♪チッシキジ〜ン。
「唐沢俊一? そんなやつおれへんやろ〜」
少し前になってしまいますが、「漫棚通信」さんに『検証本』を紹介していただきました。ありがとうございます。新里堅進の名前が出てきたので「沖縄にうるさい男」としてはちょっとビックリ。
本題。今回は『中洲通信』2008年1月号に掲載された唐沢俊一のインタビュー『オタクの老後問題を語る』を紹介する。いよいよラストである。
オタクという「概念」を岡田斗司夫が作って、その作ったものが岡田や僕たちの思った以上の、フランケンシュタインの怪物のような作った人間の手に負えないようなものになっているなと感じているわけです。以前、『サイゾー』が「オタクの闇」という特集をしたときに<第一世代であるところの岡田や唐沢のオタク世代は幅広い興味と知識を持った知識人だった>と。いままでの知識人とは違うオタク的な視点を持った教養人の進化した形だったんだけれども、『ガンダム』以降、メカや美少女に特化したものがオタクになってしまって僕たちが最初に考えていたオタクとは乖離してしまって、だから岡田や唐沢たちといまの若いオタクたちの話はかみ合わないんだろうと言われましたね。
唐沢俊一が「知識人」って…。いやいやいや、それはないよ。だって、唐沢は「幅広い興味と知識」なんて持ってないでしょ。それに岡田斗司夫も「知識人」とは言えないのではないか。逆に教養がないからこそズバズバ物を言えるのが岡田の長所だと思う(褒めてます)。まあ、 「オタクはわしが育てた」みたいなことを言っているのも気になるが…。岡田斗司夫も『ガンダム』にハマってたわけだから、話の流れが若干不自然。
で、『サイゾー』で岡田・唐沢を「知識人」と定義したのは誰かというと、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)で知られる宇野常寛である。『サイゾー』2007年8月号の特集「オタクギョーカイの闇」のなかで宇野は『“ノスタルジィ中年”が跋扈! 老害化が進むオタク論壇の憂鬱』という記事(タイトル凄いなあ)を書いているのだ。該当部分を紹介する。
それまで「オタク」文化は、進学校のインドア系の文化であり、オタクの何割かは確実に文系総合知識人であった。だが、このあたり(引用者註 『エヴァンゲリオン』ブーム)から、ただ「美少女(美少年)キャラクターがいればいい」といった「萌え」オタクが急増していった。前者(オタク第一、第二世代)と後者(オタク第三世代)は、同じオタク趣味の持ち主であっても、ほぼ別物だった。この変化を指摘したのが前出の哲学者・東浩紀だ。もともと現代思想界のホープとして登場した東は、オタクの消費スタイルの変貌を、持論のポストモダン論に重ね合わせて展開、岡田斗司夫(58年生)、唐沢俊一(58年生)といった80年代オタク文化を担った論者たちと『エヴァ』への評価やオタク論をめぐって鋭く対立した。だが、この両者の対立は終始かみ合わなかった。岡田・唐沢と東が語っていた「オタク」は前述のようにまったく別物といっていい存在だからだ。
唐沢俊一を「80年代オタク文化を担った論者」としているのは明らかに誤りだが、以前はこのような見方を鵜呑みにする人も多かったようだ(2009年10月17日の記事を参照)。ちゃんと調べれば分かることなんだけどね。そして、唐沢俊一と東浩紀の「論争」もそんな上等なものではないと思う(2009年2月5日の記事を参照)。実際は唐沢が東を一方的に批判していたわけだし、『キャラクターズ』を理解できないのは世代が違うせいでもなかろう。唐沢が本当に「知識人」ならあの小説を読めたはずである。
また、「と学会」の紹介文にも首を傾げたくなる箇所がある。
オタクが「文系総合知識人」から「萌え嗜好家」を指すようになってからは一線を引き、「ご意見番」的な位置からの発言が多い。
…いや、「と学会」は「オタクに対して物申す!」という団体じゃないだろう。「オタクアミーゴス」とゴッチャにしているんじゃないか?
思うに、宇野常寛という人は「オタク第一世代」にそんなに興味が無いのではないか。それが文章を雑なものにしているのだろう。なお、この宇野の記事は後に岡田・唐沢の「オタク対談」でネタにされているので、近く取り上げるつもりである。宇野の記事にしろ「オタク対談」にしろひっかかるところが結構ある。
いずれにせよ、宇野常寛に「知識人」とされたことが唐沢俊一はよほど嬉しかったと見える。少しは謙遜してほしいものだが。照れくさくないのかなあ。
そんな唐沢をさらに喜ばせたのはインタビュアーの和田彰二氏である。唐沢に向かって
逆にいうとオタク第一世代というよりも連綿と続いてきた日本の知識人の最後の世代だった可能性もあるわけですね。
と、ものすごい質問をかましてきたのだ。
…いやいや、和田さん、いくらなんでもそれは持ち上げすぎだよ。贔屓の引き倒しってやつで、そこまで言われると唐沢さんもかえって困っちゃうって。
…そう思ってハラハラしていると、唐沢俊一はこう答えたのであった。
そういうこともいえます。
認めよったーっ! 全く謙遜してねぇーっ!
…でも、そうなると、東浩紀も「知識人」ではないわけか。大学の先生が「知識人」でないというのもヘンな話だし、オタクでない30代、40代の学者もいっぱいいるんだけど。「俺より年下の奴はみんなバカ」と読みとれてしまう言い分である。
唐沢の話は続く。
変転した「知識人史」というのは書きたいと思いますが、夏目漱石や森鴎外(原文ママ)の時代から近代の知識人の流れはあると思うんですが、そういう形の知識人の流れは浅田彰で止まってしまった。ポストモダンで「もうこれ以上、知識は進みません」とほとんど言い切ってしまった。それで「知」が宙に浮いてしまった。それをどこかへ収拾しようということでオタクというものに「知」が来てしまったんですね。
通俗なものと学識的なものを合致させた最後の知識人は三島由紀夫さんでしょうね。あの人の残したエッセイや全集を読むと本当にありとあらゆる現代風俗に通じているのにびっくりするんですよ。
よーし、それじゃあ、「知識人史」も書いてもらおうか。「寺山修司へのハマり方」もあるから、また出版ラッシュが来るなあ。
それにしても、「知識人の流れ」の末端として浅田彰の名前が挙がっているのはなにやら象徴的だ。自分は「唐沢俊一は80年代で止まった人間ではないか?」と考えているので、それが裏づけられたような気持ちである。要するに「ニュー・アカ」で止まっちゃっているわけで、それで「知識人史」が書けるのかどうか心配になるし、過去の知識人でも例えば丸山眞男についてきちんと論じられるのか?などと考えるとますます不安になる。「オタクというものに「知」が来てしまった」というのも意味不明だし。
以上で『中洲通信』のインタビューの紹介を終了する。…いやー、過去最大級に内容盛りだくさんのインタビューだった。突っ込みだすとキリがないし、検証しながら何回か腹を抱えて笑っちゃったもの。インタビュアーの和田さんはGJすぎ。逆に言えば、唐沢俊一がいかにおだてに乗りやすいか、ということでもある。
なお、過去に『中洲通信』のインタビューを紹介したエントリーを挙げておく。
●ガセビアの沼に沈む
わざとガセビアを書いているんだよ!という言い訳。
●百匹目の猿は一万一冊目の本を読むか?
蔵書についての無意味なハッタリ。
●「『宇宙戦艦ヤマト』はわしが育てた」補論
自ら「『ヤマト』ブーム札幌発祥説」を否定。
●プレ・オタク世代、お先にシルブプレ。
新たな分類「プレ・オタク世代」登場。
●グラウンド・ゼロな自信。
「根拠の無い自信」について妙に自信タップリなのは何故。
※追記しました。
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・初めての方は「唐沢俊一まとめwiki」、「唐沢俊一P&G博覧会」をごらんになることをおすすめします。
・1970年代後半に札幌でアニメ関係のサークルに入って活動されていた方、唐沢俊一に関連したイベントに興味のある方は下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
karasawagasepakuri@yahoo.co.jp
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