調べれば真相が1分でわかる不快イ話。
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昨日(10月12日)日本テレビ系で放映された『人生が変わる1分間の深イイ話』で、このようなエピソードが紹介された。
日本を代表する漫画家高橋留美子さん。
「うる星やつら」「めぞん一刻」など30年以上に渡って、次々と大ヒット作品を生み出し、
単行本の総発行部数は、なんと1億6,500万部!高橋さんは、大学2年生 19歳でデビュー。
その作品は新人ながらクオリティーの高い絵と、計算されたストーリーで周囲を驚かせた。
物語の構成力に衝撃を受けた出版業界の先輩、唐沢俊一 は
高橋に手紙でアドバイスを送った。唐沢俊一「これからどんどん売れてくると、描きたいものと作品が離れていくと思うのでお体にはご注意ください」
描きたい漫画と、売れる漫画のギャップに苦しみ、
高橋が潰れてしまう事を心配したのだ。だが高橋は、新人らしからぬ返事を返した。
それは…
高橋留美子「私は元々、売れたいと思ってこの業界に入った人間なので、いくら売れても絶対に潰れないからご安心ください」
高橋の「描きたい漫画」とは、「売れる漫画」のこと
だから、潰れる心配は全く無かったのだ。
はい、少し事情を知っている人なら明らかな間違いがあることにすぐに気付きますね。…そう、唐沢俊一は高橋留美子の「出版界の先輩」ではないんですね。高橋留美子のデビューは1978年で、唐沢俊一のデビューは1988年頃なのだ。高橋留美子がデビューしたとき、唐沢は青山学院大学の1年生だったし、そもそも高橋留美子の方が年上である。事情を知らなくても調べればすぐにわかることなんだけどなあ。
ただし、一応断わっておくと、今回のガセについては唐沢俊一には直接の責任はないはずである。唐沢はちゃんと高橋留美子にファンレターを出したと言っているのだ。『オタク論!』(創出版)P.201〜202より。
僕が生涯に出した2通のファンレターのうち1通はうちの女房で(笑)、もう1通は高橋留美子さんなんですけど、高橋さんから1カ月後くらいに返事が来た。僕はファンレターに「これからどんどん売れていくと、描きたいものと作品が乖離していくと思うので、お身体にはご注意下さい」と書いたんです。そしたら返事には「私は売れたいと思ってこの業界に入った人間なので、絶対に潰れませんからご安心下さい」と書いてあった。ヒエーっと思いましたね。やはりそういう化け物みたいな人じゃないとダメなんですよ。手塚治虫も高橋留美子も化け物です。
もっとも、これ以外の場所で「出版界の先輩」としてアドバイスしたと発言している可能性はあるけれど。
しかし、一方の高橋留美子は唐沢からファンレターをもらったことを忘れていたのであった。おかげで「唐沢は本当にファンレターを出したのか?」という疑惑も持たれているが、高橋ほどのビッグネームになればファンレターや批評をいちいち覚えていられないというのが一番有り得ることだと思う。「活字中毒R」より唐沢のファンレターについて聞かれた高橋留美子の発言。
すげえ、私(笑)。つうか、こえ〜(笑)。全然忘れてますね(笑)。そうか、そんなことも書いていたか……。でもね、間違いないです。やっぱりね、私はマンガは売れた方が良いと思うんです。それはイコール楽しい、面白いってことじゃないか、っていうのがあってね。わかる人がわかってくれればいいとか、同人誌じゃないと描けないネタがあるとか、そういうのは嫌なんですよ。そうじゃなく、自分がすごい描きたいものを一般誌で描いて、大勢に読んでもらったほうがいいじゃん、っていうのはすごい思ってたし、今でも変わってない
唐沢への返事といい、有言実行しているのが本当に素晴らしい。
さて、今回のガセが起こった理由について考えてみよう。
(1)投稿者が間違っていて、番組のスタッフがそれに気付かなかった。
今回のエピソードは「愛媛県 鈴木久仁子」という人から投稿されているので、この人が間違っていたというわけである。もっとも、『トリビアの泉』で「一行知識掲示板」に投稿されていたトリビアが他の投稿者から送られたものとして紹介された例もあるから(「トリビアの泉の探し方」を参照)、番組のスタッフが見つけたネタを「投稿されてきた」という形で紹介したのかもしれないが。
それから、唐沢俊一は老成したイメージを演出しているから「きっと高橋留美子よりもキャリアがあるんだろう」と勘違いしてしまった可能性もある。唐沢俊一は今51歳だけど、石田純一(55歳)より年上に見えるもんなあ。老成というより老化しているのかも。
(2)番組スタッフが捏造した。
これが一番ありそうだが、誤解を恐れずに言えばスタッフの気持ちはわからないでもない。ファンレターで忠告されたというより先輩に忠告されたとした方が説得力があるように思えるからだ。ただ、唐沢は高橋留美子ほど売れているわけではないので、「余計なお世話」感は拭い去れないのだけど。どうせなら手塚治虫に忠告されたとした方がよかったのかも(でも手塚先生はそんなことを言わなさそうではある)。もしくはいっそのこと、唐沢の名前を伏せて、ただ単に「一通のファンレターが送られてきた」とすればよかったと思う。これなら捏造にはならないだろうし。「深イイ話」が紹介された後のスタジオでも唐沢のことは話題になっていなかったのだから、唐沢の名前を残す意味があったのかどうか疑問である。『トリビアの泉』スーパーバイザーという肩書も紹介されなかったのだから、視聴者は唐沢が何者なのかわからなかったのではないか(「『世界一受けたい授業』の先生でおなじみの」と紹介すればよかったと思うが)。
まあ、今回のガセについては早速Yahoo!知恵袋でも突っ込みが入っているので、これ以上広がらないものと信じたい。
くりかえしになるが、今回のガセについては唐沢俊一には直接の責任があるわけではない。しかしながら、一介のファンがプロに対して「売れたらやりたいことができなくなる」と忠告するのは、かなりおかしなことであるのは確かで、高橋留美子に忠告したのも、「ガンダム論争」も根っこではつながっているのだと思う。
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