに仕事部屋に戻ると、今度はチーフアシスタント(工業高校卒)が、腕を組んで彼の前に立ち塞がり、
「言っておくが、オレは絶対に大学出には負けない! たとえ死んでもだ!」
と、訊かれもしないのに自分の信念をトウトウと披露した。
そこで国立大出身の彼は、「高学歴を背負っているだけで自分が他の同僚(ばかりか先生にも)圧迫感を与えている」ことにようやくそこで気がつき、呆然としたという。
…唐沢俊一ウォッチャーには、この話の登場人物が誰なのか分かるのではないだろうか。つまり、「僕の知り合い」というのは伊藤剛さんで、「某人気マンガ家」というのは浦沢直樹のことではないか?となんとなく見当がつくはずなのである。「国立大(理系)出身」「大手企業を退職」というのは伊藤さんのプロフィールにそのまま当てはまるのだ。
…しかし、浦沢直樹は大卒なので、唐沢の話に出てくる「某人気マンガ家」とは違っている。気になったので、当事者である伊藤さんにメールで質問してみた。すると、間もなく伊藤さんから返事を頂いた。その一部を転載させていただく(伊藤さんのお許しは得ています)。
理系、大企業勤務、国立大卒はぼくの「スペック」です。
事実とあってるのはそこまでです。
以降はすべてデタラメです。まず浦沢直樹氏は明星大卒で高卒じゃないし、
仕事場には呼びつける「別室」は存在しませんでした。たしかに、仕事場では一人だけ高学歴ということで
それなりに苦労はしましたし、唐沢にも言った記憶はあります。
しかし、こんなエピソードはありません(当然かw)。
さらにいえば、いまから振り返るに、
当時、浦沢氏の仕事場で、周囲になじむのにそれなりに苦労を
したのは、学歴というよりもむしろ生活習慣などを含めた
「カルチャー」のギャップだったと考えられます。また、これははっきり言っておきますが、
浦沢氏の仕事場で不当な扱いを受けたとか、不利益を被った
といったことはありません。
先輩格のアシスタント方(星野泰視さんほか)からも、
たいへんよく面倒を見てもらい、現在でも(お会いする機会は
ほとんどありませんが)良好な関係が続いております。
…つまり、全くのデタラメだったってことみたいです。伊藤さんに質問するまで「話を膨らませたのかもな」とは思っていたけれど、どうもそういったレベルでもなかったようで。
興味深いのは、唐沢が伊藤さんがスタッフだった時から伊藤さんについて虚偽の事実を述べていたことで、これが後々伊藤さんへの誹謗中傷へとつながっていたのではないか?とも思われる。つまり、唐沢には「あいつには何を言ってもいいんだ」という心理があって、それで伊藤さんを「トンデモ」に仕立て上げ、「オタクアミーゴス会議室」での伊藤さんの発言を改竄するという文筆業者にあるまじき行為(『検証本VOL.4』を参照)を平気でできたのではないか?と推測できるのだ。「あれが通ったのなら今度も大丈夫だろう」とどんどん行為がエスカレートしていったんじゃないかなあ(同じことは盗用にも言えそう)。…完全に「犯罪者の心理」として考えちゃってますけど。
『東大物語』での唐沢の文章が『東大一直線』に妙に肩入れしているのが興味深いが、その中にこんな一節がある。P.179〜180より。
もちろん、僕などは最初から努力嫌いで私立一本やりのノンシャラン受験生であったから(以下略)
唐沢俊一は現役のときに北海道大学の薬学部を受験しているのではなかったか。「マイコミジャーナル」でのインタビューより。
「それまで東京の文系の大学に行くための勉強をしてたのに、突然親に『北大の理系を受ける』と言って。すると、親は喜ぶじゃないですか。ウチが薬局だから、継いでくれるのかと思って。でも、そんなの受かるわけがない(笑)」
もうひとつ、『古本マニア雑学ノート』(幻冬舎文庫)P.141〜142より。
そんなこんなで高校時代は過ぎていった。大学は理系を受験したが、もともと数学は大の苦手だった上に、古書店めぐりばかりしていて勉強を全然していなかったから、受かるわけもなく、一年浪人するハメになった。
しかし、この浪人時代の一年は、その後の僕の人生を大きく変えた。それまで古書趣味のような、どちらかというと孤独な趣味に走り、友人もあまり多くなかった僕だったが、当時札幌の地下鉄の駅前にあったNという書店の伝言板に、SF・アニメ同好会の会員募集があり、そこに入会したのだ。
過去を語るたびに矛盾が生じるのは相変わらずだが、全然勉強していなかったというのは一貫している。
もうひとつ付け加えると、『東大物語』の巻末に載っている唐沢のプロフィールは次の通りである。
「青学中退」となっていたのは『20世紀少年白書』だけではなかったのだ。そうなると「青学中退」は単なるミスではなかったことになるわけだが。
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