唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

怪獣サンバイザー。

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・初めての方は「唐沢俊一まとめwiki」「唐沢俊一P&G博覧会」をごらんになることをおすすめします。


 モザえもんさんに心配されたので説明しておくと、現時点で自分に関しては心配されるような事態にはなっていませんのでご安心を。ついでに書いておくと、春先から初夏にかけてブログの更新頻度を落とす予定です。『本を捨てる!』の検証をやってからしばらく休みに入ろうかと思っています。…しかし、あの本、本当に出るの?


 では本題。今回は唐沢俊一編著『なぜわれわれは怪獣に官能を感じるのか』(河出書房新社)より、唐沢俊一による「まえがき」を紹介する。
 「まえがき」で唐沢俊一は怪獣映画のファンは「怪獣三倍段」と呼ばれ、オタクの中でもとりわけ「濃い」存在とされてきた、と書いている。…自分は「怪獣三倍段」ではなく「特撮三倍段」という言葉を聞いていたので若干違和感があるが、まあ、意味はそんなに違わないか。

P.9より。

 オタクというものも昨今はだいぶ世間に認知され、ひところのように危険視はされなくなってきたし、女性にももてはじめてきたけれど、やはり怪獣オタクだけはやや、世間の白眼視にいまだにさらされ続けている。三〇、四〇という年齢で漫画を読んだりゲームをしたりするのは普通でも、怪獣映画を観にいく、と宣言すると、サッと職場などの集まりで人が引いて、洗い水の中に洗剤を落としたかのように自分の周りに無人の空間が現出する。
 結果、怪獣オタクは怪獣オタク同士で寄り集まることになり、怪獣オタクの女性を見つけ、怪獣オタクの遺伝子を父母から合わせて譲り受けた子供を産む。怪獣の血はどんどん濃くなるのである。

 …そうかなあ。漫画やゲームでもモノによっては宣言することによって「無人の空間が現出する」ことがあるのではないか。だいたいわざわざ「怪獣映画を観にいく、と宣言する」か? オタクの中でも怪獣オタクだけがことさら差別されているというのは疑問である。

 
 続いて、怪獣オタクが濃くなる理由が説明されている。P.9〜P.10より。

 ひとつには、アニメやマンガと異なり、怪獣映画というのが“滅びた文化”だからである、ということが言えるだろう。リアルタイムでどんどん新作に触れられるアニメなどとは違い、過去の作品を追いもとめていくものだからだ。
 こういうと、
「いや、怪獣映画は滅びてはいない。ゴジラシリーズはいまだに作り続けられているし、平成のガメラシリーズだってあるではないか」
 とおっしゃる方がいるかと思うが、濃いマニアたちに言わせれば、リメイクされて以降のゴジラシリーズなどは怪獣モノと呼べる代物ではないし、平成のガメラシリーズなどは、単なるオタク映画であって怪獣映画などではない、ということになるんである。
 そう、彼らが理想とし、全人格をのめりこませ、人生をそれにつぎ込みきっているのは、“(主として)一九六〇〜一九七〇年代の怪獣映画”なのである。CGなどという軟弱なものを使わない、エコロジーだのガイア理論だのといった言い訳をストーリィに持ち込まない、科学と自然の神秘に対する素朴な信仰のある、あの古き良き時代の怪獣映画に、ハマっているのである。

 …自分はサークルなどに所属せずにひとりで怪獣映画を観てきたので「濃いマニア」がそういう考え方をしているとは知らなかった。『ギララの逆襲』にかけつけて昔の怪獣映画をほめたたえる唐沢俊一などは典型的な「濃いマニア」なわけだ(詳しくは2009年12月13日の記事を参照)。「リメイクされて以降のゴジラシリーズ」ということは、1984年版以降は怪獣映画ではないということか。かなりハードルが高い。
 しかし、CGが「軟弱」というのは単なる唐沢俊一の印象にすぎないし(『アバター』は超軟派な映画なんだろうか)、エコロジーやガイア理論が持ち出されるのは、「素朴な信仰」だけでは今の観客を納得させられないからだろう。昔の怪獣映画だってそれなりの「言い訳」はあっただろうに、最近の怪獣映画の「言い訳」だけを否定するのはおかしい。
 前にも書いたことがあるが、ここで唐沢俊一の書いていることは、最近の怪獣ものをチェックしていないことを正当化する理屈でしかないと思う。「怪獣オタク」なら怪獣が出てくるテレビ番組や映画ならなんでもチェックしなくては気がすまないのではないだろうか。


P.10より。

 なにしろ、今から四〇年近く(ものによってはそれ以上)前の映画である。それにハマりこむには、かなりの“思い込み”が必要である。身長五〇メートル体重二万トンの怪獣が、自重でつぶれもせずにノシ歩き、最新鋭ミサイルにもビクともせず、数千度の白熱光を口から吐く、という設定を、まず容認しなければならないんである。マブチモーターでカタカタ動く戦車を、本物と思わないといけないんである。怪獣のぬいぐるみの喉元ののぞき穴や、背中にときどき見えるチャックの線などは、ないものだ、と思いこまないといけないんである。それらを越えて、巨大怪獣と人類の対決というテーマに燃えるのが、怪獣オタクなのだ。これは濃くならない方がおかしいんである。

 …「濃いマニア」のみなさんはそんな苦労をしていたのか、と思ってしまう。個人的な話をすると、自分はいつ怪獣を好きになったのか覚えていない。物心がついたときには既に好きだったのだから思い込むまでもなかったのだ(むしろ刷り込みに近い)。それ以来ずっと怪獣が好きで、非現実的な設定もミニチュアや着ぐるみのチャチさも全然気にせず、「そういうものなのだ」と深く考えずに観ていた。『ファミリー劇場』で『行け!ゴッドマン』を初めて観た時も全然余裕だったっけ(30分ぶっ通しで観ていると脳内麻薬が出てくるけど)。
 ここで唐沢俊一をフォローしてみると、怪獣映画に対していっぺん冷めてしまった後で再度ハマるためには思い込みが必要だ、という話をしているのだとしたら一応理解は出来る。島本和彦アオイホノオ』(小学館)1巻に収録されている島本先生と庵野秀明の対談の中でも「特撮やヒーロー物も、小学校から中学になったときにやめていくね」(by庵野)という話が出てくる。

島本(前略)だから、『仮面ライダー』も『V3』で一回終わって、『X』とか『アマゾン』もスルーしてて、『ストロンガー』で、どうやら終わるらしいよって話になって、歴代ライダーが登場するんだったら見なくちゃいけないなって、戻ってきちゃったのね。


庵野 まんまと。やっぱり『X』あたりからだんだん見なくなってくるんだよね。友達と一緒に卒業していく。


島本 卒業というか、つまらなくなったんじゃない。


庵野 大きくなると、高校生にはもうつらいとかね。『ウルトラマン』も、『エース』までは頑張れる。


島本 『エース』は……。


庵野 ギリギリ。


島本 ギリギリだよね。


庵野 『タロウ』は当時見なかった。続けて『レオ』ももう見なかった。『(秘密戦隊)ゴレンジャー』も、途中でコメディ路線にいって。あの路線変更には当時は怒ってたね。許せなかった。だから、なんでまじめにやらないんだと。でも大学生の時の再放送で。


島本 再放送でね。


庵野 僕が間違ってたと思いました。この面白さがわからない未熟者でしたと。『タロウ』や『ゴレンジャー』は大学生の頃に再評価して。あれで戦隊にハマっていったんですね。(後略)

 多少大人になって余裕を持って見てみると中高生の頃にはわからなかった面白さが理解できるようになる、ということなのかもしれない。ウルトラマンが餅つきをする話は生意気盛りの男の子にはツラいかもなあ(そういえば自分も中学や高校のときは特撮をあまり見ていなかった)。
 
 
 話が若干ズレたので元に戻すと、唐沢俊一は非現実的な設定や着ぐるみのチャチさを越えるほどの「思い込み」があるから怪獣オタクは他のオタクよりも濃いのだ、という話をしているわけだが、これには納得できない。それを言うなら、他のオタクにだって「思い込み」はあるだろう。マンガやゲームに出てくる女の子(いわゆる非実在青少年ってやつ?)に萌えて「俺の嫁」と呼ぶのだって「思い込み」がなければ出来るはずがない。だから、「思い込み」があるから怪獣オタクは濃い、という説明では不十分である。


 怪獣オタクが他のオタクより濃い理由を自分なりに考えてみると、マンガやアニメやゲームといった他のジャンルと比べて怪獣映画の作品数が少ないからではないだろうか(岡田斗司夫も『オタク座談会』で似たような話をしていた)。たとえば、今までに日本で作られた全てのアニメを見ようとしても、作品数が多すぎてほとんど不可能だ。そもそも2010年1月期に放送されているアニメ番組を全部チェックすることからしてかなり難しいのだ。それに比べると、今までに日本で作られた全ての怪獣映画を見るのは、困難であることに変わりはないが、それでも「やればできるんじゃないか?」とは思える(テレビ番組まで入れると相当難易度が上がってしまうけれど)。『ゴジラ』シリーズと『ガメラ』シリーズをおさえるくらいならそんなに難しくないし(『男はつらいよ』を全部見るよりも簡単)、作品数が少ないおかげで同じ作品を何度も観ることになって、必然的にディープな見方をするようになるのではないか?というわけである。スタッフのテロップを見て「よし!」と言うみたいな。


 「まえがき」については以上。本論については次回以降で取り上げるが、これがちょっと困った内容なんだよね…。


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なぜわれわれは怪獣に官能を感じるのか

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封印―史上最強のオタク座談会

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