唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

これは「濃い」ではない。

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 唐沢俊一『博覧強記の仕事術』(アスペクト)第4章より、今回も「売れる為にやったんだ」話である。
 P.168にはトリビアはなぜウケたのか」とある。

 私をここまで有名にしてくれたのは、やはりテレビ番組『トリビアの泉』であろう。
 『トリビアの泉』は私の著書『トンデモ一行知識の世界』(ちくま文庫)から始まった番組であるが、この本は私にしては大変「薄い」本である。
 それは私も意識してやったことなのだが、それまでの私のファンは「濃い」人が多かったので、「あんなのはカラサワじゃない」「見損なった」とずいぶん言われたものである。

P.170より。

 トリビアをやったり、それに続いて雑学本を出したりしたことによって、「唐沢は薄っぺらになった」「内容がなくなった」と言われたりもしたが、こちらは最初からそのつもりでやったので、正直ほくそ笑んだりもした。内容を濃くして敷居を高くするよりは、誰にでも読みやすいものを書くことによって、読者に、私の他の本にも興味を持ってもらったり、もうちょっと専門的な本を読んでみよう、という気持ちになってもらえれば、私としては意図が当たったことになる。

 唐沢俊一が批判されたときに「わかっててやった」と反論するのは毎度のことなのだが、それだったら、『トンデモ一行知識の世界』と続編である『トンデモ一行知識の逆襲』(ちくま文庫)にガセが大量に混入しているのも「意識してやった」「最初からそのつもりだった」のだろうか? 「トンデモない一行知識の世界」を見てもらえばわかるが、『世界』と『逆襲』にはあわせて400以上の間違いがあるのだ。これだけ間違いがある本というのもなかなかないだろう。「意識してやった」のなら悪質だし、わかってなかったのだとしたら能力が低すぎる。
 さらに、『トリビアの泉』の成功を受けて出した『唐沢先生の雑学授業』(二見文庫)には多数のパクリがあったわけだが、それも「意識してやった」のか? 小学校のころから「一行知識」を集めていたわりにはネタ切れが早すぎると思うのだが。
 それから、「マニア向け」の文章を薄めれば「一般向け」になる、というのは疑問がある。マニアを唸らせる文章と一般人にわかりやすく伝える文章とは、違う技術が要求されるというだけの話ではないだろうか。濃い内容の本を作ることこそがマニアへの最高の反論になると思うのだがどうだろう。「意識してやった」という割りにはマニアからの批判がこたえてしまっているように見える。


P.169より。

 トリビア、つまり雑学というものは徹頭徹尾通俗的なもので、トップからボトムまで「一般大衆にもわかり、参加できる」ものである。だから、いろんな大学の先生から「あんなものは学問じゃありません」「あんなものを放映したら、本当の学問の真理に到達するのを阻害するだけ」などと言われた(その反対のおかげで、特番がひとつトンだことが実際、あった)。
 しかし、「本当の学問の真理」なんてものは、それこそ大学の先生だけがやっていればいいことで、一般大衆には必要のないことだし、もちろん商品にはならない。

 唐沢俊一の著書にガセが多い理由がよくわかる文章だ。岩波文庫「読書子に寄す」を思い出してしまった。…いや、「真理」なんて大層なことじゃなくて、「間違いがないようにする」という基本的なことを唐沢はあまりにもないがしろにしすぎているのだ。テレビで雑学の番組をやるときにはネタの真偽について事前にしっかりとリサーチしているというし、『トリビアの泉』でも放送内容に問題があったときは謝罪していた。唐沢の文章は「商品になればガセだってかまわないんだ」とも読めてしまう、非常にタチの悪いものであると言わざるを得ない。もっとも、唐沢俊一は昔からそのような考え方なのであるが。『トンデモ一行知識の世界』P.33より。

 しかし、間違いを間違いだからといって無下に排斥するのは人間の文化を貧しいものにしてしまう。事実、などというのは世界中の人間のうち数パーセントが知っていればいいことではないか?
 火食い鳥は火を食べ、ヒマワリは太陽に常に顔を向け、妊婦のおなかの右側(左側だったか?)を蹴飛ばす子は男の子。そう国民の大半が信じていたからって、日本社会はどうってことないのである。そっちの方が夢があってよろしい。

 「夢がある」のと無知は違うだろう。まあ、そういう意味では唐沢俊一の著書にも「夢がある」のかもしれないが…。


P.168〜169より。

 これは、どんな分野のことにも言えることだが、間口が広くない世界というのは、必ず衰退する。入口が広くて懐が広くないと、そのジャンルは絶対ダメになる。
 不思議なことに、どんなジャンルのものでも、業界が衰退してくると、一部のマニアだけにウケるものを作り始める。マニアというのは「絶対に買う」人種であるから、その人たちにウケるように、そして「他の人たちとあなた方は違うんです。あなた方は偉いんです」と機嫌を取るようになる。そして外の世界に壁を作っていく。そういうことをやり出したジャンルは必ず低迷する。

 思わず「と学会」のことを連想してしまった。まあ、唐沢俊一も昔は「一部のマニア」だったわけだが。…あれ、こんなことも書いてたんだ。

俗って悪きゃ、メジャー化って言うけどサ、会員に女子供がふえすぎて質落さなきゃ(原文ママ)ならなくなったンなら悲しいねェ。「ドラえもん」なんざ、本紙の方でとりあげる作品なのかねえ。規模は大きくたって同人誌なんだ、読む方にコビるのはやめていただきたいねえ。

 1981年の唐沢俊一は「売れる為にやったんだ」という考え方を非難しているわけだけど、どうして考えが変わったのか説明してほしい。…しかし、何回読んでも凄い文章。


P.171より。

 つまり、トリビアが当たったのは、人の知的好奇心を刺激したということと、それがとっつきやすかったから、ということに尽きるだろう。

 『トリビアの泉』こそ「博覧強記の仕事術」を実践しているのではないだろうか。巧みな「アウトプット」によって視聴者の興味をひくことに成功したわけだからね。『トリビアの泉』の内容がウスい、というのは唐沢俊一も書いているが、実際にそのような批判というか文句はあるようだ(自分の知り合いでも「あの番組でやっているネタは全部知っているものばかりだ」と言う人がいた)。しかし、『トリビアの泉』という番組がネタの見せ方について優れていたことは評価しなくてはいけないし、唐沢俊一も技術論についてもう少し詳しく語ればいいのに、と思う。ただ、「トリビアの泉の探し方」というサイトで詳しく検証されているが、唐沢俊一はスーパーバイザーではあるものの、それほど『トリビアの泉』に関与していなかったのではないか?という疑問がある。要するに、唐沢の著書や「一行知識掲示板」にあるネタを番組スタッフが上手くふくらませたのではないかと。ネタの見せ方について唐沢俊一はどの程度関与していたんだろう。…それにしても、このサイトで記録されている記述が「裏モノ日記」2002年9月分の中に見当たらないのはどういうことか(他の月はちゃんと見つかる)。なお、唐沢俊一と『トリビアの泉』の関係については、冬コミで出す予定の『検証本VOL.2』の書き下ろし分でもう少し詳しく説明しようと思う。『トリビアの泉』のスタッフにも話を聞いてみたいものだが。


 唐沢俊一の検証を始めてから、直接人と会って話をする機会がたびたびある。だから、ドラゴン山崎氏に「ネットや資料だけをソースに原稿書く手合いはこれですよ」と批判されたときにも「いや、俺は違うよ?」としか思えなかったのだが、それはさておき。
 ある人と会ったときに、その人は唐沢俊一の本の中に明らかにおかしい記述があることにだいぶ前に気づいていて、その後『新・UFO入門』盗用事件が起こり、唐沢俊一の検証が各方面から進んでいったときも「やっぱり」と思ったそうである。
 …おそらく、その人のように唐沢俊一の「濃い本」を読んでいておかしい、と気づいた人は他にもいたのだと思う。ただ、マニアックなジャンルについて間違いを書いたとしてもそれに気づく人が少なかったために、唐沢俊一の能力に疑問が持たれることがなかったのではないか?となんとなく思ったのだ。『昭和ニッポン怪人伝』みたいにメジャーなジャンルを扱った本だとおかしい点があれば一発でわかるんだけどね。そういえば、「と学会」のメーリングリストの中で藤倉珊氏が山本弘会長に「あなたの本には科学的な間違いがたくさんあります」と指摘してあるのを見つけたときはゾッとしたんだけど。…どうして藤倉氏はそれを指摘しないのか? そして他にも間違いに気づきながら黙っている事例があるんじゃないか?と思ってしまったのだ(まあ、唐沢俊一の盗用も見て見ぬフリをする「濃い」人たちもいるのだから不思議ではないのかも)。
 だから、「濃い」というだけで評価するのは考え物なのかもしれない。「濃い」うえに「間違っている」ということもあるわけだから(そして、その場合間違いを指摘するのは難しい)。まあ、唐沢俊一の場合は「本当に濃いのか?」ということから考える必要があるんだけど。


これは恋ではない―小西康陽のコラム 1984‐1996

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トリビアの泉~へぇの本~(1)

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トンデモ一行知識の世界 (ちくま文庫)

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トンデモ一行知識の逆襲 (ちくま文庫)

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唐沢先生の雑学授業 (二見文庫)

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博覧強記の仕事術

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