オール怪獣対大ゴジラ。
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『EX大衆』10月号掲載の「ゴジラ&オール怪獣再襲来」という企画で、唐沢俊一が『ゴジラ』(54年版・84年版)、『ゴジラvsビオランテ』、『ゴジラvsキングギドラ』、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』、『ゴジラFINALWARS』、そして『空の大怪獣ラドン』、『モスラ』の解説をしている。上記の作品がブルーレイで発売されることを記念した企画らしい。
まず、54年版『ゴジラ』について。
怪獣映画の原点は社会不安だと思うんです。怪獣映画とホラー映画は交互に流行ると言われていて、戦争や原水爆といった目に見える恐怖のアナロジーが怪獣映画で、公害や伝染病といった目に見えない恐怖はホラー映画で表現されています。
唐沢の分類だと『ゴジラ対ヘドラ』はホラー映画になってしまう。『スペクトルマン』には「公害Gメン」が出てくるけどあれもホラーなのだろうか。そもそも怪獣映画とホラー映画が交互に流行ってきたと言えるのどうか。
みどころは、当時の着ぐるみがめちゃくちゃ重そうなところ。中島春男(原文ママ)さんという黒澤映画にも出演されていた俳優の方がスーツアクターをされているんですけど、重いがゆえに制限された動きがまるで神の使いのよう。ゴジラが歩くときの摺り足って能に似ていて、どこか厳かなんですよ。
「着ぐるみがめちゃくちゃ重そうなところ」が見どころってどんな映画なのよ。ゴジラと能を結びつけるのは、現在のオタク文化と浮世絵とかの江戸時代の文化を結びつけるどこかで見たような理屈に似ているけど、緻密に考えないとトンデモになってしまうだろうな。
徳川無声(原文ママ)という活弁士から俳優になった方が『エノケンの孫悟空』という映画で、ワニの着ぐるみを着て沼から現れるシーンがあったんです。結局、そのシーンはカットされてしまったんですけど、円谷英二監督がその姿を見て、ゴジラの造形を思いついたのではないかという説があるんです。
人名の誤記が早くも2つ。しかし、そんな説は聞いたことがないので調べてみたら、実はこの話は唐沢本人が「ベテランの映画業界人」の口から2回も聞いたものであると『素晴らしき円谷英二の世界』(中経出版)の中で書いてあった。映画業界でそのような噂があったのは確かなのだろう。だが、唐沢は『素晴らしき円谷英二の世界』で、この説を紹介した後でこのようなことを書いている。
ゴム性のぬいぐるみが劣化もせずに戦後の54年まで残っていたわけもなし、これも取るに足らない珍説と言える。
『エノケンの孫悟空』は1940年に製作された映画である。…しかし、なぜ自分で「珍説」であると過去に否定した話を今になって紹介するんだろう。せめてフォローは入れておいてほしい。なお、『素晴らしき円谷英二の世界』に収録された文章に重要なことが書かれているので、次回取り上げる。
次は『ゴジラvsビオランテ』。
昭和ゴジラのときは、ほかの怪獣が出てくると「どっちが勝つんだろう」という興味があったけど、ビオランテは案外簡単にやられてしまうんですよ。この作品で、ゴジラが強くなりすぎてしまった印象がより濃くなってきましたね。自衛隊の活躍も目立つようになっていって、以降の作品ではメカニックの魅力もみどころのひとつになっていきます。
『ゴジラvsビオランテ』に登場したメカといえば「スーパーX2」のことだろう。…「2」? そう、『ゴジラ』84年版に登場した「スーパーX」の後継機なのだ。…いや、それだったら「以降の作品では」だなんて『ゴジラvsビオランテ』が画期的な作品だったような書き方をすべきじゃないって。それに、過去の東宝特撮作品にも魅力的なメカは多数登場している。ムーンライトSY-3、メーサー殺獣光線車、轟天号(そもそも作品のタイトルが『海底軍艦』だ)などなど。モゲラやジェットジャガーも一応メカなんだろうな。どうして、そういうのを素っ飛ばした話をするのかなあ。ちなみに、スーパーXには批判的な意見もあるようだけど、自分は結構好きです。
『ゴジラvsキングギドラ』。
この作品まではキングギドラは東宝の怪獣のなかでも一番デカくて、一番強いというイメージで、昭和ゴジラではほかの怪獣の協力がなければ勝てなかった。しかし、この作品でキングギドラがはじめてゴジラと対等になったんです。それだけゴジラが成長した証でもあります。また、公開中にソ連が崩壊して、世界に対立軸がなくなるのですが、平成『ゴジラ』シリーズでもしだいに善悪の対立関係が曖昧になっていきます。
『ゴジラvsビオランテ』の解説で「ゴジラが強くなりすぎてしまった」と書いていたのに対し、ここではそれを「成長した証」と書いている。そもそもゴジラは成長してきたのだろうか。『ゴジラvsキングギドラ』以降の作品で「善悪の対立関係が曖昧になって」いるのかどうかも疑問。『FINALWARS』なんかかなり善悪がわかりやすかったような。
ゴジラを守る聖獣としてキングギドラが登場し、善悪が逆転してしまいます。ゴジラは白目を剥いていて、かなり恐ろしい造形ですね。この作品の特徴としては「人が死ぬ」ことが挙げられます。第1作以外はファミリー映画ということもあって、「人が死ぬ」シーンはなるべく避けていました。しかし、この作品では、ゴジラがヘリコプターを落とすシーンで「あの人、死んだわ」とあえて言わせたり、ゴジラが通り過ぎてるのを見てホッとした入院患者が、その矢先にシッポで殴打されて死んでしまう。「人が死ぬ」シーンの多さは、現在の恐怖は国や集団ではなく、個人の身に降りかかる具体的なものだということを象徴しているのではないでしょうか。
『ゴジラの逆襲』からファミリー映画になったと考えていいのだろうか。あと、入院患者(篠原ともえ)は建物ごとゴジラに破壊されて死んでいるから「殴打」というのは違和感がある。しかし、『大怪獣総攻撃』で人が死ぬシーンが多い理由の分析は正直何を言いたいのかよくわからない。個人にとっては「死」はいつの時代も具体的なものだろう。なお、唐沢俊一は「裏モノ日記」2001年11月25日で『大怪獣総攻撃』で人が死ぬシーンが多く描かれていることを批判している。
※追記 日常非日常さんに指摘されたが、キングギドラが「ゴジラを守る聖獣」って! じゃあ、なんでキングギドラはゴジラと戦っているんだ。正しくは「護国聖獣」としてモスラ・バラゴンとともにゴジラと戦っているのである。
『ゴジラFINALWARS』。
84年以降の強くて怖いゴジラから、人類の味方としてのゴジラに改めてシフトした作品で、昭和ゴジラのかわいらしさも表現されています。「日本にもたらされた災害」であったはずのゴジラが、最後の作品で日本の象徴になったのです。1作目で海から現れたゴジラが、この作品のラストシーンで海に帰っていくのも印象的ですね。
『ゴジラ』シリーズのラストシーンで、ゴジラが海に帰っていくのは『FINALWARS』以外にもいくつかある。なお、「裏モノ日記」2004年11月30日に『FINALWARS』の感想がある。
『空の大怪獣ラドン』。
「超音速」という言葉に象徴されるように、ジェット機の時代に作られた作品で、「空を飛ぶ怪獣」としてラドンが登場しました。ゴジラは「戦争の恐怖」の象徴で生物らしさがないのですが、ラドンはまっとうな生物として設定されています。巨大ヤゴのメガヌロンを食べていたり、卵から孵化したり、親が子を守ろうとしたり……、そこがゴジラとラドンの大きく異なる点ですね。
ミニラ…。
『モスラ』
『キングコングの逆襲』でキングコングが東京タワーに登ったように、高い建物の街は怪獣に襲われやすいんです。ところがモスラの幼虫の場合は、高い建物だと隠れてしまうので、低い建物が多い渋谷を襲わせたんです。そのほうがモスラは映えますからね。脚本の関沢新一さんが東横線沿線に住んでいたから渋谷を襲わせた、という説もありますね。米ソの冷戦が作品に影響を及ぼしていますが、日本の戦争被害をイメージさせるゴジラに対して、モスラは「世界に平和を」というメッセージが込められていると考えられます。
「高い建物の街は怪獣に襲われやすい」というのはおかしな書き方だなあ。怪獣が高い建物を壊すと迫力があるから、映画の中では高い建物のある街で怪獣が暴れることが多い、という話なんだろうけど。あと、『キングコングの逆襲』という『モスラ』よりマイナーな映画を例に出すのはどうなんだろうか。この文章が特撮ファンを対象にしているのなら別にいいんだろうけど。
各作品の解説とは別に「唐沢俊一的ゴジラ考」として「『ゴジラ』は日本の「現在・過去・未来」を反映していた」という文章が載っている。渡辺真知子みたいなタイトルだけど。いかさま占いは続く。
ゴジラと『男はつらいよ』の寅さんって似てると思うんですよ。寅さんは柴又から旅に出て、旅先で恋をして、また柴又に戻る。ゴジラも海からやってきて、暴れまわって、海に帰っていく。日本人はまた旅もの(原文ママ)が好きなんですよ。顔見知り同士だからこそ膠着してしまう問題を、しがらみのないヨソ者がふらっと現れて解決するというパターンを愛している。『渡り鳥』シリーズの小林旭も『網走番外地』シリーズの健さんもそうですね。
また、ゴジラは神聖なものの象徴とも考えられ、とくに1作目では荒ぶる神様への日本的な対処法がよく現れています。台風や凶作のとき、日本人はそれを祓うためにお祭りをして、怒りを鎮めるためにいけにえを供える。1作目では日本が誇る科学者の芹沢博士がいけにえだったのかもしれません。
『ゴジラ』と『男はつらいよ』が似ていると思っているのだったら、『昭和ニッポン怪人伝』でも対比すればよかったのに。『男はつらいよ』の比較対象として洋画である『007』シリーズを挙げるのは無理があったんだから(詳しくは5月19日の記事を参照)。しかし、『ゴジラ』シリーズでは「股旅物」のパターンにあてはまらない作品もあるから(むしろその方が多いのか)、どうもしっくりこない話である。
また、ゴジラは「荒ぶる神」であり、芹沢博士はゴジラを鎮めるいけにえになったという説は『トンデモ事件簿』の中でも書いていて(それについての検証は2008年11月6日の記事を参照)、『文芸別冊・円谷英二』(河出書房)に寄稿した文章でもこの説を唱えている。
1作目で、戦争や核に対する恐怖の象徴としてゴジラが登場し、以降、政治や社会情勢を反映させた作品として『ゴジラ』シリーズは続いていくんです。そして、『キングコング対ゴジラ』がひとつの分岐点になります。高度経済成長のなかで自然が破壊されて街並みが変わり、コンクリートと鉄骨でできた建物に囲まれたなかでキングコングとゴジラが暴れるだけ暴れて去っていく―。昭和ゴジラシリーズは「自然の逆襲を忘れちゃいけない」というメッセージ性とともに自然と文明の対立が軸になります。
しかし、84年以降のゴジラは、どこに恐怖の対象を持っていったらいいのかわからなくなっていくんです。その一方で、科学の発展とともに日本人は怪獣に対抗しうる力を持つようになります。そこに我々は、国や生活を守る科学技術の将来に希望を抱くわけです。
過去の戦争被害からはじまって、米ソ冷戦や高度経済成長、日本を取り巻く社会状況とともに歩いてきた『ゴジラ』シリーズですが、平成以降の作品に関しては日本の未来を描いてきたわけです。
…うーん、『キングコング対ゴジラ』以降の第1期『ゴジラ』シリーズでどのような形で「自然と文明の対立」が現れているのか説明してほしいところだなあ。そもそも、キングコングとゴジラは最初に中禅寺湖で戦って最終決戦はご存じの通り熱海城なので「コンクリートと鉄骨でできた建物に囲まれたなかで」戦ったと言われると違和感がある。あと、『キングコング対ゴジラ』は「股旅物」になるのかどうかも気になる。
平成『ゴジラ』シリーズの「国や生活を守る科学技術の将来」というのは、モゲラや機龍のことと考えれば間違いではない、のかな? まあ、昭和の『ゴジラ』シリーズにだって「未来」を思わせる描写はなかったわけではないのでは?とも思うけど。
全体的に話が雑である。『ゴジラ』シリーズが日本社会を反映してきた作品というのは確かなのだろうけど、もっと丁寧に分析してほしい。
※一部追記しました。
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