唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ウッーウッーUMAUMA。

 『ラジオライフ』8月号掲載の『唐沢俊一古今東西トンデモ事件簿』第47回は「盗撮」をテーマにしているのだが、そのなかで「ネッシーの写真」の話が出てくる。ネッシーを撮ったってそれは「盗撮」じゃないだろう、というツッコミは藤岡真さんが「机上の彷徨」6月25日で既にやられているからそちらを参照していただきたいが、P.152〜153にはこのようにある。

 ネッシー写真の中でも最も有名で、私の子供時代の雑誌の定番だったのが、いわゆる“外科医の写真”というやつだ。みなさんも1度は見たことがあるだろう。いかにも首長竜、という感じの恐竜の首が水面から突き出しているやつである。シンプルだが、それだけに力の入った写真といえる。この写真は、1934年4月、ロンドンの婦人科医、ロバート・ケネス・ウィルソンによって撮影されたものである(何で婦人科医が撮ったものなのに“外科医の写真”なのかはさだかではない)。ウィルソンはその日の早朝、バードウォッチングをするために友人と車でネス湖のほとりの道を走っていた。その時、友人が湖面が急に波立つのに気がついて車を止めると、巨大な生物が水面に首を出した。
 2人は驚いて、鳥の写真を撮るために車に積んでいたカメラで、大急ぎで撮影した。彼らに気がついた怪物は、メル・ギブソン並にプライベート写真が嫌いだったらしく、あっという間に水底に姿を没してしまったという。
 この事件は、発表から60年経った1994年、上記エピソードの中でウィルソン医師が“友人と車の中で…”の、その“友人”であるクリスチャン・スパーリングが、90歳で亡くなる直前に“インチキだった”と告白した。スパーリングは潜水艦のオモチャに木で作った首を据え付け、それを撮影して、ウィルソン医師に発表させたのだった。イタズラ好きだったウィルソンはジョークのつもりで発表したのだが、あまりに世間での反響が大きく、いまさらウソだといい出せないままに、罪悪感を抱いたまま世を去っている。ウィルソン医師こそ被害者だったわけだ。
 スパーリングは映画の製作プロダクション社長で、こういうトリックはお手の物だったようだ。ところで、なぜスパーリングがこんなイタズラを仕掛けたか、その理由が面白い。実はこの少し前、スパーリングはネス湖の湖畔を散歩中、巨大な足跡を発見、これぞ評判のネス湖の怪獣の足跡だ、と新聞社に報告した。だが、新聞社はそれを調査して、「単なるカバの足跡」と結論し(なんでスコットランド北の湖の岸辺にカバがいるのか? いたらそっちの方が事件じゃないのか?)、スパーリングをあざ笑った。それを根に持ったスパーリングは、新聞社をダマして意趣返しをしようとしたわけである。人の恨みはオソロシイ。そして、スパーリングが自分でなく、発表者にウィルソン医師を選んだのは、医者という社会的地位がある者が発表すれば、世間は信じるだろうと思ったからだという。

 この文章の後半部はだいぶ間違っている。まず、ネス湖畔で「ネッシー」の足跡を発見したのはマーマデューク・ウェザレル(Marmaduke Wetherell)という探検家である。また、ウェザレルが発見した足跡は「カバの足で作られた傘立て」を使ってつけられたものだと調査の結果判明している。そして、この一件で恥をかいたウェザレルが義理の息子であるクリスチャン・スパーリング(Christian Spurling )と一緒に「外科医の写真」を撮ったというのが真相である。
 つまり、唐沢の文章ではウェザレルの存在がなかったことにされているうえに、ネス湖畔にカバの足跡があったという謎も調べればわかるのにほったらかしにされたままなのだ。ちゃんと調べればいいのに…、いつもならそれで終わりである。
 ところが。唐沢俊一は過去に「外科医の写真」について正しい説明をしているのだから、わけがわからなくなってくる。『フィギュア王』№94掲載の『唐沢俊一のトンデモクロペディア』第8回「ネッシーを“創った”男」より。

 もちろん、この人気の衰えは、かつて少年雑誌などの“世界の謎と神秘”のような特集で定番だった医師、ロバート・ケネス・ウィルソンが1934年に撮った写真(俗に言う“外科医の写真”。もっともウィルソンは産婦人科だったが)が、60年後の1994年に、クリスチャン・スポーリングという老人が、実は自分の父親があの写真を細工したのだと告白し、ガセであった、と暴露されてしまったのである。

ネッシー復権のために、この怪物に関わり、この怪物の知名度アップに少なからぬ貢献をした、ある人物がいる。その名はマーマデューク・ウェザレル。探検家として著名で、イギリスの伝統ある大衆紙『デイリー・メール』から特命をうけ、1933年、目撃情報が当時相次いでいたネス湖に調査におもむいた。そして、彼は湖畔で、巨大動物の足跡を発見、これをネッシーの足跡だ、としてデイリー・メールに発表したのである。“外科医の写真”が発表される一年前のことであり、これはネッシーが初めて目撃証言以外の物的証拠を残したという発見であった。英国中、いや、世界中が沸き立った。
 しかし、マーマデューク・ウェザレルはその名声を長く保っていることは出来なかった。専門の動物学者たちの鑑定により、この足跡はネッシーのような恐竜か巨大爬虫類と思われるものの足跡ではない、と結論づけられてしまったからだ。……では、これは何の足跡だったのか? ……カバの、であった。もちろん、ネス湖にカバがいるわけはない。ウェザレルはかつがれたのである。ロンドンから偉い探険家がやってきて調査をする、と聞いた地元のいたずら者が、先回りをして、湖畔に、カバの足を使って作られた傘立てを使い、足跡をつけておいたのだ。まんまと一杯くわされたウェザレルは世間の笑い者になってしまった。
 そして彼はそれ以来世間を憎むようになりある復讐を企てた。それは、自分を笑った世間を、ネッシーの実在証拠でだましてやることだった。……そう、クリスチャン・スポーリングが、あの写真は父が偽造したものだと証言した、その父(義父)というのがマーマデューク・ウェザレルだったのである。人間のうらみというのは怖い。

 ちなみに『フィギュア王』№94が発売されたのは2005年11月である。…どうして、正しいことを書いていたのに間違えてしまうんだろう。3年半の間に忘れてしまったのかなあ。しかし、「マーマデューク・ウェザレル」という人名や「カバの足で作られた傘立て」というアイテムは印象的だから忘れにくいんじゃないか?とも思う。…やはり、唐沢俊一ネッシーよりもずっと謎に満ちあふれた存在である。


「伝説のP&G製造機は実在する!! 灼熱の東京ビッグサイト最深部に唐沢俊一を見た!!」

夏コミはそんな感じで。

ウッーウッーウマウマ

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ラジオライフ 2009年 08月号 [雑誌]

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