我らが時代の子。
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『朝日新聞』2004年4月28日朝刊25面に「ゴジラ 50周年記念作で「最後」/時代の子 時代に負ける」という記事が載っている(担当は小原篤記者)。『ゴジラ』シリーズ休止を受けての記事だが、唐沢俊一がコメントを寄せている。
怪獣映画マニアでもある評論家の唐沢俊一さんは、「時代」を背負っていなかったことが平成ゴジラ失速の理由、と指摘する。
「54年のゴジラは、原水爆の恐怖を体現していた。キングコングなど巨大怪獣同士の対決は、米ソ冷戦のカリカチュア。逃げまどう人や破壊された街は、大国の争いに巻き込まれ、翻弄される日本の姿だった。そんな重いテーマを、言ってしまえばバカバカしい着ぐるみ怪獣が演じるから、不安が解消され、気楽に楽しめた」
復活したゴジラには「いまなぜゴジラなのか」が見えなかったという。「現代の我々にリアルな恐怖とは、巨大な力にしいたげられることではなく、見えないものが生活の中に忍び込んでくる恐怖。それには、怪獣映画よりも『リング』などのホラーが向いている」 昭和ゴジラと平成ゴジラの二つの盛り上がりには、高度経済成長とバブルが重なる。
ガメラシリーズの湯浅憲明監督は「怪獣映画はお祭り」と言った。唐沢さんはその言葉を引き、「お祭りは豊作のときやるもの」と言う。街を壊すカタルシスに酔えるのは世の中にエネルギーと余裕がある時、ということなら今回の休止も仕方のないことといえる。
本論に入る前に、唐沢俊一の『ゴジラ』論の変遷を簡単に紹介しておこう(詳しくは『検証本』VOL.0を参照)。
アマチュア時代=森卓也の受け売りで『ゴジラ』『ウルトラマン』などの着ぐるみ怪獣作品を否定
現在=『ゴジラ』は作品としては出来が良くないが、日本人の心に強く訴えるものがあったために広く受け入れられた、として肯定(その理由として祟り神信仰や高度経済成長を持ち出す)
結局のところ、『ゴジラ』という作品自体の評価は変わっていないのだが、何らかの理由で否定から肯定へと転じたわけである。なんでなんだろ。ナンデナンデダンス。
『ゴジラ』関連の過去の記事(2008年11月6日、2009年10月11日)を参照して欲しいが、『朝日新聞』での唐沢のコメントで気になる点を指摘しておこう。
昭和『ゴジラ』シリーズのまとめ方が乱暴すぎるのが気になるが、まず、1954年版『ゴジラ』が「バカバカしい着ぐるみ怪獣」と評価されているかは疑問。現在の眼から見れば特撮としてマズいところがあるかもしれないが、中野稔さんも第1作目の『ゴジラ』を評価されていたし(詳しくは2008年10月23日の記事を参照)、個人的なことで恐縮だが、自分の父親も「最初のゴジラは怖かった」と言っていた。当時の観客にとって真に迫っていたからこそ受け入れられたのではないか。…まあ、唐沢の論法だと、円谷英二は『ゴジラ』で一体どんな仕事をしたのか?と思えてきてしまうのだが。
次に、『キングコング対ゴジラ』について、唐沢は『文藝別冊・円谷英二』(河出書房)に寄稿した文章の中で別の解釈を唱えている。
1作目で、戦争や核に対する恐怖の象徴としてゴジラが登場し、以降、政治や社会情勢を反映させた作品として『ゴジラ』シリーズは続いていくんです。そして、『キングコング対ゴジラ』がひとつの分岐点になります。高度経済成長のなかで自然が破壊されて街並みが変わり、コンクリートと鉄骨でできた建物に囲まれたなかでキングコングとゴジラが暴れるだけ暴れて去っていく―。昭和ゴジラシリーズは「自然の逆襲を忘れちゃいけない」というメッセージ性とともに自然と文明の対立が軸になります。
「米ソ冷戦のカリカチュア」だの「自然と文明の対立」だの、テーマを見つけようと思えばどうにでもなるものなのだな、と感心させられる。『ゴジラ』全作品でやってみてほしいところだ。
それから、今の日本人にとっても「巨大な力」は決して他人事ではない。阪神大震災を忘れたのか? あと、唐沢俊一はいわゆる「Jホラー」を観ているのか?と思う。『リング』に至るまで結構長い道のりがあったわけで、「時代に合っているから受け入れられた」だけで済まさないようにしてほしいところだ。
そして、「お祭りは豊作のときやるもの」というが、『唐沢俊一のトンデモ都市伝説探偵団』では「『ゴジラ』によって高度経済成長が始まった」という説を唱えているので、もう何が何やら、である。
思うに、どのような作品も多かれ少なかれ「時代を背負って」いるものなのではないだろうか。成立した時代背景と完全に無縁である作品などそうはあるまい。平成『ゴジラ』シリーズにも時代は反映されているはずなのであって、それを見出すのが評論家である唐沢俊一のやるべきことなのではないだろうか。
実は、記事を担当した小原記者もそこのところが気になったらしく、このように書いている。
平成ゴジラは、東京都庁から横浜のランドマークタワーなど新名所の高層ビルを軒並み破壊してきた。観客がそれを喜んだのは、バブルで変容した街への違和感があったからではないか。その意味では、平成ゴジラにも背負っていた「時代」があったと思える。
唐沢俊一のコメントをそのまま載せるだけではなく、自分の意見も併せて書いているのは良いと思う。
なお、現時点での『ゴジラ』シリーズ最新作である『ゴジラ FINAL WARS』の唐沢俊一の感想については「裏モノ日記」2004年12月1日を参照。
ところで、観ていてのこの妙な安心感は、これでもう“来年もゴジラ映画は果たしてあるんだろうか”というハラハラを味あわなくていい、というそのせいだろう。毎年々々、いくら怪獣ファンとはいえこんなもん観なくちゃいかんのか、という情けない思いで“来年こそは”というかすかな希望と“しかし、来年があるか”という心配に引き裂かれていた身にとっては、なにか決まるものが決まったという安堵でとにもかくにも、ゆったりした気分で観られるのである。なに、どうせ数年待ちゃ復活する んだから(原文ママ)心配ない。
『FINAL WARS』についてはホメとケナシが入り混じっているが、どうも平成『ゴジラ』シリーズについて否定的な見方をしているようだ。唐沢に限らず、「オタク第一世代」の人は平成『ゴジラ』に厳しい評価をしている人が多いような(岡田斗司夫・山本弘会長など)。
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