1981年の「祭り」/ポケットの中も検証。
唐沢俊一がかつて所属していた「アニドウ」の会誌『FILM1/24』No.31(1981年4月発行)を読んでいたら、読者投稿欄にこのような投稿があった。
「手前の阿呆タナにあげて 阿佐谷 唐沢俊一」
…そう、唐沢俊一の投稿である。1981年4月といえば「ガンダム論争」(詳しくは2008年11月18日の記事を参照)の真最中だが、「アニドウ」の会誌ではどのような投稿をしているのか。全文紹介してみることにする。
拝啓陳者
……しかし何だねェ「COM」は亜庭じゅんが悪口言いすぎてツブしたてェ話もあるからあンまし言いたかないけどねェ、何ですか今回の表紙は。金があり余ってんのかな。天下の少年サンデーに進出したからって威張っちゃいけねェ。(それにしてもあのマンガはベタもベタのギャグだね、ま、どうでもいいけどサ)みのり書房じゃないんだ、内容で勝負していただきてェ。俗って悪きゃ、メジャー化って言うけどサ、会員に女子供がふえすぎて質落さなきゃ(原文ママ)ならなくなったンなら悲しいねェ。「ドラえもん」なんざ、本紙の方でとりあげる作品なのかねえ。規模は大きくたって同人誌なんだ、読む方にコビるのはやめていただきたいねえ。
「カリオストロ」だっていいけどさ―あ、あれが他の川本喜八郎であるとかの作品おしのけて賞とったってことに、疑問感じた方はひとりもいらっしゃらないのかな。あー面白かった、だけじゃ困ると思いますけどねェ。(それともいるのかも知れない。後の方に書いてあンのか知れないな。何せ買って三日たってまだ実は全部読んでねェんだよ、忙がしい(原文ママ)ってこともあるけど一ペエジ読むたンびに「何じゃこりゃ、書いたやつは阿呆か」ってハラが立ってねえ、手前の阿呆タナにあげて。)大体、今のアニドウの会員の殆どが、やれフライシャーがどうのアレクセイエフがどうのといった口でガンダムはよろしゅうござンスな、とヌカす連中ばかりじゃないですか?ファンとしてならそれでいいかも知れないけど、何かアニメについて論じようてえのにそういう方向不明確なことでいいのかしらん。そういう人間ならアニメージュだのジ・アニメだのにまかせとけばいいので、何もアニドウで飼っとくことはないんじゃないですか。ハガキがなくなった。つづきは手紙で近日中!
…いやー、「ガンダム論争」はまだマシな部類だったんだなあ。もうすぐ23歳になろうかという若者がこれを書いたのか。うーむ。「ン」とか「ェ」を多用しているのはなんなんだろう。誰かの文体に影響を受けたのかなあ。小池一夫? おそらく「粋」な文章を書こうとしたんだと思うけど、実に奇々怪々である。小夜ちゃんはいい。
で、例によって検証したいところだが、この文章を検証してもしょうがないので、今回は「分析」をすることにする。まあ、上の文章を読めばみなさんにはなにもかもわかるだろうとは思うのだけど。
まず最初に、唐沢俊一は小さな集団の好きな人なのである、とあらためて感じた。札幌のアニソン・サークルに始まり、「アニドウ」、イッセー尾形のスタッフ、ニフティの会議室、と学会、そして現在では小さな劇団に入れ込んでいる。それにmixiも入れていいのかもしれない。そして、どの集団にも共通しているのが「自分は普通の人間とは違う」という感覚を与えてくれることである。「アニドウ」にいる自分は『ガンダム』を好きな普通のアニメファンとは違う、イッセーのスタッフである自分は普通の演劇人とは違う、といった具合に。岡田斗司夫は「と学会」を「インテリの貴族主義の集まり」だと言ってたしなあ。…とはいえ、そのこと自体は別に問題ではない。集団で動くのが好きでも個人で動くのが好きでもそれは人によるとしか言いようがないからだ。しかし、唐沢俊一が集団の中にいるのを好んでいることから別の問題が出てきてしまっているのだ。
それは、唐沢俊一は集団の中にいると甘えてしまう、ということである。前の方で、『FILM1/24』の投稿に比べると「ガンダム論争」の投稿はまだマシな部類だと書いたが、その理由は「ガンダム論争」の投書が『ぴあ』という「外部」に対するものだったからで、赤の他人の眼に触れるということでさすがに唐沢も多少は緊張して文章を書いたということなのだろう(それでもあの文章なんだけど)。思えば、唐沢俊一が問題を起こすのは、集団の内側にいる気分のままで暴走してしまったときが多い。「前説事件」(詳しくは2月18日の記事を参照)もそうだったし、ニフティの会議室で訴えられたときもそうだったし、そしてつい最近では「日本トンデモ本大賞」の時の騒動(詳しくは6月7日の記事を参照)も同じである。「外部」から見れば、唐沢の態度はだらしのないものとしか映らないのだ。
そして、唐沢俊一が何を好きなのか結局のところよくわからない。「ガンダム論争」の時も、一体どうして『ガンダム』ファンを攻撃していたのかさっぱりわからなくて困ったものだが、同じように『FILM1/24』の投稿でアニドウの会員を攻撃している理由もわからない。他人の批判をする前に川本喜八郎やフライシャー兄弟やアレクサンドル・アレクセイエフの素晴らしさを論じればいいと思うのだけど。批判のために名前を出されたのでは作家に迷惑をかけるだけだ。とりあえず当時の唐沢俊一が「他人とは違う俺スゴい」という考えに取り付かれていたことはよくわかったけど。思春期にはありがちなことだからあまり責める気にはならないが、まさか今でもこじらせたままということは…。
もっとも、唐沢俊一自身も「アニドウ」時代の文章については反省しているようだから、批判する必要はないのかもしれない。『BSアニメ夜話ムックVol.7 アルプスの少女ハイジ』(キネマ旬報社)でも次のような発言をしている。P.114より。
アニドウというグループに参加していた時、「今あるアニメーションを良いと言っているだけでは駄目だ。『アルプスの少女ハイジ』は名作だと言われているけれども、所詮はセルに塗料を塗っただけで、あれでスイスの素晴らしい山々の雰囲気が出せるものか!」という論旨を会誌に載せたりしたことを、今でも覚えてますよ。ひどいね(笑)。
まあ、反省しているならいいんだけどね。…それにしても、その文章、すごく読みたいw アニメというジャンルそのものを否定してないか?
ともあれ、今回取り上げた文章がたまたまアレなだけで、別の会誌では堂々たる論陣を張っているのだと信じて、さらなる捜索を続けるつもりだ。…まさか、他の文章もみんな今回と同じようなノリだということは…。嘘だと言ってよ、シュンイチ。
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