わが胸のうちの蒼獣鬼。
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横山光輝『鉄人28号』16巻(潮漫画文庫)の巻末で唐沢俊一が『わが胸のうちの“操縦器”』という解説を書いているので、今回はこれを紹介する。予測が的中したのでちょっと嬉しい。
唐沢俊一はコラムの中で『鉄人28号』のルーツとなった作品として『フランケンシュタイン』『青銅の魔人』『怪電波の戦慄』『ファントム・クリープス』を挙げている(公式サイトでの『怪電波の戦慄』の紹介文と一部カブっている)のだが、こんなことを書いている。
もちろん、ポータブル操縦器でロボットを操縦する、というアイデアはこの作品(引用者註 『怪電波の戦慄』)のオリジナルではない。この映画と同年公開のアメリカの連続活劇映画(シリアル・ムービー)『ファントム・クリープス』(1939)には、怪奇役者として有名なベラ・ルゴシ演じるマッド・サイエンティスト、ゾルカ博士が腕にバンドでとりつける方式の操縦器で、坊主頭の巨大な人造人間を操縦する、という設定がある。さすがアメリカで、操縦器の大きさとデザインは日本のそれよりずっと小さくてスマートであるが、しかし、『怪電波の戦慄』が『ファントム・クリープス』よりずっと優れているのは、この操縦器を味方側が奪って、ロボットを自分たちのものにしてしまう、というそのアイデアである。ここが、この作品を私が鉄人の直系の子孫と思う理由であり、かつ、ロボットを取ったり取られたりというその面白さを日本の作品が描けるのは、敵の駒を取ったら取りっ放しのチェスではなく、敵の駒を自分の手駒として使える将棋のルールに日本人が親しんでいるせいではないだろうかとか、いろんなことを考えてしまった所以でもあった。
『アラジンと魔法のランプ』は?とすぐに思ったし、秘密兵器や宝物の争奪戦なんて欧米でもよくあるネタだけどなあ。唐沢俊一だって『B級学【マンガ編】』(海拓舎)P.170でこんなことを書いているのに。
この構成は、秘宝をねらって正邪入り乱れるという大衆冒険小説、つまりアレクサンドル・デュマの『王妃の首飾り』や林不忘の『新編・大岡政談(丹下左膳)』などのストーリーのバリエーションであり、これら大衆活劇譚の系譜に『鉄人28号』は並ぶのである。
ちなみに、GHQが「持ち駒」を理由に将棋を禁止しようとした件については「松岡正剛の千夜千冊」を参照されたい。升田幸三の反論が面白い。
…っていうか、「この作品を私が鉄人の直系の子孫と思う」って、時間関係が逆になってるよ。『怪電波の戦慄』は戦前の作品なんだから。
……これはすでにいろんな場所で書いていることなので繰り返すのも気が引けるが、子供時代の私にとり、例え夢の中でも欲しかったのが、鉄人の操縦器であった。二才のときポリオ(小児まひ)に罹病して足が不自由だった私にとり、同じ時代のヒーローであった鉄腕アトムは、いかに自分があこがれようとも、なることが出来ない存在だった。……だが、金田正太郎になら、ピストルを撃ったりこそ出来ないが、あの操縦器さえあれば、自分にも、鉄人を操縦することができるのだ。世界を手にする力が持てるのだ。レバー一本にスイッチ3つと、操縦だって大して難しそうに見えないではないか。あの、ブリキ製みたいな操縦器が欲しい。操縦器を手に入れたい。そう妄想しつつ、毎日を過していた。
やがて、雑誌で、単行本で、アニメで鉄人に声援を送っていたわれわれも、おとなになった。それどころか、気がついたら、人生の、そろそろ総まとめ的なことをしなくてはいけない年代になってきた。……いま、こうして完全復刻された鉄人を読みながら、私は自分の心に問い直している。自分は、操縦器を手に入れただろうか、それを使いこなせているだろうかと。
何より強い鉄人は、子供の目から見た大人の力のメタファーだ。そして、そのパワーを、上手に使うも、下手に使うも、全て“心”という操縦器次第なのである。ふと、何かのはずみに、自分の操縦器の扱いを間違えたとき、「まだまだ、正太郎くんには及ばないな」と思い、そっと苦笑したりするのである。
いろいろと考えさせられる文章である。まず気付くのが、文章の前半と後半で「操縦器」の意味が変わっていること。唐沢少年は「心」を欲しがったわけじゃないのだろうに。そこらへんどうも雑である。…まあ、ひとつ言えるのは「自分の操縦器の扱い」を間違えすぎ、ということだろうか。「漫棚通信」さんからの質問から逃げた時も「まだまだ、正太郎くんには及ばないな」と苦笑していたのだろうか。…実情を多少知っている人間から見ればいかにもきれいごとめいて見えてしまう。
それから、「アトムになれないから正太郎くんになりたい」という発想が、個人的にはとても悲しいものだと思われて仕方ない。できることなら唐沢少年に「君もアトムになれるよ!」と言ってあげたかった。…もしかすると、唐沢俊一が手塚治虫を嫌う理由もその辺りにあるのかなあ。
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