「コミックマーケット78」レポート（前篇）。

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　そもそも村崎百郎が亡くなった時に検証について身内からかなり注意されていた。「刺されるなら俺じゃなくて唐沢さんの方だよ」と言っても納得しない。ネット上での検証ですらよく思われていないのだから、コミケで人前に出ることを賛成されるはずもなく、なんとか納得してもらえるよういろいろと気を使わなければならなかった。
　それに加えて例の「トラップ」だ。自分は裏亭さんと違って暴力を恐れる臆病な人間である。だけど、「トラップが仕掛けられているかもしれない」というだけでコミケへの参加を避けるというのは理屈に合わない。コミケを休んで町を歩いていても地割れに落ちたり隕石が頭を直撃する可能性だってあるのだ。それに検証に対して圧力を仄めかされるのはこれが初めてではないので「今更慌ててもしょうがない」という半ば諦めにも似た思いもあった。死亡フラグが立っているのをわかっていながら「参加しない」という発想が無かったのだから我ながらバカだと思う。
　今回は自分のせいで多くの方を心配させてしまい、コミケ準備会ならびにコミケ参加者にご迷惑をかけてしまって本当に申し訳なく思っている。なお、残念ながら名前を失念してしまったのだが、twitterで自分に宛てて「コミケに出なくても恥ではない」と言って下さった方がいらっしゃったので、この場を借りてその方には特にお礼を申し上げたい。

　
　そのような事情があったせいで、今回は女の子に手伝いを頼まずに一人だけでビッグサイトまでやってきた。…しかし、コミケ3日目の東京の最高気温が35度というのはどう考えても「トラップ」だろう。それどころか、前日から既に「トラップ」は発動していて、コミケ用の「おまけ」を作ろうとしたらプリンターの調子が悪くなり、買い物に出かけた時に腕に違和感があるので見てみると、大きな蜂が尻を振り上げて今まさに刺そうとしているところだったので大慌てで追い払ったり…、という具合であった。もはや全く油断のできない状況であることに間違いない。そういえば、りんかい線の車内で隣に立っていた人がファングメモリを持っていたのも気になる…。
　油断できない、油断できない、と思いつつ会場に入り、自分のブースを探す。…と、ここで何故か唐沢俊一のブースにたどりついてしまった。「やべえ！　見つかったら約束を破った事になってしまう」と慌てて逃げ出したが、幸い唐沢はまだ到着してなかったようなのでとりあえずホッとした。…ブースが近いといろいろ問題があるようだ。
　なんとかブースにたどりつき、設営を始めてまもなく、近くを歩いていた眠田直氏に遭遇する。到着5分で「トラップ」かよ！と愕然とするが、よく考えてみると眠田氏とは面識がないので本当にただの偶然だったようだ。で、その後串間努さんと少しお話をさせていただいた。串間さんには貴重な資料を提供していただいたので、今後検証していきたいと思っている。どうもありがとうございます。
　ふうふう言いながらなんとか設営を完了し、唐沢帽を装着したところに、永山薫さんと昼間たかしさんがいらっしゃった。やはり話は「トラップ」のことになって、「トラップ、トラップってトラップ一家かよ！」と永山さんが言われたので「どうしてそれを思いつかなかったんだ！」と心の中で自分を責めたのは内緒だ。

　10時になっていよいよ開場。例によってすぐに参加者の方が来られたのでソツありまくりの応対を済ませた後でふと横を見てみると、なんと唐沢俊一の姿が肉眼で確認できるではないか！　派手なシャツを着た唐沢なをきの背中の向こうに黒ずくめの唐沢俊一がハッキリと見えるのだ。配置図を見てもらえばわかるが、自分の“O-39a”と唐沢俊一の“O-46a”は本当に至近距離なのだ（唐沢なをきは“O-45b”）。…しかし、そうなると逆に唐沢俊一からも自分の姿は見えるはずなので、「お前の姿が目に入ったおかげで周囲の人間が傷ついた」とか言われたら嫌だなあ、と思った。まあ、唐沢俊一は村崎百郎の事件の影響を微塵も感じさせない元気そうな様子なので安心したけれど。そう思っていると、ルッキーニのコスプレをした女の子が目の前を通り過ぎていった。あれもきっとトラップに違いない（ペリーヌならヤバかった）。

　一人でよたよたと応対していると、前もって手伝いをお願いしていた「検証イベント」の主催者である猫遊軒猫八さんが到着された。本を手渡ししてくれるだけでも助かるなあ、と思っていたのだが、猫八さんが大声で呼び込みを始めたのでビックリしてしまった。「唐沢俊一に絶対聞こえているよなあ…」とハラハラしながらも、あまりの迫力に圧倒されてしまった。呼び込みのおかげで立ち寄ってくれる方もたくさんいて、中には猫八さんを検証班だと勘違いする人も何人かいらっしゃったので、「これを利用してトラップを避けることも可能なのでは？」などと卑劣なことを考えたりもした。その後、古賀さんにもお手伝いしていただいたおかげで、スムーズに応対することができたと思う。

　参加者の方には応援していただいたり「トラップ」を心配されたりした。おなじみの倉知淳さんや安岡孝一先生の同僚の方もいらっしゃった。中にはシャレのわかった人もいて、「今から唐沢さんのところに行って『こんにちは！　俺のこと知ってるよね？』と言ってこようかな」と言ったり、村崎百郎のコスプレをした人が「このまま唐沢さんのところまで行きます」と言ったりしたので、どちらも止めておきました。あと、唐沢俊一や「と学会」の同人誌を持っている人に「副読本としてどうぞ！」と勧めてみたりもした。
　「いろんな人が来てくれてありがたいなあ」と思っていると、藤倉珊氏がうちのブースまで来て、何か買うわけでもなく何か言うわけでもなくそのまま立ち去っていったので、どういうことなのかわからなくて困ってしまった。「冬コミの時も来たというんだけど…」と考えているところへ、今度は目の前を山本弘会長が通り過ぎていったので、会長の姿を見るなり吹き出してしまった。「か、会長！　山本会長が！」と笑いながら猫八さんと古賀さんに教えると、「山本会長ーっ！」と猫八さんがまたしても大きな声で呼びかけたので内心大慌て。…まあ、会長は自分のブースのことを知らずにたまたま通りかかっただけだと思うんだけど、やっぱりブースが近いと問題があるのかも。

　お昼を過ぎてヘトヘトになってきたところへ、妹が彼氏を連れてやってきた。妹の彼氏と唐沢俊一のコスプレで初対面ってどんだけ〜（動揺中）。事前に来ると聞いてなかったのでどういうことなんだろうと思っていると、「彼が『お兄さんひとりで大変じゃない？』と言ってた」ので来ることにしたとのこと。…うわー、それはありがたい話だなあ。本当に俺はいろんな人に心配をかけて…、ってあれ？　どうして彼氏は俺がコミケに出るって知ってたんだ？
「彼、おにいちゃんのブログを読んでいるから」
　もう迂闊なことを書けないよ！（手遅れ）　…ああ、これも「トラップ」なんだろうな、きっと。

　その後、プレスの取材を受けたのだが、自分の写真を撮ることになって、「トラップ」やら法的措置やら探偵やらいろいろ言われている人間としては身元を明かさない方がいいと思って、猫八さんからサングラスをお借りすることにした。…だから、もしかすると、「『唐沢俊一検証本』を両手に持った唐沢帽とサングラスを着用した怪しいスーツの男」の写真がどこかに載ることがあるのかもしれないが、俺が編集長ならボツにすると思う。ちなみに、「そちらの会社も唐沢さんの本を出してますよね」と記者の方に言ったところ、「その本に盗作はあるんですか？」とかなり驚いていた。…出版社にとって盗作はやっぱり恐いんだろうなあ。

　「検証イベント」の準備のために猫八さんと古賀さんが会場を後にすると、ブースを訪れる人も疎らになった。もともと早めに会場を立ち去る予定で、自分も暑さでダウンしかけていたので3時前に撤収する事にした。妹と彼氏に手伝ってもらってなんとか後片付けを終えてふと目を上げると、相変わらず元気に応対している唐沢俊一の姿が見えた。

例により撤収は早いので（早く打ち上げで飲みたいため）

と書いていたのは一体なんだったのか…。狐につままれた、というか、それこそ「トラップ」にかかった気分になった。でも、遅くまで残っていたということは、唐沢ウォッチャーのみなさんは唐沢俊一に突撃したりしなかったんだろうね。みなさんの礼儀正しい行動のおかげで、唐沢俊一は楽しいコミケを満喫できたようでなによりだ。

　名探偵に登場されると恐いので、一人でタクシーに乗ってビッグサイトを後にし、一路「検証イベント」の会場へと向かったのであった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）