唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

実写化めっちゃか。

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 『日本オタク大賞2004』(扶桑社)P.214〜215で唐沢俊一がアニメの実写化について次のような発言をしていた。

朝日新聞で、この間「実写化をいろいろと、なにか反対派として話してください」って話を受けまして、最初は反対派が何人かいるはずだったんだけども、「唐沢さんの意見で全部出ましたから、反対派は唐沢さんに代表してもらいます」って言われまして(笑)

庵野(引用者註 秀明)監督と俺が何かケンカしているみたいな感じの記事になってしまって。

 気になったので元の記事を調べてみたところ、朝日新聞」2003年10月21日朝刊32面「懐かしアニメ 続々映画に」という記事のことであった(担当は石飛徳樹記者)。『忍者ハットリくん』『鉄人28号』『キューティーハニー』『新造人間キャシャーン』などの映画化を受けての記事である。

(前略)原作の設定を用いて大人の鑑賞に堪える面白さ、深さを追求する。そんな作品に、一般的な期待は高まっているが、熱烈なファンの中には不満を持つ人も少なくない。
 「60、70年代のアニメが今も輝いているのは、あの時代のにおいと結びついているから。それなのに、なぜ現代性を織り込んだりして独自色を出そうとするのか」と、不満派の一人、評論家の唐沢俊一さんは憤慨する。
 「心の内面を描けば質の高い作品になるかもしれないが、ヒーローものの本道から外れる。それならオリジナル作品を撮ればいい。実写版の監督に言いたいのは、ヒーローは自分だけのものじゃないということ。彼らの作家性を満足させるためにヒーローの知名度を使う権利など誰にもない」

 こうした反発に対し、庵野監督は「気持ちはよく分かる。原作の雰囲気は壊さないように心がけた。ただ、僕が実写映画を撮るのは、頭の中のイメージと全く異なる作品になるのが面白いから。自分のイメージを再現したいならアニメを作ってる。オリジナルとも、別物とも言えない。そんな作品になれば……」。
 いずれにせよ、どんな鉄人が、どんなハニーが生まれるのか、不満を漏らす人たちも完成を待ち望んでいる。唐沢さんは「若い部下とカラオケに行って、嫌がられながらも昔のアニメソングを絶唱する。そんなオヤジたちを失望させない作品にしてほしい」。……実に難しい注文である。

 これ以外にも、唐沢俊一は『日本オタク大賞2004』でアニメの実写化を否定する発言をしている。P.213。

やっぱりね。どんなに出来がよくても、俺はこういうのは反対。だったらオリジナルでやれよってね。リメイクって時点でもう負けじゃんという形になっているしね。

P.216。

たぶん出来はいいと思いますけれども、やっぱりそれは‘60年代、‘70年代のファンをバカにした行為のひとつに変わりないというふうには思うな。

『鉄人〜』は主人公の正太郎君が可愛くない。それだけ。

 こども店長ならよかったのかと。ともかく、実写化・リメイクにとことん否定的である。まあ、最近のアニメやマンガの実写映画について批判する声が多いことは確かだろう。『映画秘宝』の人気連載『バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画縛り首』でも毎回のようにメチャクチャにやっつけられている(アミーゴスの一員である柳下毅一郎さんの『僕の初恋をキミに捧ぐ』評を読んだら笑いが止まらなくなってしまった)。だから、唐沢俊一の言い分もわからないではない。
 ただ、唐沢の批判にはいくつか気になるところがあるので指摘しておく。第一にオリジナルを尊重していればいいのか?ということだ。リメイク・実写化された場合に「オリジナルを改変しているが作品としては優れている」ことも有り得るのであって、そういった作品も否定してしまうことになりかねない。また、古い作品を実写化する場合には現在の視点から考えると不適当なところがあるためにやむを得ず改変する場合もあるわけで、何が何でもオリジナルに忠実であるべきと言いきれるのかどうか。
 第二に、監督だけでなく製作者も批判すべきだろう。名作アニメの実写化が相次いでいるのは、「ネームバリューのある作品を実写化すれば観客が来るだろう」という計算のもとに作られているのだと思う。まあ、「映画は監督のもの」と考えるか「映画はプロデューサーのもの」と考えるかの違いなのだろうけど。
 第三に、「ヒーローもの」では「心の内面」が描かれていないかのような書き方はひっかかる。オリジナルの『キャシャーン』などはかなり「心の内面」を描いているように思うけど。

 また、「裏モノ日記」2003年9月8日にはこのようにある。

「どんどん6、70年代のアニメが実写化されて、カラサワさんみたいな人にとってはうれしいでしょう」
 などと言われるが、何を言ってるんだ、という感じ。私があの時代の作品を愛しているのはあの時代の雰囲気、あの時代の匂いをひっくるめてのことであって、そこをすっぽり剥落させて、金だけをヤタケタにかけて映像化したところで、出来たものは所詮、抜け殻でしかない。正義の概念すらマッスグに描けないくせに、ヒーローを現 代に甦らせるなんてことをしちゃあいけない。

 60、70年代だって、正義を守る、なんてセリフは時代からズレていた。まっとうな大人のドラマでは気恥ずかしくて口に出来ないものだった。だからこそ、正義の味方はお子さま向けドラマの方に追いやられ、逆に言えば、そこだけが正義のサンクチュアリだった。そこで特殊な発達を遂げたのが、いわゆるヒーローものアニメ、特撮作品なのだ。なんでオタクという人種がアニメや特撮で特権的に語られるのか。音楽や、小説の世界に、マニアは出てもオタクは出てこなかったのか。それは、アニメや特撮が、同じドラマでありながら大人モノのもはや描けない概念を描き得ることの出来る“自由”の得られる場所だったからである。単純に、大胆に、そして飽きもせず、オタク分野であるアニメや特撮は、正義の味方を大量生産し続けていた。それは“未発達だったから単純だった”、のではない。“需要あっての単純だった”のである。あえてベクトルを時代と逆行させていたからこそ、人気を博したのだ。もちろんのこと、多くの作品中にはその単純さから脱しようとしたものも多かった。『妖怪人間ベム』があり、『忍風カムイ外伝』があり、『海のトリトン』があり、『無敵超人ザンボット3』があったが、それらはいずれもカルト作品として一部で人気を得るにとどまっていた。王道は、やはり時代に反逆してまで正義を自称するヒーローたちであった。そこに、彼らの存在意義があったのである。“新しい時代にあわせた”つもりで、ヒーローを単純な正義の味方から脱却させようとか、ストレートなカッコよさを否定しようとか思っているリメイク制作者たちの方こそ、実は体制的であり、“古 い”のだ。威張るほどのものではない。

 かなり力の入った文章である。唐沢俊一が「テーマのある作品」を嫌いな理由がなんとなくわかるような。しかし、これにも気になるところがある。まず、「60、70年代」と「ヒーローもの」の歴史を単純化しすぎである。たとえば、「ヒーローもの」の王道であろう『ウルトラマン』シリーズの中でも60年代から70年代にかけてヒーローのありかたは変化している。ハヤタに比べると郷秀樹は悩んだり増長したりするなどだいぶ人間臭いし、新マンも初代ウルトラマンに比べるとだいぶ苦戦していた。アニメや特撮もやはり時代の影響を受けていたのではないだろうか。唐沢が挙げている作品以外でも正義のありかたやヒーローの存在意義に揺さぶりをかけた作品は当時たくさんあったのだ(そもそも唐沢がどういう作品を「王道」と考えていたのかわからないのだが)。それから、「単純」にわかりやすく正義を訴える「ヒーローもの」というのは子供を対象としているのであって、いつの時代でも需要は存在している。別にオタクに対して需要があるわけじゃないだろう。
 …実際のところ、「正義のサンクチュアリとか「“自由”の得られる場所」などと言葉はカッコいいのだが、話が具体的じゃないので困ってしまう。それに70年代以降も「ヒーローもの」における正義のありかたというのは変化しているのだから、そのことも考える必要があるだろう。


 …と、ここまで読んでいると唐沢俊一は過去のアニメやマンガの実写化・リメイクには断固反対しているんだなあ」と当然思ってしまう。例外的に唐沢は今川泰宏の『鉄人28号・白昼の残月』を絶賛しているのだが、それは「あの時代のにおい」を再現できているからなのだろうか(余談だが、小林よしのりも『白昼の残月』を絶賛していた)。まあ、『ギララの逆襲』も褒めているけど。

 ところが。

 唐沢俊一開田裕治氏の同人誌『特撮が来た16』で全く逆のことを書いているのだ。『隠し砦の三悪人 The Last Princess』の不評について触れたうえで、

 だが、気になったのは、それらの評の中に
「オリジナルの『隠し砦の三悪人』でないから」
という理由で悪口を言ってる、としか取れない批評がいくつも見られたことである。

として、「オリジナルと違う」という批判はあくまで制作会社やプロデューサーに向けられるべきとしている。さらに。

(前略)批判はあくまでも
樋口真嗣版の『隠し砦の三悪人』はどういう映画で、どこが良く、どこが悪いか」
というポイントに向けられねばならない。

としている。

 …えーと、なんだろうこの温度差。アニメの実写化に激しく反対していたのに、『隠し砦の三悪人』のリメイクにはどうしてこんなに寛容なんだろう。自分がリアルタイムで見ていない作品ならリメイクしてもいいというのはフェアではないのでは(『隠し砦の三悪人』は唐沢が生まれた1958年に公開されている)。好意的に考えれば、自分が好きな作品については冷静でいられなくなる、ということなのかもしれないけど、それでもダブルスタンダードはよくない。なお、『特撮が来た16』での唐沢俊一の文章には信じられないミスがあるので1月13日の記事を参照してほしい。


 アニメやマンガの安易な実写化は、唐沢のP&G以上に問題なのかも。

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こども役者

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日本オタク大賞2004

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