唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

タナトスの塔からずっと。

「ここから抜け出す方法があるはずだ」とペテン師が泥棒に言った。


 額田久徳さん前回の記事を論評していただきました。どうもありがとうございます。以前から唐沢俊一の使い回しの多さは話題になっていたようなんですけどね。


 『ラジオライフ』1月号から唐沢俊一のコラムが唐沢俊一のトンデモ都市伝説探偵団』としてリニューアルされた。「全国各地の都市伝説について研究する」ことをテーマにしたコラムとのこと。前号までの『唐沢俊一古今東西トンデモ事件簿』との違いをチェックしてみる。

(1)モノクロ4ページからカラー2ページへと変更
 グレードが上がったのか下がったのか。実は「『ラジオライフ』の連載が終わるらしい」という情報を聞いていたので続いていること自体が素晴らしいのかもしれない。

(2)文章のスタイルの変更
 『トンデモ都市伝説探偵団』は「カラサワ探偵長」と「少年探偵すばる」の掛け合いで進んでいく形式になっている。かつて、『週刊プレイボーイ』などでおぐりゆかとやっていたのと同じ形式だ(なお、おぐりゆかの連載も今号からリニューアルされている)。掛け合いにしたことで文章が読みやすくなった反面、内容が薄くなってしまったのが気にかかるところではある。軽妙な掛け合い(ということにしておく)の合間合間に挟まれるギャグのレベルを見ていると、『オールド・フランケンシュタイン』を観に行く気が確実に無くなっていくのもツラいところだ(本当にアレな感じなのであえてギャグは書かないでおく)。
 「少年探偵すばる」に扮するのは佐藤歩唐沢俊一「裏モノ日記」11月10日で次のように書いている。

撮影終ってT木さんと別れ、新宿のアカシアで食事しながら
雑談いろいろ。第一回なので気を張っていて疲れたが、
まずは歩の少年探偵、ラジオライフのオタ読者には絶対ウケる、
という自信が持てた。T木くんもそれは太鼓判でありました。

「T木」というのは担当編集者の続木順平さんのこと。「女の子を出せばウケる」という発想が安直だが、実際のところ佐藤歩は悪くないので、唐沢と続木さんの狙いは当たっていると言える。できれば佐藤歩単独で連載してほしいくらいだ。なお、『トンデモ都市伝説探偵団』のイラストは『古今東西トンデモ事件簿』に引き続きよもやまはなこ画伯が担当しているが、今回のイラストは「少年探偵すばるの足にすがりつくゾンビと化した唐沢俊一だった。…深読みしちゃいけない!

 さあ、ページ数を減らして、編集者が取材に付き合い、女の子が参加し、文章の形式も変わった。これで状況が改善されたのかを確かめるため「伝説その1 東京タワーはオカルトの宝庫だった!!」を見ていこう。


 まず、最初にカラサワ探偵長は江戸川乱歩『電人M』を取り上げる。『電人M』には「タコ入道のような宇宙人」が東京タワーにからみつくシーンがあるというのだ。以下「カラサワ探偵長」のセリフは赤、「少年探偵すばる」のセリフは青で表記する。

とはいえ、この『電人M』が発表されたのが1960(昭和35)年。8月には宇宙犬を乗せたソ連人工衛星スプートニク5号が初めて生物を地球に生還させた。宇宙時代の幕開けだったのだな。東京タワーという名前は全国公募で決まったのだが、候補の中には『宇宙塔』てのもあったくらいだ。その宇宙塔に宇宙人を絡みつかせるという世情の先取りぶりは、さすがは乱歩ですよ

 世界初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられたのは1957年10月4日。この成功が全世界に衝撃を与えた(スプートニク・ショック)からこそ、「宇宙塔」という名前が候補に挙がったのだろう(東京タワーの完成は1958年12月23日)。…なのに、どうして1960年を「宇宙時代の幕開け」とするんだろう。遅らせてどうするのか。

 続いて「少年探偵すばる」の報告。

(前略)ともかく、近辺を調べてきました。あそこ、周囲にもいろんなものがあるんですね。南極犬の慰霊碑なんて、東京タワーにどういう関係があるんですか?


東京タワーの公式サイトには“当時開業したばかりで話題の場所だった”から、と説明してあるぞ。


えーっ、それだけですかー?(後略)

 「南極観測ではたらいたカラフト犬」を「南極犬」と略するのはどうなんだろう。あと、カラフト犬の記念像とハチ公の像を作った人が同じこと(安藤士)に触れてないのは「雑学王」としてはどうなのか。
 …さて、実は今回のコラムにはモトネタが存在する。中沢新一『アースダイバー』(講談社)に収録されているタナトスの塔」である。「タナトスの塔」でもカラフト犬について触れられているので引用してみよう。『アースダイバー』P.91〜92より。

 東京タワーにたどり着くためには、どの方角からめざしても、大なり小なりの墓地のそばを通り抜けていかなければならない。いちばん立派な増上寺わきの道を取るとすると、左手には延々と続く石のお地蔵さまをながめ、右手には大きな墓地をつぶして建てられたというホテルを見上げながら、しばらく歩いていくと、鉄塔の足許にたどり着く。そこには、ぼくたちが少年時代に涙をしぼった経験のある、南極観測隊に置き去りにされてしまったかわいそうなカラフト犬たちの、愛らしい像が建っている。
 カラフト犬置き去りという、この悲しい出来事がおこったとき、全国の子供たちは科学者と役人の下した非情の決定に、はげしい抗議をたたきつけたものである(ぼく自身どこに対してだったかは忘れたが、強い口調の抗議の手紙を送ったおぼえがある)。その子供たちの怒りを鎮めるために、修学旅行のメッカであった東京タワーの足許に、こうして鎮魂のための像が建てられたのであろう。水子地蔵の行列といいこのカラフト犬の鎮魂碑といい、こうした荒御霊を鎮魂するための手の込んださまざまな施設をながめていると、よくよく東京タワーは日本人の宗教思考に取り憑かれてきたテレビ塔なのだなあ、と感慨をあらたにする。

 …中沢新一という人にはいろいろ問題もあるのだろうけど、「東京タワーはオカルトの宝庫だった!!」というお題なのに「慰霊碑」をスルーしちゃっている唐沢俊一とはだいぶ役者が違うという感じだ。

 この後、東京タワーのすぐ近くにある日本グランドロッジ(フリーメイソンの本部)をネタにするのだが、まあ、これは定番のネタである。今年の「トンデモ本大賞」でも皆神龍太郎がやっていたっけ。
 
 そして、カラサワ探偵長のトーク

しかし、東京タワー周辺には怪しげな建物や歴史建築物が奇妙に多いのも事実なんだ。やはりこの場所は霊的パワーのボトルネック(通り道)になっている。(後略)

goo辞書

ボトル-ネック 4 [bottleneck]
〔瓶の首の意〕生産活動や文化活動などで、全体の円滑な進行・発展の妨げとなるような要素。隘路(あいろ)。障害。ネック。

 だから、何らかの事情があって「霊的パワー」が東京タワー周辺に溜まっているというのなら「ボトルネック」なんだろうけど、単なる「通り道」という意味で「ボトルネック」って使うかなあ?

 続いて、いきなり唐沢俊一の地の文章になる。今まで掛け合いで話が進んでいたのでビックリしてしまう。文体はなるべく統一させたほうがいいと思うよ。

 東京タワーの立つ芝大門の近くに、4〜5世紀頃の建造といわれる芝丸山古墳がある。この地は当時海に面しており、縄文人突堤のようなこの芝の地を、霊の通り道と考え、そこに古墳を造り霊と“交信”していた。丸山古墳はいわば当時の放送局であり、霊波の受信・発信地だった。現在、そこに電波塔である東京タワーが建っているのも縁のないことではない。

 ちょっと待ってほしい。縄文人」が「古墳」を造ったって?  「縄文時代」というのは1万3000年前から紀元前4世紀までの時代のこと。「古墳」が造られたのは主に4世紀から7世紀にかけてのことで、その時代は「古墳時代」と呼ばれている。芝丸山古墳が造られた年代も「古墳時代」に該当しているわけだ。だから、縄文人が古墳を造れるわけがないし、唐沢俊一は全く別の時代をゴッチャにしてしまっているのだ。…っていうか、弥生時代は無かったことにされているんだけど。…なんで51歳の人に小学校高学年レベルの常識を教えなくちゃいけないんだろう(続木さんもチェックしようよ)。学習塾でバイトしていたことのある自分でもヘコたれる。
 それから、この部分は『アースダイバー』をモトネタにしている。P.97〜98より。

 今日の発達した地質学と考古学の成果から見えてくるのは、いま東京タワーが建てられている場所が、海原に突き出した大きな半島だったという、意外な光景である。
(中略)
 芝の半島は、東京の中でも有数な「ミサキ」だった。そのためここには縄文時代以来、死者の埋葬にかかわる重要な聖地が設けられてきた。時代が下っても、そのあたりが死霊の世界とのコンタクト地帯であるという感覚は失われなかったから、豪族たちもきそって大きな古墳を、芝の高台につくった。そこからならば大海原は一望のもとであり、死霊の棲む空間と考えられた海の彼方に向かって、手を差し伸べられることさえできそうだ。
(中略)
しかし時代は変わっても、人々はあいかわらずこの土地に、超越的領域に向かって立てられた敏感な「サッ」のアンテナ機能を感じとってきたらしいのである。
 その極め付きが、東京タワーなのである。(後略)

 唐沢と違って中沢新一の文章には説得力があるから、東京タワーが現在の場所に建てられた理由もちゃんと説明しておかなくては。「知識の宝庫!目がテン!ライブラリー」より。

なぜ、東京タワーは東京・芝公園に建っているのでしょうか?実は、東京タワーが建つ候補地には、上野公園も挙げられていたというのです。
 芝公園が選ばれた理由は、地下の地盤に隠されていました。実は、東京タワーの重さは3600トン。東京タワーを建てるためには、その地下が固い地盤でないと、その重さで沈んでしまうそうなのです。
 実は、東京の地下には、大昔、古多摩川によって流された礫が積もった東京礫層(れきそう)という固い地層が分布しています。しかしその地層は、東京の西側の方が浅く、東側の方が深い所に分布しているのです。調べてみると、上野公園辺りでは地下30m程度の所にあり、芝公園では地下20mの所に分布していました。そのため、技術的にも費用的にも条件の良い、芝公園に東京タワーが建てられることになったのです。

 わかってみれば簡単なことだね。オカルトチックなこじつけをするまでもない。

 よき霊を集める場所は、また同時に悪しき霊をも集める。東京タワー直下にある増上寺菩提寺とした徳川家康は、そこに眠ることで悪霊が江戸に攻め寄ることを防ごうとしたが、逆に徳川を祟るパワーをも引き寄せることになる。それが、1680(延宝8)年に執り行った四代将軍徳川家綱の葬儀(家康の直系はこの家綱で絶える)である。

 徳川家康の霊廟は日光東照宮にある。これも小学校高学年レベルの知識。そして、将軍家の継承が直系でなくなったことがそんなに重大なのだろうか。家綱の弟である綱吉が5代将軍になっているわけなのだが。

その席上で警備を命じられた鳥羽藩の城主、内藤忠勝が同僚の永井尚長に対し怨恨を理由に刃傷に及ぶという、幕藩体制を揺るがす事件が起こる。幕府は忠勝を即刻切腹させ事態の収集(原文ママ)を図るが、その21年後、1701(元禄14)年に、この事件のコピーのような、不気味なまでにそっくりの(原文ママ)事件が今度は江戸城内で起こったのだ。この時の犯人は浅野内匠頭増上寺刃傷事件の犯人、内藤忠勝の甥にあたる人物だった…。

 「鳥羽藩の城主」じゃなくて「鳥羽藩の藩主」だろうなあ。あと事態をコレクションしてどうする。細かい間違いはともかくとして。
 これにはあきれた。仮にも「と学会」のメンバーがこんなことを書くのかと。だって、増上寺刃傷事件と松の廊下の刃傷に関係があるとすれば、加害者に血縁関係があるという点だけである。内藤忠勝が増上寺周辺にあるという「徳川を祟るパワー」のせいで刃傷に及んだとしても、それと浅野内匠頭にどんな関係があるというのか。どうせこじつけをやるなら、吉良上野介が内匠頭に増上寺の畳替えについて教えなかったことで確執が深まった話でもすればよかったのに(ただし畳替えの件は創作のようだ)。さらに言うなら、「徳川に祟るパワー」の割りには徳川家にダメージを与えていない。内藤家と浅野家は取り潰しになり、永井尚長と吉良上野介は死んだけれど、見当違いの人間ばかり巻き込まれている。ついでに書いておくと、1684年に老中堀田正俊江戸城内で稲葉正休に刺殺されていて、こっちの方がよっぽど「幕藩体制を揺るがす事件」だったと思うが、これには増上寺や「徳川に祟るパワー」は関係しているのか? 
 いずれにしても、「と学会」のメンバーがどこかの霊感商法みたいな理屈を書くのはやめてほしいところだ。こじつけのテクニックの無さも絶望的だ。


 再びカラサワ単低調…、いやカラサワ探偵長と少年探偵すばるの掛け合いに戻る。

(前略)宗教学者中沢新一によれば、東京タワー周辺には奇妙なほど“死の匂い”が漂っているという。宗教の別なく、という感じでな。


フリーメイソンの本部があるのもそのせいですかね。


東京タワーは何故か凄まじい急ピッチで建造されたんだ。それは何としても1958年、昭和33年のうちに完成したかった(実際12月に完成した)からだという。33はフリーメイソンの階級の数だから、という話もある。

 カラサワ探偵長が中沢新一の名前を出してくれたおかげで『アースダイバー』がモトネタだとわかったわけだ。しかし、この理屈はよくわからない。どうしてフリーメイソンが西暦でなく日本の元号にこだわるのか。それに前の方ではフリーメイソンがボランティア活動をしていると書いているのに、どうして陰謀論めいたことを書くのか。

 最後は、昭和33年に完成した東京タワーは昭和33年生まれの人間に毒電波を発信してオタクにして日本を堕落させようとしたのではないか、というオチになっている。…唐沢俊一岡田斗司夫はともかく、他の昭和33年生まれのみなさんに謝ってほしい。
 ついでに、唐沢俊一に残念なお知らせを書いておくと、唐沢は中沢新一にオタクとしても負けている。タナトスの塔」では『ゴジラ』や『モスラ』を例に出して東京が怪獣に襲われる理由を考察しているのである。唐沢もケムール人くらいネタにすればよかったのに。まあ、「タナトスの塔」で「『トリビアの泉』で「東京タワーは戦車で作られた」と紹介されて…」という風に書かれていたので笑ってしまったんだけど。


 …御覧の通り、リニューアル第1回からこの惨状である。『ラジオライフ』は唐沢のコラムの質を上げるために最大限の努力をしたようだが、それも実を結ばなかったと考えざるを得ない。「世界の三面記事・オモロイド」からの盗用が発覚しても唐沢を守った限りない優しさを持つ『ラジオライフ』のことだから、それでも我慢し続けるんだろうけどね。がんばってください。

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※追記 別の通りすがりさんのご指摘に基づき訂正しておきました。

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