とんでも戦士MUTEKIんぐ。
まさかさっちんが…。
『パチスロ必勝ガイドNEO』12月号掲載の唐沢俊一のコラム『エンサイスロペディア』第43回では『とんでも戦士ムテキング』が取り上げられている。30年前のマイナーなアニメを唐沢がどのように紹介するか、なかなか難しいテーマではあるが、興味深いところである。
『ムテキング』はタツノコ作品としてはマイナー系に属する。一見すると『タイムボカン』シリーズぽいキャラクターと構成だが、実際は全く関連のない別系統の作品である。もちろん同じタツノコプロの作品なのだから似ているのは当然と言えるかもしれないが、同じ制作会社で、あきらかに先行シリーズの影響下にある作品が制作されるというのも珍しいことである。それだけ『タイムボカン』シリーズの人気と普及度が高かったということなのだろう。
円谷プロは『ウルトラマン』の影響下にある作品を作り、東映は『仮面ライダー』の影響下にある作品を作り、サンライズは『機動戦士ガンダム』の影響下にある作品を作っているのではないだろうか。言葉は悪いが、人気作品の二番煎じをを狙うのは珍しいことではない。
……とはいえ、この『ムテキング』、タイムボカンシリーズとはまた違った魅力にあふれた作品である。殊に舞台が完全に日本に移る32話以前の回は、タツノコアニメの特色である無国籍テイストが最大に活かされた(なにしろ舞台がサンフランシスコならぬ“ヨンフランシスコ”である)、日本製アニメばなれしたポップな感覚が全編に炸裂していた。その象徴とも言うべき存在が、安原義人が演じる“キャスターマン”だろう。いわゆるナレーターなのだが、マイク型の顔をしたロボット(?)風なキャラであり、「やぁやぁやぁ、突然ではありますが……」
と話に割り込んでくる。ラジオのDJをパロディ化したこの西海岸風キャラクターは、ある意味主役を超えて番組のスタイルを牽引していく“顔”だった。
「ヨンフランシスコ」のような実在の地名をもじったネーミングは『タイムボカン』シリーズにも登場している。『ヤッターマン』の放映リストを見ればすぐにわかる。この手のネーミングの最高傑作は『科学忍者隊ガッチャマン』の「ホントアール国」なのでは。
それから、ナレーターといえば『タイムボカン』シリーズの富山敬も有名だ。「説明しよう!」って今でも使うよね。だから、この文章で『ムテキング』と『タイムボカン』シリーズの違いをうまく説明できているかというと、疑問が残るところだ。あと、キャスターマンは物語の途中で退場している。
ストーリィ自体には取り立てて奇をてらったところはない変身ヒーローものだが、携帯型カセットプレイヤーとローラースケートがトレードマークというスタイルの主人公・遊木リンのナウい(当時の流行語)スタイルも抜群のカッコよさであり、そのセンスは突出していた。これは、1980年代初期という放映年代が大きく影響しているだろう。ある意味、最もテレビが輝いていた時代であり、オールナイトフジや夕やけニャンニャンといったバラエティが、日本人の価値観全般を大きく変えていっていた時代だった。ヒーローアニメの主人公と言えば、以前は正義感に燃える、どちらかと言えばおしゃれ的感覚には無縁の少年だったものだ。アニメの主人公が最先端の風俗を身につけているというのは実は衝撃的なことだったのである。
まあ、『ムテキング』もフジテレビで放映されていたんだけど…。しかし、『ムテキング』の後番組で同じタツノコプロ制作の『ダッシュ勝平』は別に「おしゃれ」ではなかったから、時代は関係ないのでは。タツノコプロのアニメは昔から「おしゃれ」だったし。『オールナイトフジ』と『夕やけニャンニャン』は若者には影響力があったけど、「日本人の価値観全般」を変えるほどのものだったのかというと疑問だ。どうしても時代をからめて論じてしまうんだなあ。
もちろん、『とんでも戦士ムテキング』はそんなおしゃれで新しいばかりの番組ではない。ちゃんとタツノコならではの伝統も受けついでいる。敵のクロダコブラザーズは『タイムボカン』シリーズの“主役以上に人気のある悪役”トリオの発展形で、おそらく当初から主役を食うことを考慮に入れて作られたキャラクターだろう。
中でも末っ子のタコミの人気は高く、悪役なのにヒーローのムテキングに惚れるという設定がユニークだった。普通、敵側のキャラが主役に恋をする、という展開の場合、そこにドラマが生れる(原文ママ)ものだが、この作品の場合、ヒーローが非常にドライに、最後にはタコミを含めたクロダコブラザーズをぶっ飛ばして終わり、という結末がほとんどで、その割り切りぶりも、日本人的感覚を飛び越したものだった。
…うん、やっぱり『タイムボカン』っぽいな! あと、「ぶっ飛ばして終わり」やタコミの設定からは『アンパンマン』とドキンちゃんを連想する。「顔がアンパンでできている主人公」というのはよく考えてみると確かに「日本人的感覚を飛び越したもの」なのかもしれない。
ある意味“早すぎた”作品だったこのムテキングが、再評価という気運もまだそんなにないのに、なぜ、パチスロに取り上げられたのか。おそらく、放映当時に、そのぶっとんだセンスを深く心に刻んだファンが企画スタッフにいたのではないか。アニメは決して放映期間のみ、見る者をとらえるものではない。十年、二十年を経て、その心が結実する作品もあるのだ。
…このコラムを書いている唐沢俊一がスポンサーに気を使わなければいけない、というのはよくわかるけど、ぶっちゃけた話、「パチスロ化しやすかったから」パチスロになったんじゃないの? タツノコのアニメは軒並みパチスロになっているし。
最初にも書いたように今回は難しいテーマだったと思うので、唐沢俊一に同情しないわけではない。オタク的視点で言えば、『ムテキング』以外の『未来警察ウラシマン』や『ゴールドライタン』などの80年代のタツノコアニメをからめて語る手もあったのでは?とも思ったが、80年代当時の唐沢俊一はそれらの作品を観ていないようだから無理なのかもしれない。『トンデモ創世記』(扶桑社文庫)P.51で唐沢はこんなことを言っている。
それで大学入って「アニドウ」って会に入会して、海外アニメに興味が向いたんですね。それで。日本のアニメはもういいやと思ったけど、結局戻ってくる感じになりましたね。
文中で書かれている『ムテキング』の話もほとんどネットで拾えるしなあ。
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