唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

破。

藤岡真さんが『博覧強記の仕事術』の巻末に収録されている唐沢俊一が薦める、常備したい本三〇冊」について詳細な検証を行っているのでリンク集からごらんになってください。すばらしい。

「きっこのブログ」唐沢俊一の入院にまつわる疑惑について取り上げた。これで初めて唐沢が入院していたことを知る人も出てくるだろう。
 実はきっこさんからこのあいだメールを頂いて、なかなか面白い話を教えていただいた。最近では他にも面白いメールが届くようになってきているので、何か情報をご存知の方はプロフィール欄にあるアドレスまでメールを送っていただきたい。あと、夏コミの予定も書いておきました。

『破』を観てきた。大興奮奈須きのこと同じ心境だ。最終回の新宿ミラノ座のあちこちから拍手が聞こえてきて(俺もしたけど)「アメリカの映画館ってこうなのかな」と思ったり。しかし、まさか10年以上経って『エヴァ』にまたしてもやられるとは。『夏エヴァ』を朝イチで観に行って真っ白に燃え尽きていた昔の自分に教えてやりたい。
 
 …というわけで、今のところ『エヴァ』のことで頭が一杯になっているので、今回は『パチスロ必勝ガイドNEO』2007年11月号掲載の唐沢俊一『エンサイスロペディア』第6回を取り上げる。何故かというと、この回で唐沢は新世紀エヴァンゲリオンを紹介しているのだ。唐沢はかつて『エヴァ』を執拗に批判していたのだが、その割りには『エヴァ』という作品についてしっかりと批評したことはあまりないのだ。貴重な唐沢俊一による『エヴァンゲリオン』評を見てみることにしよう。

 新世紀エヴァンゲリオン」(原文ママ)が新作映画となって公開されている(引用者註 『序』のこと)。いや、新作の映画は“ヱヴァンゲリヲン”と表記するようだ。特撮怪獣映画マニアの庵野秀明監督による、『ウルトラセブン』などで有名な実相寺昭雄監督の遺作『シルバー假面』(自作のテレビ番組『シルバー仮面』の新作リメイク)へのオマージュだろう。

 ウィキペディアでは『ヱヴァンゲリヲン』と表記が変更された理由について次のように書かれている。

「エ」を「ヱ」、「オ」を「ヲ」に変えているが、これはTVシリーズの企画当初にボツになった案を採用したものである。

トップをねらえ!』でも宇宙戦艦「ヱクセリヲン」が出てくるよね。だから『トップ』を観ていれば気がつきそうなものだが…、まさか。万が一そうだとしたら岡田斗司夫には黙っていたほうがいいのでは。

新作“ヱヴァ”の評判もかなり上々らしいが、しかし、やはり筆者の世代には、12年前(引用者註 この記事が書かれたのは2007年)にテレビ東京で放映されて社会現象を巻き起こした、あの旧作が懐かしい。パチスロファンの皆さんの中にも、あの当時、あのアニメの最終回の意味するところをめぐって、友達と熱く議論をした人がいるに違いない。まさに、『新世紀エヴァンゲリオン』(通称“エヴァ”)は、20世紀末を締めくくるにふさわしい、話題性を持ったアニメであった。

 「筆者の世代には」って『エヴァ』は「オタク第一世代」にウケたからヒットしたわけじゃないだろう。『ヤマト』『ガンダム』だけでなく『エヴァ』まで自分の世代のものにしたいのか。欲張るねえ。

 ストーリィの概要は、西暦2000年に地球を襲ったセカンドインパクトと呼ばれる大災害後の地球に攻撃を仕掛けてくる、“使徒”と呼ばれる正体不明の侵略者たちと戦うために造られた巨大ロボット・エヴァンゲリオンと、それを操縦する14歳の少年・碇シンジを中心に展開する。こう書くと、巷にどこにでもあるロボット・アニメの一変形と思われるかもしれないが、この主人公・シンジ少年のキャラクターが、これまでになく、ユニークだった。どこが、といえば、このシンジは、“イジイジしていた”のである! いや、なぜ“!”をつけてまで強調したかというと、これはロボットアニメにおいて、ありうるべからざる設定だった。アニメの主人公の男の子というのは、これまでどんな作品の主人公であれ、元気いっぱいの無鉄砲、というのが通り相場だった。『機動戦士ガンダム』のアムロだって、登場時こそ臆病な少年だったが、それは彼がガンダムを操縦する戦士になっていく次第に成長していくドラマの伏線に過ぎなかった。この『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公は、幼少期のトラウマと、父(エヴァを開発した組織ネルフの司令)との良好でない関係にずっと縛り付けられていて、そこから脱却できないまま、成長しようとしない“永遠の少年”という設定であった。そして、彼の精神とシンクロして動く汎用人型兵器エヴァンゲリオンもまた、強大すぎる力を制御してはじめて利用できる“縛られた巨人”なのである。

 「ありうべからざる」ね。あと、エヴァンゲリオン「汎用人型決戦兵器」
 しかし、アムロの内向的な性格が伏線に過ぎないって、そうかなあ? 別にアムロは成長しても熱血ヒーローになんかなっていないし。だから、シンジくんではなく、アムロこそがロボットアニメの主人公として画期的であったというべきではないか。それに『Ζ』のカミーユだってロボットアニメの典型的な主人公のキャラクターからはだいぶ外れている。…そういえば、『ガンダム』ファンの今野敏氏がいつだったか「アムロでさえ「僕はあの人に勝ちたい!」って言ってたのに!」とシンジくんのことを怒っていたのは面白かった。気持ちはよくわかります。ちなみに今野氏は『慎治』(中公文庫)という小説も書いていて、これは少年がガンプラを作ることで成長していく物語。なぜか宮崎哲弥が絶賛していた。
 あと、シンジくんは劇中でまったく成長していないわけではないTVシリーズでも旧劇場版でも最後の展開のせいで誤解されているのかもしれないが。
 

 自分がすごい力を持っているという確信はある、しかし、それを世に問うだけの自信はない、という当時の若い世代にこの設定は非常にウケた。シンジくんは僕のことだ、と思い込む、通称“エヴァ中毒者”が続出し、この作品は社会現象になったのである。

 「若い世代」みんなが「自分がすごい力を持っているという確信はある、しかし、それを世に問うだけの自信はない」と思っていると決め付けているのが凄すぎる。そんなものは人によるだろう。…ああ、だから、シンジくんが成長していないことにしたかったのか。
 それから、きわめて単純に言えば、『エヴァ』がブームを起こしたのは作品自体が優れていて、そのうえ作品に秘められた数々の謎が魅力的であったからなのではないか。少なくとも自分は『エヴァ』という作品は好きだけどシンジくんはちょっとなあ…と思っているのだが。

 そして、暴動一歩手前とまで言われた騒ぎが起こったのは、最終二話と呼ばれる二回分の話の、よく言えばユニークさ、によるものだった。
 そこでは一切の謎を解明することなくひたすら主人公の、自分の内面との語りが描かれていた。暗い画面の中、パイプ椅子に座ったシンジの周囲に、これまでの登場人物たちが入れ替わり立ち替わり(原文ママ)現れて語りかける。葛藤、混迷、苦悶の後に、シンジは希望を見出し、
「僕はここにいてもいいんだ」
 とつぶやき、周囲の人々が拍手して唐突に物語は終わる。アニメを見慣れた者から見れば、最終回に向けての動画作成などが間に合わなかったための苦肉の策とも見えるこの終わり方だったが、若い世代にとって、文学よりも哲学よりも直接に、自分とはなんだ、という問いかけをしたシンジ、そして、ヒロインでありながらクローン人間で、自分が死んでもいくらでも代わりがいる、という虚無的な考えを持つキャラクターである綾波レイは、世代の象徴となったのである。

 途中でいきなり学園ラブコメになったりすることにも触れたらいいと思うのだが。それに旧劇場版のこともね。なお、「最終2話」があのようなかたちになったことについては、スケジュールだけが原因ではないとする見方もある。小黒祐一郎氏によれば「最終2話」の内容は放映の2ヶ月前に決まっていたらしい(あと藤津亮太さんの意見も参考として)。まあ、唐沢俊一という「アニメを見慣れた者」の意見も拝聴させていただきますが。

 もちろん、スロットに採用されたシーンはそんな陰気な部分ではなく、完成度の大変に高い三機攻撃やヤシマ作戦などの名シーンが再現される。こういう燃える戦闘シーンの質の高さが、話のユニークさの影に隠れてあまり語られないのも、この作品の不幸といえるだろう。

 
 「僕はパチスロをやっていてもいいんだ!」→「おめでとう」ってボーナスが出たら楽しそうだけど。しかし「陰気」かあ。唐沢俊一は『エヴァ』が「陰気」だから批判していたのだろうか。
 また、「三機攻撃」とあるので、てっきり「奇跡の価値は」でサハクィエルを受け止めるやつだろうと思っていたら、「まごごろを君に」の公式サイトにある「三機攻撃」はエヴァ三機でシャムシェルを倒すというTVシリーズや劇場版とは違う展開になっている。…「名シーンが再現される」って、もしやこのシーンが本編にもあると思っているのでは。「ヤシマ作戦」も「新ヤシマ作戦」だし。
 それにしても、唐沢俊一は『エヴァ』の「燃える戦闘シーン」についてもっと語って「作品の不幸」をなんとかしてあげればいいのに。


 さて、本文以外にも、キャプションにもおかしなところがある。まずひとつめ。 

シンジと綾波レイの関係は、自分の存在そのものを完全肯定できない同士(原文ママ)の心の傷を媒介にした結びつきという、かつてのアニメにない男女設定だった。もう一人のお姉さん的ヒロイン、アスカの影が薄くなってしまったが。

 アスカに「あんたバカぁ? この泥棒!」って罵られそうだな。「このバカシュンイチ!」にしようかと思ったけど、ある意味ご褒美になりそうなのでやめた。あとは『エヴァ』の「お姉さん的ヒロイン」はミサトさんなのでは?とか綾波ってトラウマあったっけ?とか思ってしまったり。

もうひとつ。

エヴァの出動シーンは、深い地底からエヴァが“射出”される。深刻なストーリィにもかかわらずエヴァパチスロの人気キャラなのは、このシーンがパチンコ・パチスロとのシンクロ率が高いからか?

 パチンコならともかく、パチスロで何が「射出」されるんだ? パチスロをやったことないんじゃないか?という疑惑が再燃する結果に。


 『エヴァ』を「キチガイアニメ」(宝島社のムック『実録!サイコさんからの手紙』収録の文章より)とまで罵っていた唐沢俊一が、よりによって『エヴァ』を紹介しなければならなかったのだから心中穏やかではなかっただろうが、それにしてもエヴァ』についての知識がウスいと言わざるを得ない。よくわからないままに批判していたのだろうか。『エヴァ』を批判するのであれば、ファンを黙らせるくらいの文章を書いてほしいところだが、この程度ではなあ、とガッカリしてしまう。
 ちなみに、唐沢が『エヴァ』について取り上げている文章が他にもまだいくつかあるので、タイミングを見て紹介していきたい。

 
 『金曜ロードショー』で『序』を観ていたら更新がすっかり遅くなってしまった。最近はコンボイ司令官が実写になったり、ウルトラマン80仮面ライダーBLACKが帰ってきたり、そして『エヴァ』がもっと凄くなって帰ってきたりで、夢がかないすぎでなんだか怖い。

※追記 とおりすがりさんのご指摘に基づき訂正しました。
※追記2 藤津亮太さんのご指摘に基づき訂正しました。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 特装版 [DVD]

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 特装版 [DVD]

慎治 (中公文庫)

慎治 (中公文庫)

トランスフォーマー スペシャル・コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

トランスフォーマー スペシャル・コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

ウルトラマンメビウス Volume 11 [DVD]

ウルトラマンメビウス Volume 11 [DVD]

仮面ライダーBLACK VOL.1 [DVD]

仮面ライダーBLACK VOL.1 [DVD]