美少年的大狂言。
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唐沢俊一の「追討」に少し触れておこう。ラッシャー木村の「追討」については藤岡真さんが詳しく書かれているが、自分が気になったのは。
ところがどうして。
その後の木村は不器用どころか、行く先々で個性を発揮し、
存在感を(自分の希望のそれだったかどうかは別に)印象づけていく。
ひょっとして、プロレスラーの生き方としては最も器用だったとさえ
言えるのではあるまいか。
そのきっかけはやはり、親日(原文ママ)に殴り込んだときの、リング上での
「こんばんは」
の挨拶だろう。あれくらいアタリマエで、かつあの場において異様な
一言はなかった。普通なら“使えないヒール”として抹殺されてしまったろう。
それが、当時の日本における新感覚ギャグの勃興にぶちあたった。
つまり、お笑いの世界が、それまでの“プロによる作られた笑い”から、
“素人のかもしだすたくまざるユーモア”にトレンドが移行していった
時代だったのだ。『欽ちゃんのドンといってみよう』や『オレたち
ひょうきん族!』などで、コメディアンたちは素人いじりに日々、
精を出していた。そのムーブメントに、木村の“こんばんは”は見事に
ハマったのである。彼もまた、あきらかな“時代の子”だったのだ。
この部分がものすごく胡散臭い。唐沢俊一のよくやる「時代にマッチしてからウケた」という論法だけど本当にそうなのか。『ひょうきん族』は「素人いじり」という感じではなかったけどなあ。同時期で言えば、むしろビートたけしが村田英雄をいじっていたのと近いのでは。『アメトーーク』の「昭和プロレス芸人」や『Kamipro』がドラゴンをずっといじっていることもからめればなあ、と思うけど、唐沢俊一は「いま・ここ」(大月隆寛風)に対する関心がウスいから無理な話だろうか。なのに『社会派くんがゆく!』みたいな時評をやっているのが不思議。基本的に80年代でストップしている人だと思うのだけど。それから相変わらずUWFを無視しているのも謎。
デニス・ホッパーの「追討」についても藤岡さんが詳しく書かれているが、個人的には『悪魔のいけにえ2』がないのが気になる。『映画秘宝』にまかせておけばいいのかな。『スピード』で一番目立っていたのはサンドラ・ブロックだと思うよ。
本題。『SPA!』1997年2月26日号で著名人がおすすめの「エロティック文学」を紹介するコーナーがあるのだが、その中で唐沢俊一も以下の三作品を紹介している。
・川端康成『雪国』
・泉鏡花『高野聖』
・ペトロニウス『サテュリコン』
で、こんなことを書いている。
ボクにとってエロティックとは、秘めやかにして隠されたもの。何でもかんでも見せまくる今の風潮にはいささかげっそり。「ぎりぎりの部分」こそ想像力豊かな人間を真のエロティシズムに誘うんです。
ラーメン屋でも劇団の人間の常の、妙に酔うと真面目な演劇論に
なってしまい、これではいかん、柔らかくせねば、と思って、
話の合間に
「セックスー!」
とかはさむ。
「だから、あそこの芝居は……セックスー!」
「セックスー! セックスー!」
……他にお客がいなかったとはいえ、よく追い出されなかった
ものである。
…人間、変われば変わるものである。というか、唐沢はセックスにまつわる話題になるととたんに童貞っぽくなるから、背伸びしていた可能性がある。ちょうどこの記事が載ったのと同時期に、唐沢俊一は知的な側面を強く押し出した企画をいくつかやっていて、宮台真司との対談や『ユリイカ』に載ったコラムはいかにも「知的」な感じであった(この対談と記事についてはいずれ紹介する予定)。「もしかしたら唐沢俊一もアカデミズム寄りに進んでいた可能性があったのかも」と考えてしまう。実際のところは結局オタク・鬼畜路線に進んだわけで、今となってはあれこれ考えても空しいだけなのかもしれない。
さて、『雪国』・『高野聖』というのはある意味優等生的なチョイスだったわけなのだが、問題は『サテュリコン』である。唐沢俊一はこのように紹介している。
この2つに比べると、当時の遊女とのセックスのヤリ方が描かれていたりして趣は違うけれど、古代ローマの風刺小説『サテュリコン』もオススメ。主人公のエンコルピオスの名はギリシア語で「抱かれる人」。どんな男女にも身をまかすエンコルピオスは、神を冒瀆し、不能の罰を受けて諸国を放浪します。稚児や男娼がわんさと出てきて美少年ファンにはたまらない話です。
…えーと、その「美少年ファン」とやらにあなたも含まれるんですか、唐沢俊一さん。
まあ、それはひとまず措いておこう。問題はもうひとつある。岩波文庫版『サテュリコン』の登場人物紹介からエンコルピオスの紹介文を引用する。
エンコルピオス―主人公で語り手でもある放浪学生。「抱かれる人」というギリシア語の意味のとおり、どんな男女にも身をまかす無節操な男。プリアポス神を冒瀆して不能の罰を受け、泥棒、詐欺、食客などでその日暮らしをしながら、司直の手から逃げまわっている。
…まんまじゃないか。ああ、この時期から唐沢俊一は唐沢俊一だったのか。人間はどれだけ時間が経っても変わらないものである。「本当に読んだのか?」というのも気になるけど、岩波文庫版『サテュリコン』を読んでいる人がこの記事を見たら一発でバレてしまうではないか。ハートが強すぎるのか想像力が欠けているのか。「あらすじと登場人物紹介にだけ目を通して本を読んだフリをする」というのは知ったかの常套手段なんだろうけど、バレたらカッコ悪いな(清水義範『主な登場人物』を思い出した)。岩波文庫を写すより、フェリーニの映画(『サテリコン』)について触れたらよかったと思うけどなあ。
「そういえば」
ふと、唐沢なをき『まんが極道』第46話「兄貴!」(4巻収録)を思い出した。この話は「ネットで話題になっているヘンなホモ漫画」を見て盛り上がっている男子生徒たちに主人公(実はゲイ)が怒るシーンから始まる。
わざわざプリントアウトして持ってきてんじゃねーよ
ゲイかおまえは
でもウケるっしょ
よく勃つよなーこれで
ぎゃははははは
エロじゃねぇよこれは!
ギャグだよギャグ
おまえこそこれで興奮できるってのかよ
ゲイかおまえ
なにぃーっ
俺はガイチュームのジョーロちゃん命!なんだよっ
ゲイじゃねえよ
じゃ だまっとけよ
ばかっ
「ガイチューム」というのは劇中に登場する女の子のアイドルユニットのこと(Perfumeがモデル)。
ちなみに、ネタとして「ホモ漫画」を見ていた男子生徒たちがその後どうなったかというと、
興味本位で見ているうちに
なんだか体の芯が熱く
あああああ
新しい世界への扉は思わぬところにあるものなんですね。
…俊一少年が研究のために買っていた『薔薇族』などの資料をなをき少年が見つけてしまったこともあったのだろうか、と想像してみたり。まあ、そもそも「兄貴!」というタイトルからして(以下自粛)。
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