燃えよデブ専。
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今日21時からフジテレビ系列で『トリビアの泉』2時間スペシャルが放送されます。一応お知らせ。
今回は『熱写ボーイ』4月号掲載の唐沢俊一『世界ヘンタイ人列伝』第13回「めくるめく“肉欲”の世界」を取り上げる。ちなみに、今回の『世界ヘンタイ人列伝』では、ロミ『でぶ大全』(作品社)と早川智『源頼朝の歯周病』(診断と治療社)が初めて参考文献として挙げられている。これはいいことだ。では本文を紹介していく。
不景気の極みみたいなこのご時世にあっても、ダイエット食品やダイエット法の本は順調な売れ行きを示しているらしい。やはり女性たちにとり、スリムな体型というのは永遠のあこがれなのだろう。ダイエットを希求するあまりの拒食症などもその例にことかかず“痩せたい”症候群は世代や国籍を問わず、いや性別すら問わず多くの人々に蔓延しているようである。
しかし、この後で唐沢俊一は「かつては豊満な女性が美しいとされていた」ということを書いているのだから、「スリムな体型というのは永遠のあこがれ」というのは少しヘンだ。
続いて、ルーベンスが太った女性の絵を好んで描いた、という話になり、ルーベンスの代表作「三美神」の話題となる。
この絵はギリシア神話の日本人から見るとエロというよりグロに見えるのではないか、というくらい、女性のセルライト(皮下脂肪)が克明に描かれている。
「ギリシア神話の日本人」ってなんなんだ。『聖闘士星矢』か? そんなこと言われてもペガサス幻想で永遠ブルーですよ。
ところで、なぜこの時代に豊満な女性が美とされたのか、というと、それは当時の女性の主たる役割が、子供を産むということであったからに他ならない。特に王家や貴族の家では、世継ぎをもうけるということが、嫁いだ女性の最も重要な役割であった。いくら外見がスマートで美しくても、ガリガリの女性では子供を安全に産むことが出来ない。
個人的な話をしてしまうと、自分の母親は若いときかなりほっそりとしていたのだが、それでも自分を含めて子供を4人無事に産んでいるので、「そうなのかなあ」と思ってしまう。…まあ、昔に比べると医療が発達していることも考慮すべきなのかもしれないが(もちろん現在でも出産に危険が伴うことを忘れてはならない)。それから、今回のコラムの後半では、フランスのアンリ4世の話になるのだが、もし本当にかつて豊満な女性が美しいとされていたのなら、アンリ4世が再婚相手であるマリー・ド・メディシスが予想と違って太っていたのでガッカリしてしまった、という話は成り立たなくなるのではないだろうか。
で、アンリ4世の話である。
後にルーベンスとは深い関係の出来るフランス王アンリ四世は、長いこと正妻であるマルグリッド・ド・ヴァロアと別居して、愛人たちと浮き名を流していたが、数多い愛人たちの中でも際立って寵愛を受けていた女性にガブリエル・デストレがいた。知的で聡明このうえなかった彼女は、アンリの政治や外交などにも助言を与え、その信頼は他の女性とはくらべものにならなかった。肖像画を見ると彼女はスマートなインテリ美女、という感じであるが、彼女は痩せていることで、アンリの父親などに評判がよくなかった。
「マルグリッド・ド・ヴァロア」は“Marguerite de Valois”なので「マルグリット」と書くべきだろう。それから、アンリ4世の父アントワーヌは1562年に死んでいるので、1571年に生まれたガブリエルのことを知っているはずがない。
そうこうしているうちに、アンリはマルグリッドと離婚して再婚する、という噂が流れる。自分こそアンリの妻にふさわしい、と思っているガブリエルにはこれが腹が立ってたまらない。アンリの子供を作るのは自分よ、とばかりに、5年の間に4人の子供を立て続けに作ったが、痩せた彼女の体格ではこの連続出産は無理があったとみえ、4人目の子供を死産して、自分も命を失ってしまう。
アンリはマルグリットと離婚してガブリエルと結婚しようとしていたらしい。それに、アンリがマルグリットと離婚したのは1599年で、ガブリエルが最初の子供を産んでいるのは1594年である。5年の間に4人の子供を生んだというのは、アンリとガブリエルの親密さを証明しているのではないだろうか。ちなみに、ガブリエルがアンリとの結婚直前に亡くなったことから、彼女は何者かに毒殺されたのではないか?とする説もある。
ガブリエルの死後、アンリ4世はマリー・ド・メディシスと再婚する。
しかし、アンリはこのマリーを大変気に入ったようである。いや、マリー自身は浪費癖があったり身内贔屓が過ぎたりして、かなり困った女であったが、痩せっぽちの女ばかり相手にしていたアンリ四世にとり、デブ女とのセックスは、かなりのコペルニクス的転換というか、その味に目覚めてしまったようだった。
正しくは「コペルニクス的転回」。
続いて、参考文献として挙げられている『でぶ大全』から文章が引用されているのだが、ところどころ不正確なので気になってしまう。ちゃんと引用できないのかな。
その後、ガブリエル・デストレがアンリ4世の気を引くために太ろうとした説もあると書いた後でアンリ4世の別の愛人であるカトリーヌ・アンリエット・バルザック・ダントラーグの話になる。
また、カトリーヌ・アンリエットもまた、体重を増やすことで、アンリが夢中になっている王妃マリーに対抗しようとし、やはり妊娠中毒を引き起こして、彼女自身は助かったが、王を脅迫するネタになるべき子供は死産になっている(生れたとたんに雷に打たれたという伝説もあるが、まあ妊娠中毒だろう)。
カトリーヌ・アンリエットはアンリ4世の子供を2人産んでいるので、唐沢の文章はどうもヘンである。色男として知られ何十人もの愛人がいたというアンリ4世を子供がひとりできたくらいで脅迫できるものなのだろうか?
いろいろ調べてみると、実際のところは次のような話だったようだ。アンリとマリーの再婚話が進んでいる間に、アンリはカトリーヌ・アンリエットに惚れ込んでしまい、妊娠した彼女と結婚の約束までしてしまった。しかし、カトリーヌ・アンリエットが子供を死産してしまったため、彼女は王妃となることを諦めた、ということらしい。ただし、その後もアンリとカトリーヌ・アンリエットは関係し続け、2人の子供をもうけたわけである。
なお、アンリ4世とマリー・ド・メディシスが不仲であったとする説も有力で、ギー・ブルドン『フランスの歴史をつくった女たち』(中央公論社)ではアンリがマリーを嫌っていた理由のひとつとして「肥満」が挙がっていて、こうなると唐沢の文章とは真逆になってしまう。
ともあれ、一人生き残ったデブのマリーはアンリ四世暗殺後も生き延びて、かのデブ好きルーベンスに肖像画を描かせている。彼がここぞとばかりに彼女を太めに描いたのは言うまでもない。現在、それらの絵はルーブル美術館に展示され、観る者に暑苦しさを感じさせているのである。
「一人生き残った」も何もカトリーヌ・アンリエットだって死んでいない。アンリ4世は1610年に暗殺されているが、カトリーヌ・アンリエットは1633年まで生きていたのだ(マリーは1642年に亡くなっている)。自分で「彼女自身は助かった」と書いたのを忘れているのか。
それと、ルーブル美術館にあるルーベンスの絵は『マリー・ド・メディシスの生涯』という合計24枚にも及ぶ大作である(メルシーパリネットを参照)。確かに一部は肖像画なのだが、正確さに欠ける記述である。
…うーん、他に「デブ専」の偉人がいればそれも取り上げてみればよかったと思うけどなあ。調査の甘さが目に付いた。余談だが、この件を調べるためにフランス王家のスキャンダルについて調べていたら「ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエール」とか「モンモランシー」とか出てきて噴いてしまった(アレのモトネタになっているのは有名な話だけど)。
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